農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

現地レポート 農業新世紀をつくる女性たち 仲間を信じ、大切にし、ともに歩む
消費者、異業種との交流が力に
仲間と共に野菜の直売ルート広げる――堀 周子さん(山形県酒田市)

 堀さん一家は米と野菜の専業農家だが、野菜は直売一筋。いくつものグループの仲間とともにルートを開拓し、各直売所に持ち寄っている。個人の直売所は持たない。「仲間とともに」が堀さんの生き方だ。周子さんが軸足を置いている女性農業者のクラブは今年度の酒田市農業賞に輝いた。同クラブの活動と周子さんのリーダーシップを紹介する。

◆台風の打撃にめげずハウスを再建

堀 周子さん
堀 周子さん
 地元最大手のスーパーに野菜の産直コーナーを持ち、農家グループ9人で納入している。堀さん一家の場合、これが売上げの核だが、ほかにも商店街の空き店舗を借りるなどして4カ所で直売。さらには宅配や老人医療健康施設などの給食用食材も供給する。作った野菜約30品目はほとんどが地産地消の直売だ。市場出荷はない。
 5人家族だが、働き手は夫妻と長男の3人。販売を起点にした経営を地でいく専業農家だ。家族経営協定を結んでいる。
 所有農地は2.4ヘクタールだが、借り受け農地が多く、経営面積は計8ヘクタール。稲作の面積が多いが、収入は野菜作が米を上回る。転作は枝豆と大豆など。
 ハウスが11棟(1棟約230平方メートル)でメロンなども作る。うち1棟は長男が酒田市の担い手支援を受けて2年前から菌床シイタケ栽培をしている。
 だが昨年の台風15号で5棟がつぶれ、大打撃を受けた。今、2棟を再建し、あと2棟を近く復活させる。一家はめげない。
ハウスのなかで作業する堀さん
ハウスのなかで作業する堀さん
 主婦周子さんの朝は、直売が多いため、てんてこ舞い。10年ほど続けて出店した「酒田の朝市」は今はやめてしまったが、「ちょうど長女が大学に進むころで、そこでの売上げが学資の助けになった」と述懐する。
 今、販路は広い。といっても個人的な開拓ではない。すべてがグループ組織によるマーケティングだ。周子さんは、その中でリーダーシップを発揮してきた。その歩みを振り返ると……。

◆きらきら輝くようなネットワークづくり

 市は平成6年に農業の6次産業化を目指し、その実現には女性パワーが不可欠であるなどとして女性農業者の研修事業を精力的に進めた。受講者のうち55人は「きらきらネットワーク倶楽部」(以下クラブ)というグループをつくり、周子さんを初代会長に選んだ。
 クラブは消費者に呼びかけて「畑とキッチンの交流会」と名づけた場をつくった。そこでは農業体験をしてもらい、意見交換では市場価格の暴落で味わう悔しさなど生産者の思いを伝えてきた。今でいう食農教育とグリーンツーリズムのハシリだ。今も年中行事として定着している。また農協青年部や異業種との交流会も開催している。
 市は9年に「酒田農村女性ビジョン」を策定した。周子さんは策定委員の一人だった。またクラブはビジョン実践の推進役ともなった。
 ビジョンは「21世紀 私が主役」がテーマで、「女性が目標を持って我が家の農業経営に参画する方向を示し、家族経営協定の締結もうたっている」と周子さんは説明する。今ではクラブのメンバーの半数がすでに協定を結んでいる。
 消費者との交流会では「がんばっているあなた方の作った野菜がほしい」との声が出た。そこで、9年から「キッチンボックス」という宅配活動を始めた。これがクラブで直売を拡大するきっかけとなった。

◆商店街の会合に出て出店を決意

 宅配といっても役所や公共施設、事業所、工場などの職員・従業員たちや町の消費者の皆さんと契約して旬の野菜や花や農産加工品を各職場ごとにまとめて届ける方式だ。1箱500円単位とした。
 箱詰めの場は、江戸時代からある観光名所の山居倉庫を借りた。これを見ていた倉庫のオーナーが「うちの一角で産直店を開いてみないか」と勧めた。
 これ以来、直売所を開設するクラブの活動が本格化し、勧めに応えて早速、出店した。オープンの前にはクラブ員が最寄りの町内各家庭に宣伝チラシを全戸配布したりもした。
 ところが1年ほどで倉庫の改装と倉庫前の道路工事があり、閉店を余儀なくされた。ちょうど、そのころ、中町商店街の青年部から、町づくりについて農業女性の意見も聞きたいと、周子さんに依頼があり、その会議に出席したついでに、産直店の閉店問題を話したところ、「それなら、この商店街の交流サロンの軒下を貸すよ。商店街の活性化にもなるから」ということになり、今度は、そこに店を開いた。

◆スーパーは農業者を 農業者はスーパーを育てる

 こうした活動でクラブは10年度の「山形県ベストアグリ」表彰を受けた。県農林水産部の事例報告によると「その活動は農協女性部やフレッシュミズなど他の組織にも刺激を与えた」との高い評価もしている。
 確かに酒田市内では他の農業者グループも直売活動を積極化させた。周子さんはクラブ以外のグループにも入っている。
 その中の一つの組織は中町商店街の空き店舗に常設している直売所「ヨッテーネ」にも出店している。また、もう一つのグループ「農村生活研究グループ協議会」の「ステップナイン」の仲間と市内最大手のスーパーにインショップを開設。これは価格設定を100円と120円にした産直コーナーだ。
 周子さんは品物を「納入しっ放しにはしない」という。スーパーの担当部課長とよく話し合って消費最先端の勉強をする。「スーパーは農業者を育てる、農業者はスーパーを育てる」という考え方だ。
 当初は、スーパーの外で定期市を開いていたが、「店の課長さんから、寒い思いをして、いつまでも外で売っていないで、店内で売れるような、ほんとに消費者の喜ぶようなものを作りなさい」との励ましがあったという。これに応えた品質向上の生産努力で今は店内に常設コーナーを確保したとのことだ。

◆助け合い高め合う仲間とともに

 一方、きらきらネットワーク倶楽部は地域農業の振興に貢献したとして16年度の酒田市農業賞を受賞し、昨年12月にお祝いの会を開いた。
 会場には中町商店街の役員たちも駆けつけた。お祝いのメッセージも寄せられた。その一節には「みなさんは今ではすっかり中町の顔になり、私たちの手本になっています。これからも『安心して、人が集える中町』の重要なエネルギー源としてがんばってください」などとあった。それは農業女性の元気が商店街を元気づけたことを物語る言葉でもあった。

親子づれで農業体験への参加を呼びかける「きらきらネットワーク倶楽部」のフィールドマップ 親子づれで農業体験への参加を呼びかける「きらきらネットワーク倶楽部」のフィールドマップ
親子づれで農業体験への参加を呼びかける「きらきらネットワーク倶楽部」のフィールドマップ

 クラブの活動には情報発信が目覚ましいという特徴もある。消費者向けの行事案内や報告だけでなく、クラブ内の「きらきらネット通信」を定期発行している。さらに特徴を挙げれば、保育園児に農業体験をさせる食育にも熱心に取り組んでいる。
 リーダーシップについて周子さんはこう語る。「一人ではできないことも仲間が力を合わせればできる。お互いに助け合い、高め合う仲間づくりをしていかないと、自分もうるおわないし、仲間もうるおわない」。
(2005.1.21)


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