本書は、本年3月の食料・農業・農村基本計画の決定を踏まえて、その批判を目的として書いたものです。財界はこの際に、新基本法の制定時には果たせなかった「戦後農政の総決算」を果たそうとしました。その野望がどこまで達成されたかを問うのがタイトルの意味です。
しかし結論的にいって「戦後農政の総決算」は中途半端に終わりました。そこで本書も新基本計画の検討それ自体は一章にとどめ、関連する論点を取りあげるようにしました。
第一章は、国民を支配体制側に引きつける社会的統合政策という観点から、高度成長以降の日本農政を振り返りました。そして今日もなお、食料自給率の向上や食の安全性をめぐって、生産者・消費者と財界の間に鋭い対立関係があることを強調しました。
第二章は、新基本計画をとりあげ、その最大の特徴が政策支援を40万の「担い手」経営に限定する選別政策の点にあるとしました。しかし支援策と言っても、品目別交付金等を品目横断的に組み替えるだけのことですから、予算が増えるわけでもなく、担い手育成にも自給率向上にも資さず、対象を絞るだけ逆効果であることを明らかにしました。
第三章では、株式会社の農地所有権の取得という「戦後農政の総決算」の最大の争点をとりあげ、転用統制の強化、土地利用計画、事後規制といった財界筋の主張がいかに欺瞞的で実効性がないかを明らかにしました。研究面ではポイントになる章です。
第四章では、農業生産法人による地域農業再編の事例をとりあげて紹介しました。
第五章は、少し目先を変えて、お隣の韓国の農政と農業をみました。日本と韓国は驚くほど似ている面と違う面があり、書き手として一番面白かった章です。韓国と日本が農政面でももっと協力しあう必要がありますが、そのためには深い理解が必要です。
「おわりに」で本書の基本論理を再整理するとともに、「東アジア共同体のなかの日本農業」という歴史的展望にたった農政のあり方を論じました。財界はアジアとのFTAに熱心で、農業を邪魔者扱いにしていますが、国民サイドにたって各国農業の多様性が活かされる「東アジア共同体」を展望する必要があります。お急ぎの方は「おわりに」を読んでいただければ私の主張をご理解いただけるのではと思います。
本書は、新基本法農政に関する私の4冊目の著書、ブックレットを入れれば6冊目になります。農政の展開が速く、それを曲がり角ごとに追いかけていたら、そうなってしまいました。財界の狙う「戦後農政の総決算」は、株式会社の農地所有権取得、農協解体(信用共済事業の分離、全農分割、JAのJR化)の2点において、未だ達成されていません。
そこで本書の執筆直後からまたぞろ財界等の提言活動が活発になり、日生協までそれに同調するようになりました。農政は掛け値なしの最終決戦を迎えています。早くも本書の続編を準備しなければなりませんが、それだけではちっとも面白くない。全国各地で食料・農業を守るユニークな取組みが見られます。これらの「農業の協同を紡ぐ」動きを追いかけご紹介するような楽しい仕事を通じ、財界に事実をもって反論したいと思っています。
(2005.8.11)