昆虫の雌雄が交信に利用しているフェロモンを大量にほ場に放出することで、雌雄間の交信をかく乱し交尾を妨害することで、次世代の害虫の発生を減少させるフェロモン剤の活用は、天敵などの益虫や他の生物への影響が少なく、自然界が本来持っている力を活用した防除方法として注目されている。
フェロモン剤や天敵を利用した生物的防除は、農薬散布による化学的防除や防除ネットなどの利用による物理的防除などさまざまな防除手段を組み合わせ、病害虫・雑草の発生を経済的被害が生じるレベル以下に抑制しそれを持続させるIPM(総合的病害虫・雑草管理)の強力な実践ツールといえる。
また、フェロモン剤による交信かく乱は1ほ場だけで導入してもその効果は期待できず、地域全体でいっせいに導入されなければ十分な効果をあげることができない。そういう意味ではフェロモン剤導入は、地域の結集をはかり、産地として今後あるべき農業の姿を具現化するツールだということができる。
JA全農では早くから果樹を中心に青果物生産でのフェロモン剤導入を推進してきている。すでにフェロモン剤を導入した産地では成果があがってきているが、全国的にみればまだまだ普及の余地が残っている。
そこでJA全農肥料農薬部では、実際にフェロモン剤を導入した果樹・野菜産地と市場の評価を現地レポートするとともに、フェロモン剤の特性と導入のメリット、導入から定着へのポイント、剤別の技術的な解説などをまとめた実践的なマニュアルとして本書を発行した。
食の安全・安心に対する関心は今後も高まることはあってもなくなることはないだろう。そうしたニーズに応えるためにはIPMに取り組んでいくことが、産地には求められることになるだろう。そのための強力なツールとしてのフェロモン剤を土台とした産地のブランド化という試みが必要になってくるといえる。このマニュアルはそうした産地にとって必携の書といえる。
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