米国産牛肉の輸入が再開され店頭に並びはじめた。この間、さまざまな意見がマスコミなどを通じて報道されてきたが、「牛肉が抱えている問題はBSEだけではない」と著者は指摘する。飼料となる遺伝子組み換え作物、抗生物質や成長ホルモン、過剰なエサの投与による病気など、消費者が知らないさまざまな問題があるからだ。さらに、日本における食料自給率の低下や急激な中国の経済発展と肉食化の進行、すぐそこまできている世界的な食料不足まで、肉の安全性を入口に、世界の食料問題まで踏み込んで論じている。
なぜならば、「BSE問題(食の安全)は、(1)食品安全委員会の改革(政治と行政の改革)、(2)食料自給率の向上(日本農業の再生)および(3)世界の貧困と飢餓問題の解決(援助と公正な貿易の実現)とセットで議論されるべきだと考える。そうでなければ、今、私たちが直面している食のリスクも、深刻な危機にある世界の食料問題も、決して解決することはない」と考えているからだ。
米国産牛肉問題は、BSE問題=食の安全性としてしか論じられないことが多いが、著者の指摘するように世界に8億人もいるという「牛のエサさえ食べられない」問題、輸出国にとっては、牛は外貨を獲得するための「経済動物」にすぎなくなっていること、そして輸入食料に依存している日本の食料問題などについて、もう一度、考えさせられる本だといえる。
著者は、生活クラブ生協神奈川に入職し活動後、英国・ブラッドホード大学大学院に留学、現在、生活クラブ・スピリッツ(株)専務として活動しながら、食品の安全性問題、国内外の生産・流通実態の把握調査に取り組んでいる。)
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