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■自著を語る■ | 田代洋一 横浜国立大学教授 |
「集落営農と農業生産法人」
(筑波書房) 田代洋一 横浜国立大学教授 |
いま、集落営農がフィーバーである。経営安定対策に乗ること、乗せることが直接の動機だが、その一環として農協出資法人がはやりになっているし、なかには500ヘクタールの水田集落営農(岩手県紫波町)、700ヘクタール、1300ヘクタールの麦作組織(JA埼玉ひびきの、JA岡山)など、とてつもなく大きな超「集落営農」も出現している。 それは4ヘクタール以上の認定農業者や経営実態を備えた集落営農でなければ政策対象にしないという農政の非現実性に対する対抗措置として、それぞれの地域、農協が編み出した苦心の策であり、それぞれの現実に根ざしたものだろう。 本書はこのような動きを横目で睨みつつ、そこからは一歩おいて集落営農や法人化の原点、初心をみつめようとしたものである。そのため東北から南九州まで30数の任意組織、農事組合法人・有限会社・株式会社形態の農業生産法人のリーダーを訪ね歩いた。本書が自負するのは、特定の地域や一定の形態だけでなく、いろんな地域のいろんな協業形態を取りあげ、その地域基盤の広がり、組織の生い立ち、リーダーや参加者のプロフィール、土地利用、経営収支等の実態を詳しく報告している点である。 これら地域協業組織には3つくらいのタイプがある。1つは少数担い手農家が「むら」の了解の下に受託組織を立ちあげるもので、東北を典型としつつ全国に散在している。2つは地域ぐるみ組織で、その多くはオペレーター集団が機械作業を担い、地権者等が水管理・畔草刈り等の管理作業を担うもので、北陸から西日本にかけてが多い。3つ目は本書ではあまり触れられなかったが、転作は協業対応、水稲は地権者対応というもので、東北や北九州を核にしているが、経営安定対策下で各地に増えることと思われる。
これらの協業組織を訪ねると、中心になっている人物は意外なほどJAのOBが多い。定年後に地域に戻る人、勤めなかばで組織の立ちあげに飛び込む人などさまざまだが、誰に言われたわけでもない自らの使命感を内に秘めたベテランが多い。 前述のようにJA出資法人がはやりだが、地元ではJA出資が諸手を挙げて歓迎されているわけではない。カネを出してもらえば、やれ資材だやれ米の販売先だとクチも出されることへの警戒心がある。それよりも運転資金の確保だとか、有利販売先の確保だとか、経理事務の手助けだとか、農協本来の機能が期待されており、真の地元ニーズに応えることが必要だ。そういう今日的な論点にも言及したつもりである。 調査先に本書をお送りしたが、都城市の農事組合法人「夢ファームたろぼう」の組合長の娘さんで事務担当の方から、「父は7月に亡くなりました」とお便りをいただいた。悲しんでいる余裕もなく、残された者達が一丸となり組合長の築き上げたものを守っていかねばならないと意思を固めた、と添えられていた。 地域協業を組むということは、そういう人びとの心根の問題でもある。そのことをお伝えしたく、ご一読を願う次第である。 |
(2006.10.23) |
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