過去から現在への日本農業の150年を追った英語本の刊行
原油に端を発した穀物価格の世界的高騰による日本の畜産経営や国民生活への打撃、中国製冷凍ギョーザ中毒事件、ジュネーブでのWTO交渉継続、地球温暖化、どれをとっても日本の農業と食の国際的繋がりの深さをあらためて痛感させられる。日本の農業と食の問題の現況のみならず、その歴史的足跡もまた世界の多くの途上国や先進国に示唆に富む問題を投げかけている。われわれ日本人は、こういった日本の農業や農民、食の問題をもっと世界に向けて発信し、世界の人々と認識を共有できる場を拡げていく必要があるのではないか。
そういう思いから、こんど日本の農業の過去から現在に至る150年の歩みを追った著書をインドの出版社から英語で出版した。何といっても英語は世界でもっとも広く普及する言葉だ。題して、”Agriculture
in the Modernization of Japan(1850-2000)”,Edited by Shuzo Teruoka,Manohar,2008,India。375ページのかなり大部の本だ。思いたってからかなりの年数がたつが、いろいろ苦労を重ねた末にようやく出版にこぎつけた。外国人向けに書かれた本だが、日本でも農協関係者が、外国を訪問したり、外国人と接したり、国際場面での活動をされるときに、この本を活用していただければと思う。
この本の姉妹編である日本語版『日本の農業150年 1850〜2000年』を4年前に有斐閣から刊行したが、英語版では、日本語版の、明治維新期から太平洋戦争での敗戦に至る「戦前期」を大幅に割愛し、以後、現状までの「戦後期」に重点をおくこととし、そこでも外国人むけに日本語版の叙述を整理した。そのうえで、英語版のために新たに「序言」と、各章ごとをかなり詳しく要約し、さらに全体を概括した”Introduction"を付け加えた。いうまでもなく、英語版でもその分析と論議の基本線は日本語版と共通している。
この本は、日本が農業国の状態から近代化を開始する明治維新期以降、こんにちの「経済大国・農業小国」になるまでの150年を7つの時期に区分し、それぞれの時期の農業、農民、食料問題の特徴を明らかにしている。そのさい、それぞれの時期に日本が置かれた国際関係と、そのもとでの日本資本主義経済の構造と特徴と関連させながら、問題を明らかにしていっている。
紙数の関係から、この本の内容には立ちいれないが、簡単に章別編成のみ記しておこう。1.The Agrarian Origin of Modern
Japan(明治維新期、〜1888)、2.The Establishment of Japanese Capitalism(〜1910)
3.The Transition to Monopoly Capitalism :World War Tto the Great Depression(〜1930)4.The
Great Depression through World WarU(〜1945) 5. Reconstruction of Japanese
Capitalism and Land Reform under Occupation(〜1950)6.Rapid Economic
Growth(〜1970年代始め)7.Japan's Emergence as a Major Economic Power and
a Minor Agricultural Nation(〜2000)。
日本語・有斐閣本は、すでに2004年にハングルに翻訳されて韓国で出版され、また、中国語への翻訳もいま行われて近く出版される予定とのことだ。こうして、こんど出版された英語本とあわせると、アジアを中心に世界の多くの人々に、日本の農業と食料問題の基本を知ってもらう機会が提供されることになり、嬉しく思っている。
(なお、この英語本は日本では、極東書店で取り扱っている(Tel:03(3265)7531)。頒価4698円。
(2008.2.14)