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特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために |
座談会 農業新世紀をつくる女性たち ネットワークづくりと情報発信で農村を元気にしよう |
堀 周子さん(山形県酒田市) 今井 延子さん(新潟県新発田市) 井上 幸枝さん(広島県世羅町) (司会)今村奈良臣氏 東京大学名誉教授 |
◆「名刺」は自分の旗印 主張の場に女性はもっと参加を
今井さんは地元での活動はもとより「全国女性農業経営者会議会長」として全国的なネットワークづくりをしていますし、井上さんは「せら夢高原6次産業ネットワーク」の主要な一員農産加工グループ「かめりあ」の会長として活躍しています。また、堀さんは酒田市で立ち上げた女性農業者の組織、「きらきらネットワーク倶楽部」の初代会長を務め若い人たちが熱心に活動する基盤をつくった。ついでながら私が常々主張してきた地域農業の6次産業化にも取り組んでいるという共通項もあると思います。 ところで、今日、お会いしますとみなさん名刺を差し出してくれましたね。 私は、名刺を作れないような農業者ではだめだと言ってきた。というのも農産物を売りにいったり、さまざまな人と情報交換したりというときに、名刺がなければ相手だってどういう人か分からないでしょう。つまり、自分で旗印を掲げること、が大事だということです。その点で名刺とは自分がどういうことを考えているのか社会に知らせる重要な手段です。名刺を持つことは自立する精神ということでもあるわけです。 井上 私たちのグループも全員に名刺を持たせるように一応したのですが、まだまだ使うことをしませんね。それは社会に出ていくという癖がついていないから。たとえば、地域の会合に出ても黙って聞くだけ。男の人が話していることを、あれは違ってるよね、と思いながらも意見を出さない。そういう公的な場で自分の意見を言うという癖がついていないんです。 堀 私たちの「きらきらネット」でも10年前に同じことをしましたね。
◆お互いを認め合い力をつけることを大切に
今井 私は仲間と「ピンクのつなぎ」を着て農作業をするという活動を10年ほど前に始めましたが、これがマスコミに注目されたんですね。取材を受けたり発表の機会が増えたものですから、たとえば写真に撮られるときのポーズづくり(笑)に始まって、自分の意見をきちんと発表しなければならない訓練の機会になりました。寸劇ミュージカル活動もやっていますが、何を表現したいのか、自分たちの考えをどう表せば伝えられるのかという点で非常に勉強になっています。自分の意見をきちんと言うことは女性が社会参画するうえでとても大事なことだなと思いますね。 今村 自立した個性がつながっていることが、ネットワークですからね。ただ単に人と人がつながっていることとは違うわけです。 堀 その基本にはお互いがお互いを認め合うことがないといけないと思いますね。この人はちょっとおかしい、ではなくて、こういうところがいい、自分にはない部分だな、と考える。自分に返しながら活動を続けられるかどうか。女の人ってとかく男性よりも足の引っ張り合いをすると思うんですよ。ですからリーダーになったときにどう関わるかがすごく大切だなと思いますね。
◆食文化、農の心も視野に農村からの発信を続けよう 今村 さて、女性は食べ物の安全・安心や、環境に対しても関心が高いですね。それには子を育てるということもあって、食の安全・安心などと難しいことを言わなくても、自分の子どもに変なものは食べさせられないという根本的なものがあるからでしょう。その気持ちがもっと食の安全・安心に向けた社会的な広がりにつながっていくはずですね。みなさんの活動を見ているとたとえば特別養護老人ホームや学校給食などへ地域の農産物を供給したり、また、今井さんのようにミュージカルなどを通じた心のつながりというものを広げていく取り組みもあります。 井上 私は自分たち作っている「大豆テンペ」がすごくいい食品ですからそれを広げていきたいと考えています。地味な食品かもわかりませんが栄養成分は高いんです。それをもっと食べてもらいたい。 今村 私が世羅を訪ねたときには大豆テンペを使った料理コンクールが行われていましたね。応募されたメニューは、スープやコロッケ、餃子から菓子に至るまで幅広いもので料理の基礎材料だと分かりました。栄養価も高いわけですから子どもが大好きなハンバーグなどにも使えばいいと思いますね。 井上 そうですね。大豆生産者が誇りをもってつくってもらえるようにしたいですね。 今村 転作としていやいや作るのではなくてこの大豆は米を作るよりも最終的にははるかに儲かるんだという方向にもっていくことが大事で、それには井上さんたちのように最終消費の姿まで考えている女性の力が非常に大事になるわけです。
◆地域の埋もれた資源に光当て活性化めざす
今村 消費者との交流には今井さんも力をいれていますね。 今井 私たちは不登校の子どもたちを対象に寸劇ミュージカルのグループで農業体験をしてもらう活動をしています。
◆機能集団としての農業者ネットワークに期待する
今村 ここで私の持論を聞いていただいてみなさんの考えを伺いたいのですが、それは日本の農村は長男集団だということです。講演などに行って出席者に聞いてみてもまず次男、三男はいない。農協の役員、職員もそうです。もちろん女性理事もほとんどいない。
◆大切な男性への理解促進 語り合い、ともに考えること 堀 酒田市の農業賞受賞の祝賀会を開いたのですが、メンバーの夫も招待しようということにしてそれぞれが夫の名前を書いて招待状を出したんです。24名中、仕事の都合でどうしても来られないという人を除いて20名が参加してくれました。男性に知ってもらうということもやはり大切ですね。 今村 それは酒田では革命だね(笑)。 堀 祝賀会では家族に感謝の花束を贈ったり。参加した夫たちは本当に私たちがいいことをしたな、と再確認した人もいました。ずっとバックアップしてくれている人もいますが、初めて自分の奥さんがこういう活動をしていたんだと知った人もいましたね。私たちも夫に感謝しましたし、みんなで「よかったの」と喜び合う場にすることができました。 今井 全国女性農業経営者会議では、毎年、ベストパートナー賞を選んでいます。会員のみなさんから家族協定は結んでいるかなどの項目に答えてもらって応募してもらっているんです。そのなかから毎年、2組を選んでその方たちには夫婦で全国大会に出席してもらうようにしています。女性の側はこういうかたちで男性側を受け入れていく努力をしていますが、やはり男性が自分の奥さんがこういう活動をしているんだと認識してもらえるようになったと思います。 今村 そういう意味では地域を元から変えるエネルギーが女性のネットワークから生まれているということでしょう。少し遅まきながらも今後急速に変わっていく可能性が見えてきたということだと思いますね。
◆グリーン・ツーリズム グループの持ち味生かして役割分担を 今村 ネットワークという点ではグリーン・ツーリズムのあり方も今後の課題になると思っています。 井上 確かに自分の家ですべてお世話をしなければならないという意識があって昨年も韓国から10家族の視察がありましたが受け入れ体制を整えるのに苦労しました。料理も出さなければいけない、言葉も勉強しなけば、どこかに連れていかなくてはと、みな考えてしまうんですね。 今井 日本人はお客さんを招くとき失礼になってはいけないととても気を遣いますからね。 今村 お客さんという意識が強すぎるのではないかということです。 堀 私たちの地域にはグリーンツーリズム庄内というネットワークがあって、それぞれの持ち場を生かしながら訪れる人を受け入れることを考えています。泊まるところはだれそれの家、ランチはここ、そして農業体験は私たちが受け入れますよというネットワークをつくりながら庄内のよさを発信していく。宿泊も食事も農業体験もというとやはり疲れてしまってとてもできない、長続きしないということになると考えています。お互いのいいところを出し合いながら受け入れのネットワークをつくっていこうということであれば負担も少なく、自分たちも地域のいろいろなグループと交流ができると思います。
◆農業の後継者をどう育てるか 体験を増やし心を育てる 堀 それから農業研修生の受け入れも農家に求められることですね。わが家にも学生さんや海外からも来ますが、こんなに楽しいのになぜ受け入れるところが少ないのかなと思います。研修生を受け入れたことによって家族も自分たちの経営の見直しもできるし、家族のあり方も考えられるし生活の組み立て方も話し合うきっかけにもなります。 今村 いわゆる後継者の問題では、私はもう中学のときから関心を持たせるべきだと思いますね。農家の後継者というのではなくて地域の農業の後継者と考えるべきなんです。 今井 私も農家の出身ではなく農業をやりたいと思ったのは中学のときの田植え体験がきっかけです。そういう意味では中学生ぐらいの体験が大事だなと思いますね。 今村 後継者はもう男の子と考える必要はないんです。女の子を育てる。女の子を育てさえすれば放っておいても男はついてくる(笑)。 今井 確かに研修でも女の子はまじめですね。男の子はどうもすぐにさぼろうとする(笑)。今の時代は何でもできる時代でもあるわけですから農業でがんばろうという女の子たちが農業をやることになるかもしれない。そのために法人化を進めようということでもあると思いますね。
◆女性参画と家族の支え 家庭でのコミュニケーションが基本 今井 ただ、今の問題としては社会参画という点でも女性がもっと出ていかなければいけないと思います。 堀 その話を聞いて思うのは、私たちが活動しているときに、ご主人が、今日はうちのかあちゃんどこさいったんだ? というような活動の仕方をしている女性がいることです。そうではなくてやはり今日はこんな活動をしてきた、こんな話を聞いてきたときちんと家族に伝えられることが必要だと思います。家族に自分の体験を返していく、そのなかでいろいろな話をすることが大事だと思うんですね。
◆地方分権の時代 男女ともに問われる地域の力の発揮への関わり 今井 地方分権が叫ばれるなか交付金の使い方にしても、地元のことは地元で決める、という流れのなかで考えてみると農協の理事さんの質も問われてくると思います。そういう体制のなかで女性がどんどん出ていける状況ではないので女性側の意見を伝える男性もいてくれなくては困る。堀さんのご主人のように農業や女性の側に立つ人がいないと、本当にこれからいい地域なるところとそうでない地域の2極化が進むと思います。 堀 農協について言えば、先日、農協のトップの方と話をしたときに農協の理事のほとんどは後継者がいなくて未来を語れないという話を聞きました。こんな農業にしようということを言葉で言えない人が理事になっている…。だから、これをやろうといっても、よしっ、て受けてくれる人がいない、そこがネックだと言ってました。 今井 私も地元で同じことを聞きました。農業を捨ててしまった人が職場として農協に勤めているから未来が語れないと。だから、農家をよくしようというより農協をよくしようということになってしまうのかもしれませんが。 井上 やはり私たちの農協への働きかけも大事です。いろいろ問題はあるとはいえ、やる気があって必死にがんばっている職員もたくさんいます。その人を元気づけて応援するということも大切だと思います。 今井 今日話題になったさまざまな分野との交流、ネットワークづくりは農協にも求められているしそのことに気づく人がいてくれたら変わると私は期待したいですね。 今村 女性参画の問題から地方分権、さらにそういう時代なかで求められている農協の役割まで現場の実感をこめて示唆に富むことをたくさん語ってもらいました。みなさんの今後の活躍を期待します。ありがとうございました。
(2005.1.24)
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