農業協同組合新聞 JACOM
   
コラム
消費者の目

誰が顔を見せるべきか


 今、大概のスーパーの店頭には地元の野菜コーナーができ、その野菜を作った農家さんの写真が野菜と一緒に並べられています。最初に見たときには新鮮で、1人1人のプロファイルなど熱心に読んだものでしたが、時間とともに見なれてしまい、今では野菜がおいしそうかどうかは確認するけれども、写真やメッセージは申し訳無いけれども気にしなくなりました。もともと栽培している農家さんを存じ上げているわけでもなく、たとえ写真が入れ替わっていたとしても気がつかないでしょうけれど。
 「安心をアピールするためには農家さんの顔を出すことです」というのが一種のセオリーになっていて、農作物のマーケティングに関わっている人々は念仏のように「顔の見える農作物」と唱えていました。しかし、写真や名前を出せば本当に安心なのでしょうか?
 もともと農作物や魚は小売店の信用で売買されていたものです。「あそこの八百屋さんは良いものを置いている」とか、「あの魚屋さんがすすめるなら安心だ」という具合で、店の評判に裏づけされていました。もちろん、仕入れは顔なじみの八百屋さん、魚屋さんが自分自身でやっていたので、どこから、どうやって、いつ頃仕入れたのか聞くこともできました。つまり、お店の主人とお客の個人的な人間関係を背景に安心して買い物ができました。
 ところが、スーパーマーケットなど量販店が主流になるにつれて、小売店と消費者の距離が離れてしまいました。私達は売り場に並んでいる野菜や魚を誰が仕入れたものか知りません。量販店の場合バイヤーと呼ばれる仕入れ専門の方がいらっしゃいますが、専門化していて店頭でお客さんと声を交わすことはまずありません。店員さんとて自らお客に話しかけることは皆無でしょう。こうなると、お客としては以前ほど安心できません。これは、量販店という業種が潜在的に持っていたデメリットだと思います。しかし、核家族化の進行や働く女性が増えるにしたがって量販店のメリットに隠れて見逃されてきたのではないでしょうか。そんな折、産地偽装が頻発したこともあって、一気に消費者の不安が顕在化してきました。私は、生産している農家の顔を見せることがブームになった背景をそう考えます。
 果たして、生産農家の顔を見せると消費者は安心を感じるでしょうか?そもそも産地の偽装をしたのは誰だったか思いだしてください。生産農家の顔を出すことは駄目だとは言いませんが、それよりも量販店のバイヤーや売り場の責任者が顔を出して、自分の仕入れた農作物に対する思い入れを熱く語ることの方が大切だと思います。実際、スーパーマルエツでは、店長が契約栽培している農家で研修をしています。農家がいかに農作物を大切に育てているかを知ることで、店頭での説得力が増して売上に結びついているそうです。システムでは決して伝えられないもの、本当はそちらの方が大切なのだと思います。 (花ちゃん) (2003.8.6)

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