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コラム
消費者の目

味きない世の中、味のある野菜を

 本箱を整理していたら、北原白秋の詩集「思い出」が出てきました。昭和59年8月8日、福岡県柳川市を訪れたときに購入したもので、柳川の旧家、立花家のお屋敷「御花」でのみ売られていた復刻版です。白秋の詩集「思ひ出」(明治44年に発行)は柳川の町が育んだ白秋の思春期の欝鬱とした思いと同時に鮮烈なまでのパッションが溢れていて、忘れていたあの頃を思い出させてくれます。本当にあの日の柳川は暑かった・・・・・・・。
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 白秋は作曲家・山田耕作との間に「からたちの花」や「この道」など多くの日本人に親しまれている作品を残しています。「からたちの花」には文字通り「からたち」が、「この道」にはアカシヤの花が登場します。この他にも、白秋の詩にはたびたび植物が登場します。
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薔薇の樹に薔薇の花咲く
何事も不思議なけれど
       (北原白秋)
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 バイオテクノロジーの進歩は、将来バラの樹にバラ以外の花を咲かせたりするのかもしれませんが、今でも接ぎ木の技術で「かぼちゃの台木にきゅうりの花を咲かせたりしている」訳で、白秋の生まれた明治時代とは大きく変わってきています。
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 病気や連作に強くなり収量が安定する一方で、接ぎ木のきゅうりは皮が厚くなるとベテランの農家さんが教えてくれました。「接ぎ木でない苗を使ったきゅうりは皮が薄く、味が良いんだ。食べ比べてみればすぐに分かる。
自動接ぎ木ロボットなども開発され、接ぎ木苗が大量生産できる現在では、市場の大部分が接ぎ木のきゅうりで占められているようです。残念ながら私たち消費者は接ぎ木でないきゅうりの味を忘れてしまっており、たまたま接ぎ木でないきゅうりに出会ったとしても、その価値に気がつく人は少ないだろうと思われますが、ちゃんと説明してやれば消費者に支持される売り方が出来るかもしれません。
 品種が変わってしまっているので昔ながらのきゅうりの復刻版を作ることは容易ではないでしょうが、おしゃれなドレッシングではなく、「味噌」や「塩もみ」がよく合うような懐かしい「きゅうり」をもう一度食べたいと思っている消費者は少なからずいるのではないでしょうか。
 便利さだけを追求して世の中がどんどん味気なくなっている中、味のある野菜を生産する農家とそれを正しく評価できる消費者との出会いを願いつつ、「思い出」を本棚に戻しました。(花ちゃん)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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