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コラム
消費者の目

トレーサビリティに「心」を


 農業情報学会のシンポジウムに行ってきました。今回のテーマはトレーサビリティ。失われた食の信頼を取り戻すためにITができることについて多くのIT関連企業が様々なシステムを開発しています。どれも凝ったシステムで本当に感心しました。
 しかし、ちょっと待ってください。これほどのシステムを農家や食品流通の関係者が使いこなせるのでしょうか? また、システムを導入すればそれで食への不安が払拭できるのでしょうか? 誰がこれらのシステムのコストを負担するのでしょうか?
 猫も杓子も「トレーサビリティ」と呪文のように繰り返しているのを聞くと、少し不安になります。熱しやすく冷めやすい国民性が怖いと思っているのは私だけでしょうか。

 ITはそれまで手作業で行われていたプロセスを自動化する場合には非常に大きな力を発揮します。しかし、食の安全性の問題は作業効率の悪さにあったわけではありません。安全性を確保するプロセスそのものがなかったからだと考えています。つまり、システムだけを導入すれば解決するというような単純な話ではないということです。国の補助金を使ってシステムを導入してみたものの、一向に実効が上がらないということになりかねません。
 「新人なんだから初めは格好だけ一人前でいいじゃない」というコマーシャルがあります。そう、日本人は格好を大切にしてきました。剣道や柔道にも「型」というものがあります。しかし、これらの「型」の背後には「心」がちゃんと存在しています。今のトレーサビリティ・ブームには「心」が伴っているのでしょうか。

 多くのスーパーマーケットが安全・安心のブランド化に取り組んでいます。トレーサビリティのシステムを導入すれば安全性が確保でき、農産物の価値が上がるといううたい文句は耳にたこができるほど聞かされました。しかし、それは本当でしょうか? 私にはそれほど上手くいくとは思えないのです。なぜなら「農産物が安全であること」は特別なことではなくて、ブランド云々以前に農産物が持っているべき基本的な性質だと思うからです。

 いわゆるブランド化された高付加価値農産物であれ、それ以外のコモディティ的な農産物(ちょっと失礼な呼び方かも知れませんが)であれ、全ての農産物は安全でなければならないのです。それを実現するためにもっとも大切なことはトレーサビリティのシステムではなく、生産者である農家、JA、青果卸などの食品流通、スーパーなどの小売業者それぞれが、「自分たちがやるべきことをきちんとやる」ことではないでしょうか。まず、そのやるべきことの基準作りに着手することのほうが先のような気がいたします。(花ちゃん) (2003.3.27)


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