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特集 JA全青協創立50周年記念特集 (2) |
農業協同組合新聞紙上ミニシンポジウム 「担い手」のエネルギーで 農業新時代を築こう |
出席者 全国農協青年組織協議会会長 (JA全青協) 三上 一正氏 全国農協青年組織協議会副会長 農林水産省経営局経営政策課課長 JA全中農政部部長 東京大学大学院助教授 新たな食料・農業・農村基本計画は3月末に閣議決定が予定され、今、最終的な策定作業に入っている。新基本計画の柱のひとつが担い手の確保、育成策と担い手に対する経営安定対策の確立だが、具体的な内容は基本計画決定後に引き続き議論されることになっている。担い手問題はいわば議論のスタート地点に立ったところだ。そこで今回は、地域農業の担い手であり、また、将来のJAの担い手でもある青年農業者の視点からこの問題を議論するため、JA全青協創立50周年記念特集の第二弾として三上会長と藤木副会長、農水省経営局経営政策課の柄澤課長、JA全中農政部の冨士部長に語ってもらう紙上ミニシンポジウムを企画した。 ◆新基本計画への青年農業者の期待と課題 小田切 新たな食料・農業・農村基本計画の策定が大詰めを迎えています。ただし、今日のテーマである担い手問題については、新基本計画では一定の方向が示されるだけで施策の対象とする担い手像など具体的な議論は今後行われることになります。そこで今日は創立50周年を迎えたJA全青協から三上会長、藤木副会長に来ていただき本音で担い手問題を語っていただく機会にさせていただきました。
三上 われわれとしては自分たちが担い手だという意気込みで検討に取り組みました。 ただ、今回、基本計画の議論のなかでの担い手問題は、われわれにとっては情報がやや中途半端で、どういう形で議論が進むかということが見えなかったものですから、まずわれわれの農政への思いを伝えるということで提言をまとめたわけです。 そこでは担い手問題だけではなく基本計画全般について、たとえば、農地利用計画や農村整備計画をきちんと策定するとか、それもJA、行政、また地域住民も一体となったかたちで策定すべきであることや、さらに、担い手への経営安定対策では、水田もきちんと含めた農業経営に対する対策にすべきだといったことも盛り込んでいます。 ほかにも農地制度にしても、担い手に農地を集積するために農地台帳を統一するなど農業者に分かりやすい制度にすることや、土地改良などにともなう負担を軽減するなどいろいろな改革があると思います。 審議会の議論を聞いているとこうした、まずやれることにきちんと手をつけるべきなのに、どうも現場が求めていることには手をつけないで違うところに焦点が行ってしまっている気がしました。そこがJA全青協の提言の思いだということです。 小田切 担い手問題では、推測するにJA全青協のなかでもいろいろな地域性、作目の差などがあってメンバーの方々の意見は必ずしも一枚岩ではなかったのではないでしょうか。提言をまとめるまでの組織討議の過程ではどのような議論があったのでしょう。 藤木 たしかに北と南では地域性があまりにも違いますから、どうしても都府県と北海道では考え方に差が出てきました。 結局、担い手に対する経営安定対策は畑作を対象にして話が始まったものですから、どうしても北海道がメインになってしまって、都府県までを含めた議論ではなく北海道だけの議論をやりたいという意見も強く出ていました。 そのほかは、やはり誰に担い手という考え方をあてはめていくのか、ということも議論になりましたし、それからそもそも現場としてはこの経営安定対策にあまり魅力を感じないという意見もありました。 たしかに担い手に農地利用を集積していくというのは理想ではあると思います。しかし、集落を守っていくということでいえば、数は力なりじゃないですが、ある程度農家を残していかないと農村の機能は発揮できないと思うんですよね。そこをもっと詰めていくべきではないかと考えています。 ◆「選別」が政策の目的ではない 柄澤 まずなぜ担い手の議論をしているのかとのそもそもの考え方を理解していただければと思います。 日本の農業の実態を見たとき、膨大な耕作放棄地が出ている、集落を見ても担い手がいなくて誰がその農地で作るのかという集落もある、という声が聞こえてくるわけです。 こういう実態をみたときに、この先、継続的に安定して経営していく担い手がいなければ、農地をだれも利用しないとか、あるいは集落自体がなくなってしまうことも考えられるわけです。すなわち、農業もひとつの産業として安定的、継続的に経営できるような担い手がいなければ、農地利用も成り立っていかないという状況になっていると思います。 では、具体的な担い手をどう考えるかという点については、個別経営でもいいし、集落全体でもいい、あるいは法人でもいい、いろいろなタイプの担い手があり得るわけで、担い手の類型はこうでなければならないということを言うつもりはないわけです。 次に、今回の経営安定対策の対象部門をどう考えるかとの点ですが、内外コスト差の顕在化という共通の括りができる品目については横断的に捉え、水田なり畑作について共通の政策で覆っていくことを考えています。 一方、野菜や畜産といった部門専業的な世界については、横断的な制度とすることは難しいのでそれぞれの部門ごとに経営安定のあり方を考えるべきと思います。 一方、担い手の明確化とは、地域で具体的にどういう人を担い手として位置づけるのかということです。それは、水田であればJAグループが地域水田農業ビジョンづくりに主体的に取り組んでおられ、現在27万の担い手がリストアップがされているわけです。他方、農地流動化の関係では、各市町村が農地利用を集積すべき相手をリストアップしているということもあります。このようなさまざまな制度の中で、担い手が明確になりつつあると思います。
小田切 今のお話では多様な担い手を地域の合意で決める、これが基本路線だということです。ここの部分だけ見れば全中の考え方と違わないと思いますがいかがでしょうか。 ◆集落での改革意識 そこでここからは、地域合意で担い手を特定化するということについて議論を深めたいと思います。この問題について、会長、副会長、現場ではどう受け止めていますか。 三上 私は平成12年に麦、大豆の助成金を使って集落営農ができればと思い地元で作業受託組合をつくりました。法人格までとりましたがここからどうやって先に進むかが今最大の課題です。というのは、地域の合意を得て経営することは非常に難しいからです。 農地を借りて集めても、米はだめですから、麦、大豆になりますが麦は梅雨があるからだめだ、じゃあ、大豆だとなります。が、大豆は2、3年で連作障害が出てくるからどうしてもローテーションしなければならない。となると、残った農地では何をつくるか。青森なら長イモ、ニンニクがあるからそれを植えようか、ということになりますが、そうなれば水田には戻らなくなってしまう。そこまで合意を得るのは非常に難しい。 こういう問題があって、単に担い手を合意形成するだけではなくて、作物も合意形成しないとなかなかうまくいかないんです。そこが今各地で悩んでいるところじゃないかと思います。 小田切 今指摘された経営の課題は別として、「人」ということであればおそらく向こう10年以降だれがこの集落の農業を担っていきますか、という問いに集落内ではほとんど同じ人を指すというのが現状ではないかと思います。そういう意味では集落での担い手の特定化は実質上終わっていると考えていいでしょうか。
集落営農ということでいえば、私の町は平成3年から完全にブロックローテーションが実現している全国でも指折りの地域ではないかと思います。しかし、集落営農に参加する農家のなかでも、サラリーマンをしながら1ha程度の水田を持っていて表作と裏作をやることができるものですから、そういう家では自分ができなくなったとしても息子がどうにかこうにかやるだろうという認識しかない。息子にはやる気は絶対にない、でも、そこの親はいずれはやると思っている。だから、他人には貸さないという意識なんです。 ですから地域水田農業ビジョンを描くといっても、その前に各農家のビジョンはどうなっているのかが問題だと思いますが、それをまともに描けるのかと思いますね。本当にこれで将来も大丈夫ですかと言われたときに考える人はいるかもしれませんが、果たして誰がそこまで突っ込んで話をしてくれるのかという問題があると思います。 小田切 地域合意のための手法、あるいは集落と個人の関係が焦点にならざるを得ず、そこをどう乗り越えるかということですね。地域合意が前提であるにせよ特定化が必要だという理由について改めて農水省の考え方をお聞かせください。 ◆現場で望まれる政策、もっと重視を
もちろん副業的農家も農業をするのは自由です。しかし、農政の立場から言いますと、年間30万円の農家所得と470万円以上の所得を、まったく同じような手厚さで政策支援するということは、納税者の理解を得る上からも非常に難しいのではないかと考えているわけです。 ですから政策支援の対象というひとつのジャンルのなかにできるだけ移動してきていただいて、担い手として安定的、継続的に経営していただくということをしないと、農業自体も成り立ちませんし、国民の理解も得られないということが基本にあると思います。 そんなことを言うのであれば、兼業農家や小規模農家はどういう選択をすればいいのかという疑問が起こると思いますが、それには3つほど選択肢があると考えています。 1つは個別に小規模生産するのはコスト面からいっても成り立たないので、経営資源を担い手といわれる方に出すという選択です。そのときにそれは切り捨てではないかという声もありますが、われわれの試算では、5反以下ぐらいの零細な規模での稲作所得と、農地を出すことによる地代収入や生産コスト不要分とをくらべると、農地を出したほうが得だという結果もあります。 2つめは集落営農の組織化です。集落営農に参加することで配当収入もありますし、さらに出役すれば賃金ももらえる上に、集落営農が経営安定対策の対象になることも考えられます。 そして3つめの選択肢としては、小規模でも高付加価値の農業生産に取り組むということです。有機農業や観光農園などの形であれば、収益もかなり上げられると思います。こういった選択をしていっていただくことは十分考えられるので、今のままの農業構造を温存することは政策としては成り立たないと思います。 三上 お話を聞いて基本的なことを聞きたくなるのは、農政って何なのかということです。 私は今年34歳になりますがちょうど減反が始まった年に生まれたことになります。もともと米で食べていた農家がほとんどでそれが減反が増えてきて、何とかしなくてはならないといろいろ考えたのが長イモやニンニク、ゴボウといった畑も含めた経営でした。農家もいろいろ努力してきたわけです。専業でも兼業でも。 農家にとってみればそういうなかで何がほしいかといえば農産物価格です。ある程度採算が取れる価格帯であれば経営安定対策はいらないわけですね。それができなかったから担い手がいないという現状になったのではないか。 実態をみれば担い手をなんとか育成しなければならないのだという指摘ですが、今までも実態を見てきたはずですよね。 そうであれば、担い手を限定した経営政策を議論する前に、市場のあり方を見直すとか、最低限のコスト部分を保障するとか手をつけるべきではないか。われわれ農業者からすると今農産物では採算がとれないから国に求めているだけであって農産物で採算がとれれば問題はないんです。そういう構造にするいろいろな方法があると思います。 小田切 ご指摘の問題は価格政策にかかわる議論だと思います。これは、残念ながら、国際的な規律、WTO農業協定の制約のなかで、当面は議論をしなければならない。もちろんWTO協定自体を変えることも課題ですが、基本計画レベルでは、時計の針を戻すという議論は、できないんだろうと思います。 三上 戻すことはできないのでしょうし、担い手に対する経営安定対策はもうここまでくれば確かに必要かもしれません。しかし、私が言いたいのは、ほかにもまだやらなければならないことがあるのではないか、それも既存の政策のなかでできることがあるのではないかということです。担い手に施策を集中するという前に。 ◆地域農業再生に納得できる政策の姿を 小田切 先ほども言いましたように、私は農水省としても地域合意という農政の方向を打ち出したというのは、ひとつの前進ではないかと考えています。そうはいってもみなさんの現場の感覚ではそれは無理だということのようですが、しかし、では、今度は逆にお上が選別すればいいのかといえば、決してそうはいかないし、それは許してはいけないと思います。そういう意味で半歩ほどの前進かもしれませんが、そこは評価して地域農業発展の糸口を見つけるべきではないでしょうか。 藤木 土地の利用集積ができて担い手に集中すればそれは理想的だと思います。私の経営のメインは畜産ですが、私なりに計画があって、それを考えるとたぶん80〜90haの水田を使わなければならないと思います。意欲はありますし、またそれが可能な条件の地域に住んでいますからね。 ただ、私は米をつくるわけじゃないんですね、稲わらがとりたいがためにやるわけです。先ほど、品目横断政策についての考え方が説明されましたが、私は畜産と水田でもいいのではないかと思う。 しかし、地域では基盤整備が遅れていて、20a区画で用排水兼用です。それを今さら30a区画で用排水分離の基盤整備をしましょうと言われても、誰も応じてくれません。ただし、道から道までを1区画にすれば2ha程度になりますから、畦を取ってしまえば平坦地ですから十分に一枚の水田として使える。また、退職した方でも十分にオペレーターとして雇えると思います。その人たちの雇用をやりながら機械さえ抱えられればやれないことはないと思います。しかし、そこまで理想的な集積ができるのかどうか、なんです。
ただ、気をつけなければならないのは、新しい経営安定対策をこれからどうするかという問題があるわけで、そういう仕組みをどうリンクさせるのか、させないのかということだと思います。それが地域合意に対するインセンティブを与えるか与えないか大きな影響となるからです。 とくに今回の経営安定対策はWTOの規律上、「緑」の政策に転換していこうということから導入しようということですね。ですから、本当は担い手のみなさんにすれば数量に着目した支払いのほうがやりがいがあるわけで、努力が報われることになる。しかし、そうした「黄」の政策は認められないから、「緑」にするというわけです。 しかし、「緑」にすると言ったとたんに、極端に言えば、これは生産に連動しない支払いなんだから何を作ってもいい、面積さえあれば、という話になってしまう。 ただ、もともと緑の政策とは生産と連動しない支払いですが、一方で対象者を絞ること自体、生産を一定の方向に誘導することでもあるわけですから、対象を絞ったうえでの「緑」の支払いは可能かという議論もあると思います。 ですから、新たな経営安定対策を構造政策、地域での担い手育成や集落営農の組織化にどう連動させるのか、よくよく考えてまた、日本の実態に即してやらないと現場が混乱するし、地域での担い手の特定化などできないということになってしまうと思います。 たとえば、集落営農を組織化するひとつの契機は土地改良事業ですね。土地改良することによって農地の面的、団地的な利用を考えようということになる。もうひとつの契機はいわゆる機械化貧乏ですね。集落全体で10ha程度の農地しかないのに機械は10台も20台もあって、もうこれはもたないからやめようよ、もっと合理的に考えよう、という話になる。だいたいこの2つが象徴的なケースです。そういう意味では集落営農で1集落1農場的な農業をやっていくことは必要なことです。ただ、それをどう進めていくかというときに、個々の人たちにはいろいろな思いがあって、なかなかまとまらない面もあります。 そこで、それをまとめていくコーディネーターとしての農協、行政、普及所といった機関が一体となってサポートして集落の将来像を描くということが必要だと思います。そのことがなくて集落の人たちに任せているだけではなかなか進まないと思います。 小田切 地域合意に基づく担い手の特定ということに非常に大きな課題があるということがよく分かりました。 また、地域合意に基づく担い手づくりに普及員や農業委員会、農協の営農指導員が一体化、ワンフロア化での対応も課題となっています。ワンフロア化の話は、しばしば合理化という視点で議論してしまいますが、そうなると縮小再生産の道をずっと繰り返してしまう。そうではなく地域農政資源の強化という発想でのワンフロア化という議論が望まれると思います。
小田切 さて、地域のあるべき担い手構造を地域のなかから発想していく、組み立てていくという問題を話し合ってきましたが、そういう路線が現実にできればいいがなかなか難しいという意見もありました。基本的な点として何が問題でしょうか。あらためて、議論してみたいと思います。
小田切 今の論点は非常に重要な論点です。ひとつは、数少ない農業者が「担い手」として、なにもかも担わされてしまうという構図。これは、その中身が先送りされました農村資源保全対策と関連する問題です。もうひとつは、いわゆる財政負担型農政へ転換する中で、その負担をめぐる国民的コンセンサスが、従来以上に重要になるわけですね。それがなければ、新しい農政はひっくり返ってしまうわけです。今回の基本計画はまさに国民的コンセンサスをお題目ではなく、実質的に獲得することに向けて具体的な運動にまで展開できるかどうかが重要だと思います。 冨士 ぜひとも農村地域政策の具体像を早く出してもらいたいですね。そこがないと民心は安定しませんよ(笑)。
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(2005.3.9) |
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