本書を執筆したのは、最近の農協批判を許せないと思ったからである。これまでも様々な批判があったが、それは農協本来の機能を果たしていないことに対してであった。しかし最近はまったく異なり、農協の存在を否定するような批判が多くみられる。このような情勢なので、現在農協が直面している課題は、この批判と闘いながら協同組合本来の活動を如何に強めるか、である。
こうした問題意識から、本書では第1に最近の農協批判の特徴と背景について検討した。そこでは最近の批判は、「組合員平等原則」、「総合農協」、「農政対応」、「独禁法適用除外」の4つに集中していることを示し、何れも協同組合原則の否定と農協解体につながる危険性があることを明らかにした。その上で、最近の批判は新自由主義を基調とした政策に真の要因があり、農協解体は独占的大企業の農業・農村への一層の進出を目指すものであることを強調した。
この批判を克服するためには、農協自体が協同組合本来の活動、具体的には協同組合原則と価値実現を目指した活動を強めることが何よりも必要である。そのため第2には、ロッチデール組合やオウエンなど協同組合の先駆者たちの思想を検討し、その現代的な意義について検討した。ここでは、近年世界の協同組合でも非協同組合化が進んでいるが、一方では地域コミュニティー建設を重視した新たな活動もみられ、ICA決議やILO勧告でも協同組合の存在意義と役割が改めて重視されている。わが国の協同組合=農協にとってもそれが課題であることをとくに重視した。
このような活動は、わが国の農業・農村の実態に即して実践されるべきである。そこで第3には、産業組合と農協の設立経過およびわが国の農協の特徴について検討した。その結果、産業組合には国策推進の一環として設立された特徴がみられ、農協にもそれが基本的に引き継がれており、現在みられる総合経営、行政区域単位の組織、全農民加盟も、わが国の農業、農村の特徴と協同組合の歴史を反映した結果であることを示した。
したがって、今後はこうした歴史的経過もふまえ、協同組合原則と価値実現の観点から、組合員と地域を基本とした本来の協同組合を目指すことが重要なことを強調した。
最後に農協改革の課題と方向について検討した。ここでまず指摘したのは、改革理念を「はじめに経営ありき」から「協同組合原則と価値実現」に転換することである。その理由はこれまでも全国農協大会をはじめ各段階・各組織で対策が講じられてきたが、依然として強い批判がありまた不祥事もみられ、それを改善するには改革理念そのものの転換が必要と判断したからである。
この理念転換を基本に、農業、農村の多様化に対応してまず組織対策として重要なのは、農協は作物別生産者組織だけでなく管内にある様々な農業生産主体のネットワーク化などにより、地域農業対策をトータルとして推進すること、また各種組織の自主的、自発的活動を強める上でも「小協同組織(組合)」の組織化を図ること、混住化に対応し非農家・農業の課題への取り組みも強めること、などを課題として示した。
また事業上では、協同組合=農協として私企業とは異なる特徴を活かしその有利性発揮に努めること、さらに農協を従来のトップダウンを基本とした組織から、本来的なボトムアップ組織への改革を目指すこと、そのためにも農協役職員、とくに組合長をはじめとするリーダーが協同組合の将来に確信を持って活動すること、が大切なことを強調した。
いずれにしても、多くの方々、とくに協同組合=農協の改革発展のため日夜奮闘されている方にご一読願い、率直な御意見を期待している。
(2006.4.13)