農業協同組合新聞 JACOM
   

《新刊紹介》 小橋 暢之
田舎暮らしの思想史をたどり 新しい農の価値に光当てたい
『定年後の十万時間 里山暮らし』

(¥1,400+税、電話03−5261−2301)
『定年後の十万時間 里山暮らし』

    

小橋暢之氏 JA全中前農政部長で(株)パストラル社長の小橋暢之氏の連載エッセイ「風の田舎人物語」が来年からスタートします。
「里山暮らしの体験と思索を通じて農の価値に光をあてたい」と語る小橋氏に連載への思いを聞きました。(連載は「農業協同組合新聞」(旬刊)のみです)



   

 小橋氏は3年前から千葉県長生郡長南町に住まいを構えて里山暮らしを始めた。
 その里山暮らし実現までの過程と各地の田舎暮らしの達人を紹介した文章をまとめた『定年後の十万時間 里山暮らし』(家の光協会)を今月出版した(写真)。
 来年から本紙に連載されるのはその続編にあたるもの。「花信風舎」と名付けた房総の住まいでの暮らしや思索を横軸とするなら、今度は、「縦軸に田舎暮らしの思想史を置く」のが構想だという。
 田舎に移り住みたいという都会の人々が最近では増え、それを支援するNPO、ふるさと回帰支援センターなども設立され、小橋氏も同センターの理事を務めている。以前にはこうした人々はごく一部にはいたがこのところの動きは社会的現象ともいえるだろう。
 ただ、都会人が田舎に価値を見いだして移り住むという動きは、ヨーロッパでも日本でも都市の発達した時代にすでに出てきたという。たとえば、フランスの思想家、ルソーは18世紀なかば、パリを去って田舎で『エミール』を著した。そこには都市生活への警鐘が厳しく鳴らされている。
 そして、同時代の元禄ニッポンでは、安藤昌益が「道ニ志ス者ハ都市繁華ノ地ニ止マルべカラザルナリ」と言い切って、八戸に移り住み『自然真営道』を著した。医学を学んだ昌益は東北の地で飢餓で死んでいく多くの人を目の当たりにし、食べ物がなければそもそも病など治せないと医術と社会の限界にぶつかる。そこから万人が自ら耕して生きていく「直耕」と「自然世」という思想を持ったという。
 小橋氏はこの安藤昌益を日本における「田舎暮らしの元祖」と位置づけ、第一話では彼の生涯と思想の軌跡をたどる。その後、第二話以降は昌益的人生の系譜として、徳富蘆花、中里介山、白樺派の新しい村などに触れていく構想を立てている。

「風の人」と「地の人」

 小橋氏は、昌益のような都会から田舎に移り住んだ人を「風の人」とし、その地域で暮らす人々を「地の人」と呼んでいる。これまで昌益ら風の人が発見した田舎や農の価値は現実の村では「風の話」として村を吹き抜けていっただけであったという。それだけ都市化、近代化への流れが強かったからだが、今、新しい地方文化を「風の人と地の人が価値観をぶつけ合うことで築く」こと、「それが田舎暮らしの意味ではないか。地方に暮らす人々にも自信を与えることになると思う」と語る。
 「先人たちの田舎暮らしにかけた志を明らかにすることによって改めて農の価値に光を当てることができれば」。
 さし絵は、福田穎氏にお願いした。 (2003.12.18)


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