お客様は神様です。しかし、このお客様という名の神様、実はとてつもなくワガママなのです。
スーパーの牛乳売り場で神様が賞味期限を比べています。製造年月日が1日でも新しいもの、賞味期限が1日でも長いものを掘り出します。そして、棚の奥から獲物を見つけると実に満足そうに買い物カゴに入れるのです。
この行為はほとんど条件反射的に行われます。自宅に帰って冷蔵庫に入れた瞬間、製造年月日や賞味期限のことはきれいさっぱり忘れてしまうので、折角選んで買ってきたものが冷蔵庫の奥で発酵しそうになることも珍しくありません。
野菜売り場では別の神様がキャベツを上から下から斜めから観察しては、虫くいがないかどうか、新鮮かどうか吟味しています。神様ですからどんな小さな虫くいも見逃しません。虫くいを見つけるとすぐに別のキャベツに手を伸ばします。結局、すべてのキャベツを調べつくした神様は、「今日はあんまり良いものがないわ」とつぶやきながら結局、最初に手にしたキャベツをカゴに入れるのでした。
見られるキャベツもたまったものではありません。神様が立ち止まってチェックをする度に、どんどんしなびてゆきます。
魚の切り身しか見たことのない主婦が増えたことはたびたびテレビで取り上げられましたが、野菜についても同じことが起こっています。トマトの果実は見たことがあってもトマトという植物の全体を見たことがない、そういう人は増えています。
さすがにキャベツが土の中にできると思っている人はいないでしょうが、畑の中でまじまじとキャベツを見たことのある人は多くはないでしょう。いわんや栽培の苦労を知る人をやです。無農薬栽培、減農薬栽培の難しさは農家が苦労している割には消費者に伝わっていないようです。
大手スーパーは集客力のアップのために有機栽培、無農薬栽培など付加価値商品の開発に力を入れています。しかし、残念ながら普通栽培の野菜に比べてそれほど高い値段を付けられないのが現状です。平均すると普通栽培に比べて約20%高が精一杯というところでしょう。それ以上の値段ではなかなか買ってもらえないと言います。20%というのは小さくない価格差ですが、青果物の場合、豊作・不作による価格の変動に飲み込まれてしまうので評価が難しいのではないでしょうか。
一方で、値段がすべてというお客のグループもいて、彼らは10円高いほうれん草や20円高い大根には見向きもしてくれないのだそうです。消費者のニーズはひとつではありません。ハイエンドな農作物からローエンドな農作物まで、ニーズはさまざまです。しかし、消費者は同じ価格ならばより質の高いもの、おいしいもの、安全なものを望んでいるのです。 (花ちゃん)(2003.3.6)