■ 自著を語る ■ | 北海道大学大学院教授 三島徳三 | |
農業者の本音を代弁 価格政策の方向を打ち出す 『農政転換と価格・所得政策』
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以上は、本書の「まえがき」の冒頭部分である。日本農業市場学会(会長・村田武九州大学教授)では、その前身の農産物市場研究会時代を含め、その時々の農業・食料情勢に即したテーマを掲げて研究例会を行うとともに、その成果を中心にこれまでに8冊の研究叢書の出版を行ってきた。そうした学会の出版活動の延長線上に、今回、『講座 今日の食料・農業市場』〔全5巻〕の出版を企画した。本書(第2巻)がシリーズのトップ・バッターを務めたわけだが、年末から来春にかけ『第3巻 流通再編と食料・農産物市場』(滝澤昭義・細川允史編)、『第4巻 日本農業の再編と市場問題』(三國英実・来間泰男編)、『第1巻 グローバリゼーションと国際農業市場』(中野一新・杉山道雄編)、『第5巻 21世紀食料・農業市場の展望』(中嶋信・神田健策編)が、いずれも筑波書房から出版される。 本書(第2巻)では、ウルグアイ・ラウンド農業合意を前後して農政の国際的潮流となっている農産物価格政策の縮小再編と所得政策導入の過程を全面的に分析し、その政治経済的意味を探ろうとした。具体的には、まず第一章でEUの農政転換の特徴について農業構造の変化に注意しつつ分析がなされ、第二章でこの転換へのフランス農政の対応について同国の新農業基本法を中心に特徴づけを行った。そして第三章では、米国農政の実態が分析され、同国の農政転換が価格政策を全面的に放棄するものでないことを明らかにした。 本書の共通認識は、農業者の再生産と所得確保を図るうえで価格政策の役割は依然として大きい。そのため、価格政策を廃止するのではなく、適切な輸入規制と連動しその再構築を図ることが必要である、という点にある。こうした立場は、現在の農政の方向と明らかに対立する。だが、われわれが現場で農業者と腹を割って語る時、大部分の農業者が価格の適正化と安定化を求めていることを知る。そうした農業者の本音を代弁し、価格政策縮小の問題性と今後の政策方向を打ち出したのが本書である。多くの農業関係者がこれを読み、われわれに知恵を授けてくれることを願っている。 |