元全国農協中央会職員にして現在は茨城大学教授の河野直践さんが昨年秋からこの春にかけて、協同組合(農協ではなく)に関する本を立て続けに3冊出版した。まず、協同組合経営研究所から『新協同組合とは』(改訂版)、創森社から『協同組合入門』(ただし編者)、そして家の光協会から『新協同活動の時代』。その中からここでは最新の『新協同活動の時代』を紹介する。
河野さんは1961年生まれだから、私よりも二回り若い世代だ。そして東京生まれの東京育ち。大学では法学を学んだ。だから、農業の世界では「畑違い」、農業経済学者としても「変わり種」と自称する。しかし、畑違い、変わり種だからみえてくることや、表現できることがある、そう考えて雑誌『地上』に03年10月から06年12月まで連載したのをまとめたのが本書である。
本書の構成は、「協同力」の時代だ、「農と食」のルネッサンス、「自給力」ルネッサンス、「地域と生活」のルネッサンス、こぼれ話「協同力」アップ術、の五章から成る。
第1章では、駅の窓口での風景、ケータイ、テレビやパソコン、ペットボトルなど身近なテーマから最近の世相を考え、流される人のことを振り返り、いのちの視点を取り戻そう、農山漁村や農林水産業の世界こそ「いのちの宝庫」、今私たちにとって大事なことは、何がホンモノで何がニセモノかを「いのち」の視点で見抜くことだ、と運ぶ筆さばきは見事だ。ついつい河野さんの軽いノリに引き込まれていく。そして、競争力より協同力を、これからは協同組合の時代だ、いまこそ協同組合の出番だ、と話を展開していく。
しかし、例えば農協は戦後だけ見ても設立から60年も経っており、あちこちが病気にかかったり、くたびれたりしている。問題は、それをどうつくり変えていくか、だ。
河野さんは、そのためには未来を展望する新しい視点で協同組合としての使命を人々に訴えていくこと、組織の革新、トップダウンの方式を柔軟で組合員の自主性を尊重したやり方に変えていくこと、の3つを提案している。さらに大事なことは、少しずつでもできることから着手することだ、という。
第1章は総論にあたる。続いて地域生協の農業への取り組み、有機農業の専門農協、農産物直売所、元気な漁協、国産紅茶の生産、森林づくりをサポートする大学生協、高齢者生協など全国各地の楽しい事例を見せてくれる。章のタイトルにそれぞれルネッサンスという言葉が付けられているゆえんだ。
各地の事例は、やりようによっては、楽しくかつふところにも役に立つ仕事がいっぱいあることを示している。農業や漁業、林業はおしなべて暗雲が立ち込めているが、考えて見れば、人がいて、飲んだり食べたりしている。その人達の食料をすべて外国産で賄うことはあり得ない。巨大な胃袋、マーケットが回りにあるということだ。
紹介されている事例のなかでは、筆者は水戸農協の渡里直売所、大洗の「海・山産直センター」の立ち上げに関わっているので、おやおやと思いながら読んだ。国は、国が認めた担い手を中心にしてこれからの農政を進める、としているが、筆者の近くではそういう農家はごくわずか。農協の役割は、小さな担い手が継続して農業にいそしめる環境を作ることだと考えている。そのための有力な手だてはやはり地域循環、地産地消型農業だと考え、農協としてこの3月に「今、地域農業の出番です」という農業振興計画を策定した。それを実行していく中で、これから河野さんにも手伝ってもらおう、と考えている。
存在理由を失った組織は滅びる。激しい競争社会のなかで、あらためて協同とは何かを考え、自信を取り戻すために、農協の職員に読んでもらいたい本だ。
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