農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
砂時計

農協改革の原点

 昨年来、農水省を舞台に進められてきた“農協のあり方研究会”が、回を重ねて先に報告書をまとめたが、主催者が何故農協自身ではないのか、報告書の提出先がなぜ農林水産大臣なのか私には不可解です。もっとも、議論の過程で断片的に漏れてくる委員の率直なご意見は興味深かった。
 傑作なのは、“農協が悪いのではなく、農協の経営者が悪い。なぜなら、その下の部長はやる気がある”というような勇ましい発言もある。議論をこのレべルに落としてしまったのでは“組織改革”は前に進むまい。せめて世代交代を主張するぐらいが適当でしょう。
 この“農協改革”は、“目標”を達成するための第1歩として必要ということですが、その目標たるや、“食料自給率の向上”と“国際競争力の向上”だと大上段の構えです。一寸待ってください。JAは、いうまでもなく、“生産者が、生産者のために”運営する“生産者の自治組織”のはずです。従って、JAには、“自給率”とか“国際競争力”とかマクロの問題についてどうこうする権限もないし、当然責任もない。
 だいたい、国内産の農産物に“競争力”があれば、結果として、“自給率”も向上するのだからこれはふたつの問題ではなく、根はひとつの問題だと思いますが、いずれにせよ、自給率については、対外的な関係やら、市場(消費者)のニーズを考えながら、国が方針を決めて自由主義経済の中で農政上の施策を講じてゆくべき種類の課題です。国の責任を“JA”に転嫁するがごときはお門違いとしかいいようがありません。
 JAの組織は、生産者の役にたてばそれで必要にして十分なはずです。役にたっているかどうかが問題ですが、これは組合員が判断する問題です。だいたい、“農協改革”ができれば、わが国の農産物に国際競争力がつくと云わんばかりの発想自体に飛躍がありすぎると思います。わが国の農業に拘わる様々な問題の原因を農協の“人事”や“経済事業”に帰するような議論には組しがたい。JAはいま流行りのNGO・NPOの先駆的組織と言っても良いと思いますが、歴史が古いからこそ、制度疲労もあるでしょうし、今の状況にマッチするように組織改革は必要でしょう。
 しかしながら、それはあくまでも現場のニーズを踏まえて、地域や生産者が主体となった自発的な自己改革でなくてはならないと思います。“首都圏の食料自給率は僅か1パーセントしかないから自給率向上の為に対策を講じるべきだ”というご意見もいただけない。首都圏で自給率を仮に倍増させて2パーセントにしたとしても、そのことにどんな意味があると言うのでしょうか。納得しがたい主張です。かつてのポルポト政権下のカンボジアでは都市住人を強制的に農村に移住させましたがこれと類似の発想でしょうか。NGOやNPOは、ひとつの理想なり、理念なりに燃えた人たちが使命感から、自発的に寄り集まって目的を達成するために“協同”作業をするための民間の組織のはずです。
 農協改革は、“経済事業”を俎上に載せる前に、本来の当事者である組合員が中心になって自主的に組織の“理念”なり“目的”を固めなおすことが、なによりも先に大切なことなのではないでしょうか。
 その上で、これを実現するための組織や活動は、地域別、作物別、機能別にまた全国レベルにおいて現状で良いのかを議論するべきです。“経済事業”は、もともと“営利”を目的にしないはずの農協にとっては目的にいたる手段にすぎないはずです。 (譲二)

(2003.5.26)

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