大好きだった市民農園の指導員さんが今年限りで引退することになりました。私がこの農園を借りたのは5年前です。右も左も分からない私に、それこそ鍬の使い方から教えてくださいました。春先に1回、夏前に1回開かれる指導員さんの栽培講習会には必ず出席して、ノートに一言も漏らさぬようにメモを取りました。そのおかげで、昨年には農園の年間最優秀賞をいただけるまでになりました。その指導員さんの栽培講習会が6月の最終土曜日、とうとう最後となってしまったのです。
その指導員さんは、植え付けの適期に間に合うように年間50種類近い苗を育て、100区画以上ある圃場を定期的に見て回っては、各自の作付け状況をメモして、前の年になす科を植えつけたところにはなす科のものを植えないように気を配り、病気や害虫が出そうなときには早めに殺菌剤・殺虫剤を用意し、農作物の葉の色を見ては肥料をまくように指導してくださいましたので、われわれ素人にもそれなりの作物が作れたのです。
圃場が100区画もあると、100人100様で、実にさまざまな方がいらっしゃいます。現役を引退した元サラリーマンらしい人、学生らしい二人組、ご夫婦で仲良く農作業を楽しんでいらっしゃるお年寄り、小さなお子さんを連れている若夫婦、仕事で日本に滞在しているロシア人家族、日本人と結婚したアメリカ人の奥さんなどなど。
農業に対する姿勢もさまざまで、農薬をうまく使って品質の高い農作物を作ろうとする人、無農薬にこだわる人、化成肥料と堆肥を組み合わせる人、化成肥料は一切使わず堆肥だけで育てる人という具合です。
先述のアメリカ人女性は子供のころからひどいアレルギーに悩まされていたのが、日本に来て日本食を食べるようになってから嘘のようにアレルギーが治ったそうで、自然食への思いが人一倍強い方でした。
そのため、どんなに作物が病気や虫にぼろぼろにされても、農薬を一切使おうとしませんでした。私は農薬がきちんとした安全性評価を経て販売されていること、使用方法を守れば安全は確保されることを説明しましたが、彼女の気持ちを変えることはできませんでした。
指導員さんはトマトの疫病が発生しそうなときには、無農薬を希望する人たちには、葉が硬くなって多少なりとも感染が抑えられるかも知れないからと、消石灰を水に溶いてトマトにかけるように指導していました。その一方で、農薬を使える区画の人たちには早め早めに殺菌剤を散布するように呼びかけて、圃場全体に病気が広がらないように気を配っていらっしゃいました。
市民農園は、効率的な生産を追求する場ではありませんから、それぞれの人の信念や要望を尊重する姿勢が求められます。指導員さんにとってその苦労は並々ならぬものだったに違いありません。指導員さん、本当にありがとうございました。(花ちゃん)