農業協同組合新聞 JACOM
   
コラム
消費者の目

お化けきゅうりが「なつかしい」


 五月晴れの言葉通りさわやかに晴れ渡った空が続くと思えば、5月は天気が変わりやすく、実に安定しません。気温も暖かい日が2―3日続いたかと思うと急に寒くなるといった具合で、変動が激しいのが特徴です。それでも日一日と夏に近づいていて、家庭菜園の野菜たちの成長を見ていると、そのスピードに驚かされるばかりです。
 成長の目覚しさをたとえて、「雨後のたけのこ」と言いますが、まさにその通りの成長ぶりで、週末農夫の私が菜園を訪れるたびに様子が全く変わってしまいます。

 トマトの脇芽を欠き、きゅうりの支柱を立て、雑草を手で抜いていると「あっ」という間に一日が終わってしまいます。菜園の技術指導をしてくださっているベテランのお百姓さんは、「春植えの場合は一週間植付けが遅れても収穫時期はほとんど変わりません。しかし、秋植えとなると植付けの一週間の違いが収穫時には一カ月の違いになってしまうんですよ」とおっしゃいます。積算温度というやつです。

 これからの季節は夏野菜たちが加速度的に成長を速めて来るので、こちらも気が抜けません。きゅうりなどは植え付け直後こそ一瞬成長が鈍りますが、一旦根がしっかり張り一番果がなるとそこからがもう止まらない。こうなると一週間も放っておいたらきゅうりだか糸瓜だか分からなくなります。10年ほど前、初めて英国のスーパーマーケットに行って、長さ40cm、直径7〜8cmの巨大きゅうりを見たとき、「さすが外国は全てがビックだ」と思ったのですが、じつは日本のきゅうりが上品な大きさなのは、若いうちに収穫されるからだったのですね。

 夏場になると平日も朝5時に起床してきゅうりを収穫します。そうでもしないと、あっという間にお化けきゅうり畑になってしまうからです。これが結構なプレッシャーで、きゅうりに追いかけられる夢を見そうです。今日食べごろの実の上には、もう親指ほどの実がついていて、さらにその上には花弁がついた小指ほどの実が。ああ、明日も早起きしなければ…。

 こうして苦労して収穫してきても、巨大化したものは妻に露骨に嫌な顔をされます。これが消費者の嗜好ですね。また、大量に採れた場合もうれしそうな顔はされないのです。まさに市場の原理ですね。しかし、中には巨大化したきゅうりを「なつかしい」と言って喜んで食べてくれる友人もいます。子供の頃、おばあちゃんの家に行くと巨大きゅうりを二つに割って、種をスプーンで取って食べていたのだそうです。市場に出せないと思われていたものが、ひょんな事で売れるかもしれません。これまでの既成概念にとらわれずに自由な発想で臨めば、商売のチャンスは意外なところに転がっているかも知れませんね。 (花ちゃん) (2003.6.12)

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