農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》  (財)協同組合経営研究所・元研究員 今野 聰
深谷泰造 著
『知多半島 世界健康半島を夢見て』

定価:2,200円+税
発行所:鳥影社
tel:03-3763-3570
発行日:2006年11月17日

深谷泰造 著 『知多半島 世界健康半島を夢見て』

 深谷泰造氏は、2002年愛知県あいち知多農協副理事長を退任、1953年大府町農協に入所以来の農協マン現役から退いた。1933年生まれ。本書のサブタイトル「農協マンがめざした地域づくり」がふさわしい自叙伝になった。稀有の協同組合実践の書である。しかも愛知県知多半島の農業と地域が地域色豊かに響く、そういう書だ。600頁の厚さに圧倒されそうである。ともあれ本書の特色を挙げよう。
 第一は「一人は万人のために、万人は一人のために」という標語がぴったりの地域協同組合づくりで、多くの実践事例がある。1970年代以来、全国いたるところで農協合併是非論が続いた。現在でも無理な合併をして苦闘する事例も散見される。これに対して、愛知県知多半島地域は、そうした無理が見えない。1974年2月、大府、東浦、阿久比、半田の四農協が東部、他に西部と2区分した。しかも半田地区を理由の通る離脱にして外し、合併東知多農協が1974年2月発足した。それ以降、半島全体が地域一本化する道をつづけていることだ。その中心に「地域づくり」がどかんと座る。まさにレイドロウが「2000年の協同組合」で日本の総合農協をコミュニテイづくりの先進モデルとしたその例といってよい。著者の主張を読む限り、職能か地域かの不毛な議論は全く無い。
 第二は、農協を「閉鎖組織」にしないという強烈な主張である。それだけ地域を意識した運動・事業の展開になる。本紙1997(平成9)年10月1日付け第21回JA全国大会特集で対談したときの発言を引用しよう。
 「今までのようなすべて縦で考える事業方式ではなく、横で仕組むことがどうしても必要になってくる」
 「我々はかなり前からコメ以外では直売方式で地元に販売することを積極的に進めてきました」
 このことは、「営農とくらしの総合センター構想」(1993年)となり、「JAアグリタウン・げんきの郷」2000(平成12)年12月23日オープンとなって実現された。20億円ほどの取り扱い高である。ここには購買事業とか直販事業とかの難しい事業区分はなさそうだ。
 第三は1959(昭和34)年、大府町農協本部での取付け騒動とこの難局を克服する血の滲む経営努力。それがあって、昭和38年、長期共済新契約全国第一位で農林大臣賞を受賞したことだ。こうした軌跡は、昭和10年戦前の産業組合法によって設立された初期組合以来、組合の歴史と伝統を全組合員、全職員のものにする日常の生活スタイルに定着している。著者が、昭和29年協同組合学校に1年在学した経験は、それを裏打ちしている。
 これらの特徴は、全て優れた事例の集積結果ではある。大府高校野球部の試合記録もまた著者が若者教育に如何に心血を注いできたか、その証でもある。
 あとがきによれば、「東知多農協で培ってきた姿が失われようとしている」との心配を聴き心痛するともある。地域合併農協への危惧とも受け取れる。巻末関係資料、年表が丹念である。読みやすさを手伝ってくれる。現在の協同組合運動の難局を見るとき、単にJA組織だけではない、生協組織にも推薦したい。

(2007.4.6)

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