|
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために |
提言 農村女性のエンパワーメントを |
田渕直子 北星学園大学経済学部助教授 |
◆エンパワーメントの本当の意味
もう一つ、「北京」が注目された由縁は、「女性のエンパワーメント(empowerment)のための北京宣言と行動綱領」が非常に効果的に発表され、「エンパワーメント(力を引き出し、実力を付けること)」という目新しい言葉を普及させたことにある。このインパクトが非常に強かったため、エンパワーメントとは女性問題を扱う際の専門用語だと誤解されかねないほどである。 しかし、実は、エンパワーメントは、主にアメリカで精神療法や企業経営等の分野で定着した語であった。精神療法の用語としては、問題解決の方法として、自己の中に力を蓄え、積極的な自分を創り出すことという意味であり、企業経営の概念としては、権限移譲によって従業員の潜在力を引き出すことを指すものである。やがて、この概念が、途上国の開発や貧困緩和の手段として応用されたのであった。すなわち、社会的に弱者とされる人々を開発政策の意思決定や実行、評価過程に参加させていくことで社会的な力をつける方法として、有効であるとされたのである。 これが、さらに女性の地位向上、人権確立のために不可欠な手段として確認され、前述の「北京宣言と行動綱領」のキーワードになったのであった。こうして言葉の由来を踏まえると、エンパワーメントとは単に力を引き出す・パワーアップするというだけでなく、権限を委譲され、ある意味で痛みを負いながら責任ある立場に立つことを包含した概念である。だから、エンパワーメントはバラ色の未来を指すものではなく、誤解を恐れずに言うのなら「気楽な弱者」であることを捨て、コトが起これば責任を追及される立場を、敢えて選択するということでもある。 それでもなおかつ、いや、それだからこそ、筆者は農村女性のエンパワーメントを強く願う。なぜなら、これまで男性に多くのパワーが集中しており、それで農村に希望が満ち溢れているのならよいが、現状はそうではなく、新たな知恵の出し手・責任の担い手が求められているからである。 ◆卵が先か鶏が先か−エンパワーメントと権限委譲− ただし、エンパワーメントと権限の委譲は、「卵と鶏」の関係にあることが悩ましい。つまり、エンパワーメントされるには権限の委譲が必要であるが、権限の委譲は、すでにエンパワーメントされた主体を暗に求めるからである。 ◆何のためのポジティブ・アクションか 農村においては、家族経営協定の締結促進や女性のJA正組合員化・総代や理事の女性比率向上・女性参与選出の必要が語られて久しい。これらの取り組みは「ポジティブ・アクション」に他ならず、成果については濃淡様々であるが、よく取り組んでいることに敬意を払いたい。ただし、これらの「ポジティブ・アクション」が進められる際、何のため、誰のためのエンパワーメントなのかが、よく議論されているだろうか? ◆古い道具を活かして使おう−JA女性組織の可能性− では、JA役職員がエンパワーメントの必要を心底から肯定したとして、JA女性組織はそれを進める主体として、有効であろうか。一般的に新しい仕組みや制度は人々の関心を呼ぶが、古くからあって水や空気のようになっているものの価値は意識に上らず、逆に問題点が指摘されがちである。広い意味での非営利組織を取り上げても、NGO・NPOが賞賛されるのに対し、協同組合や労働組合は合理化を阻む要素として批判されたり、不祥事がことさらに取り上げられて、非難されたりすることが多い。 協同組合は、労働組合よりも古い時代に公認された仕組みである。JA女性組織も全国組織を結成してからすでに50年以上の歴史を持つ。手元にある『輝くあゆみそして未来へ−JA全国女性協50年史』を拝見すると、メンバーたちが熱望する問題や共感する問題を取り上げ、爆発的なパワーを発揮した例がいくつもあることが目に付く。季節保育所設置、映画「荷車の歌」自主制作、「世界の協同組合の子どもにきれいな飲み水を」募金運動、最近ではホームヘルパー養成等である。もう一つは、事業体・経営体としての農協に対し、よい意味での緊張関係を持ち、共同購入の基礎組織のあり方を議論し、石鹸(合成洗剤でなく)や介護用品の積極的取り扱いを迫ったことも、注目される。 (2005.1.19)
|
特集企画 | 検証・時の話題 | 論説 | ニュース | アグリビジネス情報 | 新製品情報 | man・人・woman | 催しもの 人事速報 | 訃報 | シリーズ | コメ関連情報 | 農薬関連情報 | この人と語る21世紀のアグリビジネス | コラム | 田園交響楽 | 書評 |
||
社団法人 農協協会 | ||
|