豪州とのFTA(自由貿易協定)交渉にあたっては農産物の重要品目を除外する努力をすると政府は表明しているが、財界や一部のマスコミからは相変わらず日本の農業は過保護だから保護を撤廃すべきという主張が出ている。
しかし、本書では改めて「わが国は(1)関税も低く(2)国内保護も少なく(3)輸出補助金はゼロ」であることを数字を挙げて他国と比較、日本の農業保護水準が高いというのは「大変な間違いである」ことを説く。
むしろ問題なのは農産物輸出国のほうであり、WTO協定が規定する「輸出補助金」以外に財政負担型、消費者負担型などの「隠れた」輸出補助金をふんだんに使用している実態を鋭く、分かりやすく解説している。そして、欧米の農政は重要品目は「高関税」で守り、「国内保護」で生産者の所得を確保し、農産物が過剰になれば食料援助も含め「隠れた輸出補助金」で輸出をしているのが実態であり、決して「競争力があるから輸出しているのではない」として、今後も「意を強くし」バランスのとれた貿易ルールの確立に向けた交渉をするべきだと主張する。
また、国内支持政策については、価格支持政策から直接支払い政策へ、が世界的な流れとされているが、欧米では価格支持+直接支払いになっている実態や、上限関税75%の非現実性と最低米価保障政策の必要性などを分析しているほか、FTAについても高関税の農産物を除外するほうが、むしろ世界全体の経済厚生の「損失を少なくする」という試算を紹介し、農産物を最低限の開放にとどめることは「農家のエゴではなく日本国全体の国益だということ」を理解すべきだとする。
ただし、本書はこうした対抗のための論理だけを主張してはいない。重要なことのひとつとして、これ以上の農産物輸入が増えると窒素過剰による環境汚染や健康被害の悪化する恐れがあることを指摘。「国土環境と国民の健康を守ることが農のミッション(社会的使命)」であるという大きな理念を国民に理解してもらい、WTOルールに合わせるのではなく「WTOを我々に合うように変える」という発想の転換が必要だと強調している。著者は東京大学教授。 |