農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

現地レポート 農業新世紀をつくる女性たち 仲間を信じ、大切にし、ともに歩む
生活者の目で地域を元気に
農業の素晴らしさ伝える――
全国女性農業経営者会議会長・新潟県農村地域生活アドバイザー
今井 延子さん(新潟県新発田市)

◆田植えに感動。 「農業を天職にしたい」

今井 延子さん
今井 延子さん

 今井延子さんは、日本有数の稲作地帯・新潟県北蒲原郡加治川村のサラリーマン家庭に生まれ育った。中学生のときに、子どもたちが農業の手伝いをできるように田植え休みがあったが、非農家の延子さんはやることがないので、近所の農家の友達に頼んで田植えを手伝った。そのときの感動と自分が手植えした稲が日々生長する姿を見ていて植物の力に感動し農業を職業にしたいと思い、農業をする人を選んで結婚したいと思っていた。
 農協に勤めていたときに、農家組合員から見合いなどの話がいくつも持ち込まれるが、「農業はやめるから、若い人は農業をしなくていいよ」という話ばかりで「一緒に農業を」という人はいなかった。そして、農業をしているご主人を紹介され結婚。「いわれたことをやってきただけだが、やっただけの感動があり、それは農業ならではだなと思う。自然と向き合い、その年その年の天候に合った作り方があることを知るなど、新たな発見も多く、農業をやめたいと思ったことはない」という。

◆不満をぶつけるだけでは何も解決しない

 だが、農家の女性が負わされるものは多く重い。サラリーマン家庭では、休みや自由時間がある。しかし、農家では1年中朝から夜までずっと仕事をしていて、その延長に家庭があるような感じで、ケジメがないように思えた。その精神的な負担は想像以上だった。耐え切れずに実家で愚痴をこぼせば「嫁のお前が我慢しなければ」といわれる。それで耐えに耐えてきても限度があり、ご主人に不満をぶつけるが解決しない。
 そんなときに普及センターで職業として農業を考える主旨のセミナーが開催され、それに参加。「私の考えに間違いはない」と確信する。
 そして、夫に不満をぶつけるだけのやり方ではダメだ。現実的に何にどう取り組めばいいのかを考えた。経費や労働時間を数字でとらえ給与を月々もらえるように、実権を持つ義父にあたって砕けろと勇気を奮い、直接、話をした。農協の組合長も経験している義父は時代の流れも分かっていたのだろう、思ったほどの抵抗もなく延子さんの話を聞いてくれた。
 その後、長男の就農を機に家族経営協定を締結。もちろん、すぐにできることもあるが、時間がかかるものもある。だが10年間、悶々としていたことを考えれば早いペースで変わってきたといえる。

◆トラクター免許の取得仲間と 「ピンクのつなぎ普及隊」をつくる

ピンクのつなぎ普及隊の仲間たち。右端が今井さん
ピンクのつなぎ普及隊の仲間たち。右端が今井さん

 そして自分でも何かしなければいけないと考え、トラクターの免許取得に挑戦する。このことで2つの大きな収穫があった。
 一つは、田起こしは、田んぼごとの土の状況に応じて回転数や深さを変えなければいけないことを初めて知ったことだ。行動するたびに知識や情報を得ることが多くなり農業の奥深さに触れ、農業の素晴らしさを実感できた。
 もう一つが仲間との出会い。やりたいと思い飛び込んだ農業だが、農業をやっている人たち自身が、農業は辛い、暗いというイメージをもっていることに疑問を感じていた。しかし、このときの仲間は同世代で「農業って素晴らしい。こんなにいい職業はない」と考える女性たちで、このまま別れるのはもったいなかった。そこで、農業の素晴らしさを分かってもらうために何かしようと「ピンクのつなぎ普及隊」をつくった。平成4年のことで、仲間は7人だった。
 「ピンクのつなぎ」は、仲間の一人が生産法人の一員で、ピンクのつなぎを作業着にしていたことと、ピンクは気持ちを明るくさせるからだ。7人は北蒲原の各地にいて、常にピンクのつなぎを着て仕事をすることを申し合わせる。それが新聞に掲載され、テレビにも出演したり、講演依頼も数多くあって、初めて人前で自分たちの考えを話すようになる。それが自分たちの気持ちを表現する方法にはこういう方法もあるのかと注目され、福島や福井でもピンクや赤など仲間で色を決めた作業着を着て仕事をするグループが次々と誕生していくことにつながった。

◆農業への想いを寸劇やミュージカルで表現

 いま延子さんは「You&I」というサークルで活動している。このサークルは新発田市内の5農協が合併し女性部も一緒になったときに、「せっかく合併したのだから、輪を広げるためにも自分たちで企画し行動するサークルをつくろう」と10人くらいでつくったサークルだ。
 最初の活動が老人ホームの慰問のための寸劇だった。そして、1年9ヶ月かけ、オリジナル曲3曲も入ったミュージカルも制作し、県内を中心に上演活動を行なっている。寸劇もミュージカルもテーマは「農業は素晴らしい」というメンバーの想いを農業者に伝え、ともに農業を考えることだ。
 そしてこのサークルの仲間に不登校の子どもを抱える人がいたことから、同じ仲間の酪農家に市内の不登校児を招き、彼らの心の傷を癒す活動にも取り組んでいる。
 こうしたさまざまな活動は、生活者の視点をもった女性だからできることであり「農業っていいよね」という仲間がいるからできたといえる。「仲間は私の大事な宝です」「みんなと行動するたびに新しい発見がある」と延子さんはいう。自分たちで何か創りだしていかなければいけない時代には、こうしたエネルギーが必要だとも。

◆消費者の食卓とつながるような農業をつくりだしたい

 今井家は、この集落唯一の認定農業者で、委託を含めて市内や隣村に点在する11ヘクタール、89枚の水田を経営している。働き手は延子さん夫婦と長男。そして畑作を義父と義母が担当する。
 水稲については、近隣がコシヒカリ一辺倒なのにたいして、早生種を4割作付けしリスク分散をはかっている。
 米の消費や米価をみれば、従来のような米単作ではなく複合経営に転換していかなければならないと延子さんは考え、いまその方法を模索している。そして、農業にとって消費者と生産者がもっと密着するのが基本だから、「直接、私が作ったお米を買ってもらっているお客様の食卓まで視野に入れ、情報交換できる関係をつくりたい」と夢は広がる。
 異業種の人たちと話すことで生産でき、加工し、販売できる農業の優位性を痛感し、創造できる農業を考えなくてはいけないと思ったからだ。そして「農業も農協も私たち一人ひとりも、“守り”を取り払わないと改革はできませんからね」と結んだ。

(2005.1.21)


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