副題「パルシステム急成長の舞台裏」が興味深い。つまり生協パルシステムの供給高1534億円、供給剰余14億円(05年度末―本書データ)の、本当の舞台裏がみえるかどうかが本書を読む関心になる。本書の特徴に触れよう。
第1は、あとがきにある通り、実に多くのメンバーが寄稿していることだ。80名の原稿メンバー、16名の購読メンバーが本書の構成の原動力だとある。その多彩さはパルシステムが1980年代末から、個配と個人参加の生協運動に挑戦した結果でもある。
第2は、本書構成のユニークさ。第1幕「豊かな人間力」、第2幕「誇りの持てる仕事」、第3幕「夢を実現できる組織」と、つまり3章構成にしたことだ。そこに「シーン62」を全10場として、全体を劇場構成にした。それが成功したかどうか。これは意外と読み手にかかわると実感した。
そして第3の特徴は、なんといっても生身の個人登場である。例えば第1場(いわば総論)に続く第2場に、石塚美津夫氏がいる。タイトルは「冬水田んぼとの出会いで変わった農業観・価値観」。10年間の有機農業を総括する。
「ホタルは田んぼのまわり、メダカは田んぼの水の中、イトミミズやミミズは土の中―3つの生き物はそれぞれ環境のバロメーターになっているとも感じている」。
これが圧倒的に説得的だ。なぜか、新潟県の農業生産者自身の実感吐露だからである。本人はJAささかみ職員でもある。新潟コシヒカリの値段がどうかなど俗論を超えているではないか。消費者の体験というと、即座にこうは行くまい。
さて理論編にも触れなければなるまい。本書全体の特徴が実感を吐露することは触れた。そこからはやや異質だが、理論編がある。例えば第3幕「夢が実現する組織」の木下斉「パルシステムの挑戦」である。「某大手生協事業連合」と敢えて言って、コープネットとの比較生産性、成長性優位を分析した。その上でいう。
「生鮮系食品などの多くはパルシステムが独自に取引をしており、急成長した今でも高い産直率を維持している」
同時に社会的課題と事業成長という「2つの軸を実現してきた」と。一ツ橋大学院の修士論文が基だという。おそらくもっと複雑性に係わった分析をしているのだろう。実際は難しい問題を孕んでいるからである。個人と協同(または協働)である。二律背反的命題が、ここにはある。本来協同の場は、個々人的場には成立し得ない。個々人であっても成立するには、高い協同性という意思が問われよう。「産直」が実現するには個々人が「産直の場」に参加しなければならない。単に食するだけなら、スーパー産直で十分だからである。それらの分析・検証がどうなっているか、文面だけからはわからない。続く若森資朗理事長発言や研修コーデネーター・兼子厚之説の「主体の協同による価値創造性」を深く検討する必要があろう。事実パルシステム組織内のシンクタンクが連続する研究テーマとして組織しつつあるので、それに期待したい。表題「100万人の人間力」は固まりではあるまい。
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