農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

レポート 子育て支援活動とJA女性部再生のシナリオ 
―農村女性の子育ての夢と現実
山本 雅之 (社)地域社会計画センター 常務理事

◆高齢化で女性部が消滅する!?

山本 雅之氏
やまもと・まさゆき 
昭和19年生まれ。東京大学工学部建築学科卒。48年JAグループのシンクタンク設立準備に参画。49年全国JAグループの出資で(社)地域社会計画センター設立。以来、JAの施設再編・業務改革、生活総合センター建設、ファーマーズマーケット建設、農住まちづくり、優良田園住宅団地建設などの実践プロジェクトを多数手がける。
  現在、JA女性部員の数は全国で約100万人。40年前のピーク時320万人と比べると、3分の1以下にまで激減している。最近は毎年10万人ほど減り続けているから、このペースで部員数が減少していくと、あと10年ほどでJA女性部は自然消滅してしまう運命にある。
 この最大の原因は、部員の高齢化だ。いまやJA女性部は、部員の約7割が50歳代以上、約4割が60歳代以上という超高齢化組織。若い世代の部員は、20歳代と30歳代を合わせても1割に満たない。
 この先、高齢のためにリタイアする部員がさらに増えていくことは確実だから、若い世代の新規加入が進まなければ、組織として存続していくことはとうてい無理な話だ。

◆悩み多き農村の子育て

 ところで、若い農村女性がJA女性部から離れ始めたのは、いつの頃からだろう。部員の数が加速度的に減り始めたのは90年代初めだから、おそらく、この頃から若い女性のJA女性部離れが顕著になってきたのだろう。それは、バブル崩壊とデフレによって農業経営が落ち込み、都市部よりひと足早く農村部の少子高齢化が進行し、集落の助け合い機能が弱体化していった時期と一致する。
 とくに、乳幼児を抱える農村女性にとって、今はかつてない「悩み多き時代」といっていいだろう。子供の数は少なくなったが、そのために子育ての実経験の乏しい母親が増え、農作業の手伝いを強要されない代わりに、子育てに関する夫や義父母の理解・協力はかえって得にくくなった。
 そして、同世代の母親と話し合う場も、地域で互いに助け合う組織もなく、子育てと家事と農作業に孤軍奮闘する日々が続く。なかには、家庭でも地域でも孤立し、ストレスが溜まって精神疾患に陥ったり、子供の虐待にまで至るケースもある。
 その点、子育てに関する限り、農村女性は都市女性よりもずっと不利な環境条件に置かれている。都市部では、働く女性のための保育所や託児所が駅前などに開設され、企業も事業所内託児所や育児休暇制度を用意している。専業主婦も、外出時には子供を預かる会員制のファミリーサポートセンターが利用でき、気軽に育児相談ができる子育て支援センターもある。
 これに対して農村部では、子育て女性の約五割が家の農業に従事しているが、職業とはみなされていないから給料も育児休暇もない。しかも、約七割が義父母との同居で、子供を預けて外出することにどうしても気が引けるから、同世代の仲間との交流機会がなく、育児相談の機会があってもほとんど利用することができない。

◆子育て支援活動が地域を活性化する

子育て支援の助け合い活動を広めることがJA女性部再生の道でもある
子育て支援の助け合い活動を広めることが
JA女性部再生の道でもある

 2003年の合計特殊出生率は全国平均で1.29人、04年に産まれた子供の数は110万7000人(厚生労働省調べ)。いずれも、統計が始まって以来、最低の数字である。このまま少子化が続けば、やがて生産力が落ちて地域経済が低迷し、国全体の活力が失われることは間違いない。
 そのため政府は、これまでの「高齢者福祉」一辺倒の社会保障費を見直して、「子育て支援」にも重点配分していく方針だ。しかし、いくら政府が「子育て支援」の助成措置や保育施設整備などを進めても、子育ては個人の価値観とライフスタイルに深くかかわる問題だから、そう簡単には状況が変わらないだろう。
 女性が子供を産むか否かの意志決定をする際の決め手。それは、家族と地域に「子育て支援」の意識と協力体制があるか否かである。実際、地域における子育て支援活動が、出生率のアップと地域の活性化につながっている例がある。
 その典型が、沖縄県の多良間島(人口約1400人)。03年の出生率は3.14人で、全国平均1.29人の2倍を超すダントツの日本一だ。この島では、子供が産まれると地域全体で祝い、農繁期には義父母や隣近所の人たちが交代で子供の面倒を見る。育児の相談も、経験豊富な隣人たちが気軽に乗ってくれるという。
 行政主導で子育て支援に取り組み、出生率のアップを実現した静岡県の長泉町、愛知県の日進町、兵庫県の五色町などの例もある。ここでは、子育て女性が親子で気軽に利用できる交流スペースや、専任スタッフが親身に育児相談に乗ってくれる場など、若い女性の子育てに対する不安を解消する受け皿づくりが、安心して子供を産める環境整備に大きな効果をあげている。

◆ネックは中高年世代の意識

 ここで、改めてJA女性部の活動内容を見てみると、その多彩なメニューに驚かされる。「食料・環境問題」に始まって「地産地消」「食育」「都市・農村交流」「リサイクル」「男女共同参画」「助け合い」「高齢者福祉」「ライフプラン」「健康管理」「家族経営協定」に至るまで、実にさまざまなテーマが掲げられている。
 だが、「子育て支援」はどこにも見当たらない。若い農村女性にとって最も関心の高いテーマが、JA女性部の活動メニューにないのはなぜだろう。『いつか行く道』である高齢者福祉活動には熱心でも、『いつか来た道』である子育て支援には無関心というのでは、若い農村女性がJA女性部にそっぽを向くのも無理からぬことではないか。
 こういえば、JA女性部の中高年世代のなかには、『私たちの時代は、子供をたくさん育てながら家事も農業も立派にこなしてきた』という反論が出てくるだろう。今は子供の数も少ないし、家庭電化で家事は楽になったし、農業の手伝いを強いられることもないから、『子育てくらい一人でやれなくてどうするの』といった気持ちが強いに違いない。
 このようなJA女性部の中高年世代の意識。実は、それが子育て世代の若い女性を家庭内でも地域でも孤立させ、JA女性部への参加意欲を失わせ、ひいては農家の嫁不足を深刻化させる最大の「壁」なのである。

◆子育て女性に支援の手をさしのべよう

 確かに、昔の農村の暮らしと比べれば、今の農村女性の家事と農作業の負担は大幅に軽くなり、公的保育サービスも充実して自分だけの自由な時間が増え、農村女性としての個人の価値観とライフスタイルを持てるようになった。これは農村社会の大きな進歩であり、JA女性部の50年余にわたる活動の成果といってもいい。
 しかし、その反面、今の子供は同年代の子供どうしで遊ぶ機会が少なくなり、母親どうしも互いに情報交換をする場がなくなり、子育てに対する家庭内の理解・協力体制や地域における助け合い組織活動もすっかり弱くなってしまった。その結果、若い農村女性の子育てに関する不安感と孤立感は、昔よりずっと深刻になっている。
 中高年世代の方々には、今の子育て世代の農村女性が抱えているこのような悩みや苦労をよく理解して、JA女性部として積極的に支援することを考えてほしい。その際、最も重要なポイントは、子育て女性を孤立させないことだ。それには、地域における助け合い活動が不可欠である。
 JA女性部はこれまで、高齢者の在宅介護や家事援助や配食サービスなどに関して、さまざまな助け合い活動の経験と実績を積み重ねてきたはずだ。今度は、それを子育て支援に生かしていこう。

◆農産物直売を交流と経済的自立の場に

 具体的な支援活動として考えられるのは、まず「子育てしながらできる仕事」づくり。たとえば、JA女性部から呼びかけて、ファーマーズマーケットに出荷する子育て女性のグループをつくる。そして、庭先農地を使ってできる簡単な農産物の栽培講習会、家庭で簡単にできる手作り加工品の商品開発や製造講習会などを開催しよう。
 ここで、岩手県JAいわて花巻の「母ちゃんハウスだぁすこ」、愛知県JAあいち知多の「はなまる市」、和歌山県JA紀の里の「めっけもん広場」に出荷している子育て女性たちの声(04年11月調査)を聞いてみよう。
 とくに印象的なのは、ファーマーズマーケットに出荷する子育て女性が一様に明るく意欲的なこと。孤立しがちな子育て女性にとって、ファーマーズマーケットはかけがえのない仲間づくりと情報交換の場であり、子育て後の「経済的自立」をめざす実地訓練の場にもなっているからだ。
 庭先の畑での農作業と自宅内で包装作業が中心だから、幼い子供がいても十分やれる。ファーマーズマーケットに出荷する時に子供を連れて行くと、同じ仲間たちがいろいろ面倒をみてくれて、子供もそれを楽しみにしているという。
 今後は、出荷場の一角に子育て女性どうしでの話しあいや相談ができる休憩コーナーや、連れてきた子供たちを遊ばせておける託児スペースをつくるのもいいだろう。

◆JA施設を気軽に集える女性のサロンに

JAいわて花巻の「わいわい子育てフリースペース」
JAいわて花巻の「わいわい子育てフリースペース」
  もうひとつは「子供連れで気軽に行ける場」づくり。最近は農村部でも、休日や夜間に乳幼児を預かる保育所、育児相談や子育てサークルのある子育て支援センターなどの公的保育サービスが整ってきた。ところが、あらかじめ申し込み手続きが必要であったり、時間指定があったりして、思い立ったときや急に必要になったときに気軽に誰でも行ける場所は、ありそうでなかなかない。
 そんな子育て世代の農村女性のためのフリースペースを、JA女性部がJAの協力を得て開設してみよう。
 JAいわて花巻では、本所施設の一室を利用して子育て女性のための「わいわい子育てフリースペース」を03年春に開設した。子育て支援ボランティアグループの協力を得て、毎月2回開催。毎回30〜40人の親子が参加して、子供たちを遊ばせながら、母親どうしの情報交換や悩み事相談をしている。ここでは、JAの料理教室や加工施設を使って、2ヶ月に1回程度、地元の食材を活用した農産加工や郷土料理の講習会も行っている。
 このサロンには農村女性のほかに、今までJAとはほとんど縁のなかった非農家の女性たちも参加。それが、子育てを通じた地域の新たな交流活動につながり、JA事業の利用客の基盤拡大にも貢献している。

◆子育て支援がJA女性部を再生する

 部員数の減少で衰退一途のJA女性部を再生するうえで、若い農村女性の新規加入を促す次世代対策は不可欠の要件である。それには、若い農村女性の最大の関心事であり、悩みの種でもある「子育て」に対して、JA女性部が積極的に支援の手を差しのべなければならない。
 その際、まず『子育てしながら家事も農作業もこなして当たり前』という中高年世代の意識を変えてほしい。そして、今の若い農村女性は、子育てに関して都市女性よりずっと悩みが多く、孤立しやすい状況に置かれていることをよく理解し、JA女性部として的確な支援策を考えてほしい。
 いちばん大変な子育て期に、JA女性部による助け合い活動のありがたさを実感してもらうこと。それが、若い農村女性にJA女性部への帰属意識を持ってもらい、新規加入を促して、JA女性部を再生する道なのである。

(2005.1.24)


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