副題が実に解りやすく、「たべもの協同社会への道」。著者の農業・たべもの宣言であり、社会改造論である。本文は6章で構成される。略歴によると、1947年生まれ、JA兵庫六甲職員であり、営農経済事業部の専任管理職である。つまり現役の営農指導の現場に立って、本書を書き上げ、世間に問うた。その意気やよし。しかも神戸市という巨大食料消費マーケットに日常接し、実践してきたから、著者の総括宣言でもある。
誰もが知っていて、忘れられないこと、それが1995年1月17日、淡路島・神戸地区を襲った震災である。その救援活動が本書の背景にある。私自身、震災から2年ほど経って、現地取材した。少し傾いた、農協の協同サイロを見て、震災のすさまじさを肌で感じた。そのとき、著者は、神戸地区に息づくJAとして、どれだけ、都市農業が大事か、熱く語ってくれた。都市農業は既に任務が終わったとか、農協は金融中心で地域協同組合に徹底すれば良いのだとか、凡百の評論を打倒するに十分な手ごたえだった。本文にその体験は詳しい。しかも目指す農業は、有機農業である。都市近郊だからこそ、そうだという。ここにも、長い実践の裏打ちがある。つまり、都市住民に支持されるだけでなく、彼等に積極的にJAから地域内ビジョンを語りかけなくてはならない。そういう自信をJAとして持てという宣言である。
時あたかも、今秋は、JA全国大会の年である。すでに諸案件は、不十分ながら討議がつくされ、決議に向かっている。方針案は全国どこのJAでも、自ら地域内を総括する、ビジョンをつくろうと呼びかけてもいる。ではどんな展望図であろうか。その際、著者の提案は明快である。
「国内自給は、地域内自給の総和である。これを基本的な認識の柱にすえないと、自給率向上は絵に描いた餅になる」
「<たべもの>を生活の中心にすえ<たべもの>を生み出すプロセスにこだわり、そこにかかわる人間とその物語に思いをいたしたい」
ついに、全国のJA運動は、こうした優れた実践者を生み出したと思う。そういうなら、もっと多く全国的に発掘すべきであろう。地域自給率など問題外で、常に過剰、どこかに売らないとどうにもならないJAなら、そういう観点で「地域内自給の総和」だと背景を工夫すればよろしい。実に地域で実践した全内容こそが、ビジョンとなって、地域に語りつくすものでなくてはならない。