本号では特集として「農村女性の子育て支援を考える」を企画した。JAではこれまで高齢者福祉対策には力を入れてきたが、子育て支援は注目されてこなかった。
しかし、少子化の進行は都市部より深刻で、次世代を担う子どもたちの減少は、農業や集落の維持にさえも影響する。一方で農村の豊かさは子育てにとって都会にない良い環境でもある。女性が安心して出産・子育てができるためのJAの果たす役割について、JA全中地域振興部の佐藤皓一部長に提言してもらった。
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1.はじめに
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さとう・こういち
昭和22年広島県生まれ。九州産業大学商学部経済学科卒。46年JA尾道市入会、57年広島県共済連入会、平成11年広島県厚生連入会。14年全国農業協同組合中央会入会、16年9月より地域振興部長。 |
近年、子育て支援の論議が活発である。昔から「子どもは国の宝」とか「子どもは皆のもの」とか言われ、特に、農村社会では、親・家族を子育ての核としながらも集落全体が子どもに関心を持ちながら日常生活を通して社会的規範等を教えてきた。
日本農業の崩壊や大量消費型生活は、農村・農家の生活基盤の変化を生み出し、若者の都市流失や農村における出産・育児に対する考え方に大きな変化を与えた。こうした状況は、農村における少子・高齢化の進行、農業・農村の維持・継続など様々な問題を引き起こしている。まさに、少子・高齢化問題は、都市生活者よりも農村生活者の方が深刻となってきた。
しかし、今日論議されている「子ども」の問題は、国民人口構成からの社会保障制度の崩壊という危機から関心が拡大し、妊娠、育児、医療、教育、情報など生活基盤について総合的な論議が不十分と言える。
こうした情勢下、我々JAが、農村における「子育て支援」にどのような機能を発揮すればよいのかが問われている。
2.子育て支援の4つの柱
子育て支援は、単に子育てに関する直接的な支援に止まらず、子どもを抱える家族の生活全体を総合的に支援することが必要と考える。
育児に関する考え方は、各国によって異なるがそれぞれの国の社会の価値観を反映したものとなっている。育児を社会の責任とする北欧型、貧困家庭への支援のアングロ・サクソン型、育児を社会的リスクとした社会保険対応のフランス型、育児の基本を家庭養育におくドイツ型など多様な状況である。
こうした考え方の違いは、具体的な制度設計や優遇措置など子育て支援の取組に大きな違いが見られる。
日本の子育て支援の取組は、ようやく始まった段階でありどのような制度を構築してゆくのかが早急に求められる状況にある。
子どもがいて良かった、苦労もあったけど楽しい日々が過ごせた、仕事と育児で時間に追われたけど充実した生活だった。そして、緑豊かな農村で伸び伸び育てることができたと振り返えられる社会にすることが必要である。
(1)妊娠、出産
個人生活や経済効果優先の社会風潮のなかで、妊娠・子どもの出産は大きな悩みであり大変な決意を要する。
しかし、親はみな子どもを生み、幸せな立派な社会人に育て上げたいと願っていることも事実である。
計画的に農作業を行い、規則正しい生活をしながらマタニティライフを楽しむことが基本といえよう。また、出産後のライフプランを考えることも大切である。
(2)子どもの保育、子育て
出産後の大変さに子どもの保育・子育てがある。施設としては、保育所、放課後児童クラブ、児童館、全国児童相談所、保健所、保健センター等、多様なもので公的施設を中心に整備されている。
国は、1990年から10年間に「少子化対策」としてエンゼルプランを策定し、保育サービスを有効な手段として位置づけ、緊急保育対策5カ年事業を推進した。1999年12月には「少子化対策基本方針(新エンゼルプラン)」を発表し、その充実に努めている。
この効果は、駅前保育所等の社会的資源として広がりを見たが、質・量ともさらなる充実が望まれている。
保育所は、働く(実態は勤務する)母親を持つ子どもの福祉を保障することを目的に整備されてきた。しかし、子どもを保育することは、「子どもの育ちを援助する係わりであること」が理念として必要であるが極めて不足していると言えよう。
保育サービスの整備を「子どもがすくすくと育つ環境を整備する」という基本的な原則として考える必要があり、農村社会における環境整備は従来型の発想では対応できない状況にある。
就労支援施策としての労働力確保論でなく、「子どもが安心して健康に育つ環境整備」を目的に社会システムを確立することが求められている。
(3)情報(集う、参加、知る)
子育てには、家族や地域のサポートが必要である。子育てに悩んだ時に同じ悩みを持つ母親や子育ての先輩の意見を聞く、相談できるシステムの構築が重要である。
また、児童手当制度や保育行政など国・地方自治体の政策を知ることも大切な要件である。このような、最新の情報を受発信する地域の中核JAの機能が求められている。
(4)父親の育児参加促進
子育ての基本は、家族であり両親が育児を行うことである。ライフデザイン研究所の松田主任研究員によると、わが国の父親の育児協力要因は、(1)必要ないから(育児の量)、(2)時間がないから(時間的余裕)育児参加が少ないのであって、(3)母親に対する力関係が強いからではない。
また、母親がフルタイム就労の場合は協力度合いが上昇し、パートや自営業の場合は、専業主婦に比べて増加しないと発表している。
農村における父親育児参加をどのように進めるかについても課題と言えよう。
3.JAにおける子育て支援の現状
農村部における人口減少は、高齢化・少子化の進行と併せて、集落を維持できるかどうかという瀬戸際に遭遇している。
JAは、地域振興の観点から「農業振興」と「高齢者対策」を中心に取組を進めてきたが、農業生産を中心とする振興対策の効果は十分とは言えず、担い手不足から緊急な取組が求められる状況にある。高齢者対策では「助けあい活動」「介護保険事業」を中心に取組を進めているが、これも全国的な取組まで至っていないのが現状である。
生まれ育った地域で、「健康で生きがいを持ちながら暮らし続ける」ことができる、そして、豊かな自然の下に「人間らしい感性豊かな子育て」が可能な条件整備を進める必要がある。
JAにおける「子育て支援」の取組は、JA全国女性協を中心に「集う、参加、知る」領域に取り組んできた。先進的JAの一部に、「子どもの保育、子育て」の領域である施設の設置が見られるが、全体的には不十分な状況と言える。
【JAでの取組事例】
モデルJAとして東西1JAずつをJA全中より依頼した。
JAいわて花巻、JAいずもにおいて、子育て中の女性のグループヒアリングならびにJAレベルでのシンポジウムを開催。
その後JAいわて花巻では、JAとして「わいわい子育てフリースペース」を新設。現在利用者が約30名となっている。 |
4.JA子育て支援の具体策(考え方)
全国的に取組が可能なもの、地域やJAの実態から取組可能なもの等、取組にあたっては、地元自治体等との連携や諸条件を十分考慮・検討することを前提にする。
(1)交流と情報の受発信
今日までの取組を踏まえながら、フレッシュミズを中核にして「交流と情報の受発信」を強化する。
(1)子どもを生み育てる楽しみを発信する
(2)妊婦には出産に向けての「ソフト」と「ハード」の支援
・不安に対する相談機能
・マタニティコンサート
・小児科、NICU設置病院等の医療情報
(3)保育所等の施設情報
(4)育児・児童教育の相談機能
(5)JAの総合事業を生かし、生活情報の発信
(2)集落維持に必要な施設の整備
JAにおける施設整備は、厳しい経営環境から難しい情勢にある。確かに公的施設に類するものは多額の投資を必要とし、専門知識やスタッフの不足から困難といえよう。
しかし、社会的基盤の貧弱な農村社会での子育て支援は、重要な課題であることから、JAの組織と事業の性格を生かし、創意工夫した「JAらしい」地域密着型の取組方向を考える必要がある。
(1)情報の受発信とコミュニティ
不稼働施設を利用したコミュニティ広場の設置。「広場」を利用した専門家による相談教室等の取組を実施する。
(2)託児所・保育所の整備
JAが施設を整備する場合は、一般私的施設として整備することとなる。現行の「次世代育成支援対策推進法」に基づく制度では、勤労者対策として補助金等が考えられていることから、農村における対策が不十分と言える。民間企業には「企業内保育所」、病院には「院内保育所」が整備され、運営費が助成されている。
今後の取組として、農村における集落単位を農業従事者の職域とした制度要求が必要となる。
【次世代育成支援対策推進法の定義】
第二条 この法律において「次世代育成支援対策」とは、次代の社会の担う子どもを育成し、又は育成しようとする家庭に対する支援その他の次世代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される環境の整備のために国若しくは地方公共団体が講ずる施策又は事業主が行う雇用環境の整備その他の取組をいう。 |
(3)諸事業との併設・連携
「広場」や「託児所・保育所」施設の整備に当たっては、JAが実施している他事業との連携を考えることが求められる。
農業を中心とした「生命」や「自然」、「高齢者」との世代間交流は、子どもの教育的視点からも重要な要素である。
5.おわりに
子育てには、「簡単な子育て」という特効薬はないと言われている。このことは、子育て支援の取組も総合的な視点が必要だということである。
JAにおける「子育て支援」の取組は、国の取組に合わせる形で進めてきたが、組織全体の課題としては顕在化していないのが実態である。
しかし、足元を見れば「高齢化」と「少子化」により集落の維持が困難な現実に直面しているのも事実である。JAの生活事業とは、組合員や地域住民が集落で生活する力(生活力)の欠落した部分を支援することであるなら、地域の実態を考慮した多面的で多様な事業展開が必要である。
「子どもこそ社会の宝」であり、次世代の「農業の担い手」である。正面から向き合った取組が求められている。
(2005.1.20)