茨城県の地方紙『茨城新聞』の月初めに載る「社長からのメッセージ」を楽しみにしている。社長とは、主筆でもあり、知友の友末忠徳さん。毎回タイムリーな話題を提供してくれる。その5月1日付けは『品質求道』という本の紹介である。著者の竹田さんは鉄道マンから列車の食堂車を営業していた日本食堂(現NRE)に転じ、社長として、米国産の有機米を使い、現地で駅弁を製造、輸入することを手がけた人。当時、新聞種になり、農協の対応に問題があるなあ、と思っていた記憶がよみがえり、本書を手にした。
竹田さんは、「品質求道」の旗印のもと、会社の総力をあげて、食材の有機生産化や販売製品の厳密な温度管理手法の導入などを通じて、薬剤に依存しない自然回帰型の生産供給体制作りを試行し、実践してきた。飲食産業は生命維持産業だと言い切る著者は、大量生産至上主義から品質の時代へ緊要性を訴え、良心の商品化こそ経営者の責任だと強調する。本書は、著者が心血を注ぎ込み取り組んだ、安全性と品質を重視する顧客本位の飲食サービスへの改革と挑戦への記録である。
「農業は天と地によって無から生命を芽生えさせ、食物を育むという尊い営みである。人類が農業を覚えてから生産の向上と富の蓄積がはじまり産業となるのだが、土によって生産される自然の法則は変えてはならない」。
「日本人は迫りくる食糧危機を前に、食品をもっと大事に扱い、高品質で安全な食品を自給自足できる生産体制を作り上げるべきだ。それは、品質優位の食産業、農業を消費者が求め、国は必需食品として、高品質の米、大豆、野菜、塩など、主要食糧の自給率を上げ、いざという場合でも、国民の生命健康を守る体制をとるべきである」。
NRE社がアメリカ産の有機米を使った「オーベントー」を販売しようとした時、わが農協陣営は、国内で米が余っているのに、輸入などもってのほか、と抗議した。これに対しては「その頃農協は有機農産物の生産に熱心でなかった。コスト競争では勝てなくとも、品質では負けない日本農業にとって、こうした食品会社は大切な存在である。抗議ではなく提携する相手ではなかったか。この弁当の優良食材はわが農協が提供しました、と宣伝できたのに」という当時の「朝日新聞」の記事を紹介している。これまで、全農は外国産米を輸入米の価格形成の牽制、動向把握という理由を付け、子会社経由で輸入してきたが、つじつまをどう合わせたのだろうか。
今日の農業、農協に向かって、政府、財界、生協、マスコミなどから猛烈な風が吹いている。これに対して農協陣営は音無しの構え。情けなくなるくらいだ。今、農業、農協理論を再構築して、国民の食料生産、供給に責任を持つ農協として、あるべき論を展開すべきではないか。その支柱として竹田さんの骨太の論理を活用すべきだ、と本書を読んで強く感じた。農協、生協関係者に奨めたい一冊である。