農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第50回JA全国女性大会特集号 農業の新世紀づくりのために

地域ぐるみで始める 「子育て」の助け合い活動
―「子どもは宝」を合い言葉に母親をサポート
JAいわて花巻(岩手県)「わいわい子育てフリースペース」

 岩手県のJAいわて花巻では平成15年から子育て支援事業としてJAの施設を使った「わいわい子育てフリースペース」を開いている。地域のボランティアグループの協力も得て、フリースペースが開かれる日は子どもたちの元気な声が響く。0歳の赤ちゃんもこのフリースペースで大勢の大人に囲まれる時間を過ごす。農村女性の子育て支援としてこの先進的な取り組みを取材した。

 

◆子ども同士で遊ぶ時間

 「わいわい子育てフリースペース」は毎月2回、第2、第4金曜日の午前中に開かれている。
 午前10時になると小さな子どもを連れた母親やおじいちゃん、おばあちゃんがやってくる。おばあちゃんに抱きかかえられた赤ちゃんがやってくると大人たちから歓声が上がり「抱っこさせて」とさっそくたくさんの声がかかる。「赤ちゃんは奪いあいなんですよ」とボランティアの女性はうれしそうに話す。
 伊藤さくらさんは、2歳の匠君と昨年8月に生まれた響生君の2人を連れてやってきた。このフリースペースのスタートから利用している。「子ども同士で遊ばせられますし、他の大人に面倒もみてもらえます。子どもたちのストレス解消にもなるようですし私も少し自由になれて身体が休まります」と話す。
 ボランティアの人たちは母親として伊藤さんの先輩にあたる女性だ。「子どもがぐずって寝付きが悪いときはどうしたらいいかとか、食事で気を付けることなどいろいろな話を聞く機会にもなっています」という。
 縄跳びや風船で遊んだり、絵本を読んだりと過ごし方はさまざまだが、やはり子どもは元気に走り回るのがいちばん楽しいのだろう。子どもたちの声が響くなかでお母さんたちから話を聞くのも一苦労だ。

◆地域ボランティアとの連携が不可欠の活動

 この事業は農水省の補助事業「女性農業者経営参画支援事業」をきっかけに始まった。14年度は農村女性の子育て支援を考えるため(社)地域社会計画センターの協力で、まず現状と課題を探るためのグループインタビューやシンポジウムが行われた。
 そこで明らかになったのは、「母子ともに近所に友だちがいないため孤独感がある」、「学童保育の整備がない」、「0〜3歳までは家で育てるしかない」といった子育てに悩む声だった。農業に携わっていることから家族で働き子育てとも両立できるという面や、また「畑や田んぼがよい教育の場になる」との意識もあるが、一方で子育ての悩みを多くは母親一人が抱えていることも示された。
 こうした状況をふまえて地域での支え合いをめざしてスタートしたのがこのフリースペース。JAの福利厚生施設「洗心館」を利用してはじまった。
 15年度の子どもの参加人数は延べ226名。親など大人の参加を合わせると398名にのぼった。16年度は昨年末までに合計414名にのぼっている。もっとも多いときで子どもの参加が20名を超え大人と合わせて40名近くになった日もある。
 活動を支えているのは子育て支援ボランティアグループ「ほのぼの」だ。花巻地方振興局が開催した託児支援のための講座を受講した女性たちが4年前に立ち上げた。地域のボランティアグループの協力がこの活動に不可欠となっている。
 会長の藤原幸子さんは「みんな子どもが好きで日ごろから関心を持っていた人たち。何かの役に立てればと思ってはじめました」と語る。藤原さんは若いころは保母をしていた。しかし、子育て時期は自分一人で背負ったため仕事をあきらめざるを得なかったという。「保母を続けることができずやはり心残りになっています。それもこの活動のきっかけです」。
 副会長の大橋友子さんは教員をしていた。その経験から、最近、子どもの育て方が変わってきたのではないかと感じていた。「家庭での日常生活で親が子どもに手や声を十分にかけているのだろうかと思うんです。ビデオやテレビの情報ばかりに囲まれているのではと。子どもはいろいろな大人からたくさん声をかけられることを期待しているものです。いくらかでもおかあさんたちにいい刺激を与えられればと思っています」。
 確かにここではいろいろな声に囲まれて過ごす時間が子どもには得られる。また、大人も世代を超えて情報交換ができる場になっている。

◆「地産地消」テーマにJAならではの活動も

 16年度からは第4金曜日に「地産地消」をテーマにしたお楽しみ会を開催している。たとえば、桜もちづくりや、アイスクリームづくり、果物パーティなどだ。地元の食材を使ったJAならではのお楽しみ会でこのときは材料費などの会費を参加者からもらっている。
 こうした活動で参加する親子にこの地域や農業についての理解を深めてもらうことが狙いだ。それだけでなく子育て支援の場での情報交換を通して、若い母親たちが女性農業者としての経済的基盤づくりのきっかけになることも期待されている。たとえば直売所への自分で作った加工品の出荷だ。同JAではファーマーズ・マーケット「母ちゃんハウスだぁすこ」を運営しているが、自分で作った農産物を出荷したいと考えている女性は多い。

◆農家らしい生活のなかで子育てをしたい

JA本店近くの「洗心館」をフリースペースの場として利用
JA本店近くの「洗心館」を
フリースペースの場として利用
  大和美砂緒さんは小学4年生を筆頭に5人の子どもを育てている。家族は10人。出身は長崎県で6年前に夫の故郷の花巻にUターンしてきた。東京では看護婦をしていたがUターン後の一時期を除いて子育てに専念してきた。だが、義父母との農家の暮らしをするうちに「農業であれば自分の責任で働く場所をつくれる」ことに気づいた。
 「生活ががらっと変わり環境も違えば食べ物も違って戸惑いがありました。ただ、義父母の生活をみていると、この地方ならではの保存や加工の仕方、餅などは自分の家で作るものという生活がだんだん理解できた、自分は生活を学べる場に来たんだなと思うようになりました。自分自身の力で少しでも収入が得られるように農業ができることが夢です」。
 農業の経験はないが、義父母とともに畑で種を植え作物を育てる経験をするうち芽が出たことに喜びを感じた。
 「そのころから子どもたちがほんのちょっとしたことを実現できたときに、本当にうれしいと思えるようになりました。これは以前になかったこと。ちょっとした成長も楽しみになった。子どもをきちんと見る時間ができたんだなと思っています」。
 自分の体験から子育て支援に求められているのは「母親としての喜びを感じられる時間をつくってあげることでは」と大和さんは思っている。

 

女性農業者への支援と地域への貢献の視点で取り組む

 藤原徹代表理事組合長

 平成12年にJAとして独自に「女性担い手農業者認定制度」を制定した。農業の担い手として重要な女性に光を当てるためで農産加工やグリーンツーリズムなど多彩な農業に取り組もうという女性を、審査委員会を設けて現在までに146名を認定している。
 この担い手女性には金融での支援や研修、視察といった面だけではなく、自宅で抱える高齢者介護の支援のために優先的にJAのデイサービスが受けられるようにしている。今回の子育て支援も同様で、子育てを支援することで女性農業者が育っていくことをサポートしたいという位置づけをした。年寄りと子どもを抱えていて、規模拡大しようにもとてもそれはできない、という声に応えるための事業だ。女性の力はJAにとっても必要で今年から女性理事枠を設けることも決めた。
 この事業にはボランティアの協力が必要だがJAではこれまでホームヘルパー育成の支援や啓蒙活動に力を入れてきたし、また、全職員がヘルパー資格を取得する運動にも取り組んできた。また、職員が自分の地域でボランティア活動をすることを職場の制度として認めたり、必要な経費はJAが負担するという方針も打ち出した。
 こうしたJAの地域貢献への取り組みが地域の人々に浸透し、信頼されてきたことから、今回の子育て支援事業にも協力が得られたのではないかと考えている。
 子育て支援は確かに直接JAの利益になる事業ではない。しかし、私は助け合いという農協の基本的な価値観からすれば大切な事業だと考えている。また、地産地消をテーマにしたイベントも取り入れるなどJAらしい取り組みも行っていくことも地域農業への理解につながる。
 地域の人々のJAへの理解を深め支えられる、地域協同組合といいう性格もJAは持つべきだ。それが地域の活性化につながると考えている。

(2005.1.25)


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