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コラム
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消費者の目
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いかによく生きるか |
東京の上野駅から茨城県土浦市、水戸市を経て福島県いわき市へと伸びる常磐線を、「フレッシュひたち」という特急が走っています。私は上野駅でこの特急に乗りこんで、出発を待っていました。隣の席に乗りこんできた年配の紳士は、都内で一杯ひっかけて来られたらしく、お顔が少し赤くて目許がトロンとしていました。 出発まで時間があったのでお隣さんは席を立って、キオスクで買った「おかき」をうれしそうに抱えて戻ってきました。私は小説を読みながら列車の出発を待っていたのですが、お隣さんから「おかきいかがですか?」と声をかけられて、本から顔をあげました。まったく藪から棒ではありましたが、「では遠慮無く」と、10個ほどのおかきを頂戴しました。すると、その方は非常に喜んで、別れ際に立派な包みに入った浅草の老舗の「かりんとう」をくださったのです。 理由を聞いてみると、「自分はおかきを食べたかったのだが、自分だけが食べると隣の人に申し訳無いという気持ちになる。あなたは私がすすめたら快く食べてくれたので自分もおいしく食べられた」とおっしゃるのです。最近は隣の人におかきをすすめても、断られるか無視されるかのどちらかだそうで、それはそれで無理の無いことかも知れないけれど、世の中がいよいよ世知辛くなって来たということなのでしょう。 今や「昭和は遠くなりにけり」で、昭和30年代をモチーフにした大分県豊後高田市町の商店街は、大勢の人で賑わっているそうです。昭和の当時は汽車の中で見ず知らずの人間同士がまるで既知の仲のように話しをするのは日常茶飯事でしたし、みかんやお菓子を分けあうというのはごく当たり前の旅の風景でしたので、私はタイムスリップしたかのようにその方と話を楽しみました。 「今の日本人は効率ばかりを追い求めて、いかに良く生きるべきかについて考えるのを止めてしまった」と、その老紳士はおっしゃいました。私はその言葉にはっとしました。 人生の先生は暮らしの中にもありました。職人の世界では親方が弟子に技術だけでなく、生きかたも伝えていました。永六輔氏の著書、「職人」にはこんな職人の言葉が出てきます。 「職業には貴賎は無いけど、生き方には貴賎がありますね」 |
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