農業協同組合新聞 JACOM
   


自著を語る 大金義昭 (社)家の光協会 制作本部編集委員
「風のなかのアリア−戦後農村女性史」
「風のなかのアリア−戦後農村女性史」
(ドメス出版)

 大金義昭 (社)家の光協会 制作本部編集委員 


 本紙による年に1度のJA全国女性大会特集号のシリーズがなかったら、拙著は生まれていません。あれは、平成9年。その年の本紙特集号に、拙稿「おんなたちは海 地域を変えるたおやかなうねり―JA女性組織の戦後五十年」を執筆・掲載させていただいた早春のことです。
 日本文化厚生農協連の高杉進さんがわたしを訪ね、神楽坂の喫茶店でお会いしました。高杉さんは当時から、同連合会の機関誌『文化連情報』の編集長を務めていました。その彼が、本紙の拙稿を読み、『文化連情報』に「おんなたちのルネサンスPARTU」の連載を持ちかけてくれたのです。「熱っぽい女性の生き方が、農村をつくっている」―その戦後史を、とりあえず1〜2年の予定で続けたいと言います。わたしは面談の主旨をその折りいただいた名刺の裏にメモし、以来、7年間にわたり、その名刺を手帳の差し込みに入れ、持ち続けることになります。のべ8回の月々の送稿を、名刺のファックス番号で重ねてきたからです。
 本紙の特集号シリーズは、その後も5年続き、全国協同出版から『農とおんなと協同組合』として上梓し、いまも三刷で好評をいただいています。青木恵子さんは、その節お世話になった編集担当者です。そしてこのたびは、『文化連情報』の連載に十数本の新たな書き下ろしを加え、多数の脚注や写真を添え、A5版・上製・462ページの大冊として刊行する運びになりました。地下鉄南北線・飯田橋駅の神楽坂出口で新刊を手渡してくれたドメス出版の夏目惠子さんは、完成をわがことのように喜びサイン用のホワイト・ペンまで購入してくれたうえ、「いの一番に著者のサインをいただくのが習わしなので、よろしくお願いします」と文具店内での揮毫を求めてくれました。
 つむじ曲がりで、本来、無精者のわたしが、煩雑な日々を送った50代全般を通して、ささやかな執筆活動を続けてこれたのは、同時代を情熱的に伴走してくれた編集者の皆さんのお蔭です。とりわけ「拙著にして拙著にあらず」というのが実感です。埃に埋もれた文献をひもといた地味で愚直な作業は、わたし自身のものですが、本書は農村女性の赤裸々な手記や作品から成り立っています。
 農村女性の手になる記録はもともと数が少なく、その技巧も虚飾もない、素朴で率直な肉筆や肉声は、読む人を圧倒します。地を這う“乳役無角牛”の地位から、女性起業の担い手として天翔るに至る姿は、あたかも幼虫からサナギに、そして蝶のように変身していく様子にも重なります。また、60年の戦後史を縦に貫く生々しい証言集とも言えるでしょう。
 上梓までに8年の歳月を要しましたが、農村女性の戦後の軌跡をたどり、日本人が手にしてきたもの、失ってきたものをともに振り返ることができれば幸いです。

<略歴>
(おおがね・よしあき)昭和20年栃木県生まれ。早稲田大学法学部卒。(社)家の光協会制作本部編集委員。月刊誌『家の光』『地上』編集部、文化センターふれあい課、総合企画局事業開発室などを経て文化センターと編集局の局長から現職に。この間、JA全中に2年間出向。新潟県安塚町の「雪だるま特派員」などを務める。
 主著に「野男のフォークロア―極北の歌人・時田則雄と農をめぐる世界」(砂子屋書房)「おんなたちのルネサンス」(富民協会)「農とおんなと協同組合」(全国協同出版)などがある。



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