農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 ニューパートナー獲得で確かな事業基盤を確立
    ―17年度JA共済事業のめざすもの

組合員・利用者の生活を守る
「総合資産相談員」制度で実績上げる

現地レポート JAいるま野(埼玉県)


 埼玉県南西部を管内とするJAいるま野は組合員数が6万9000人を超える大型合併JAだ。16年度の共済事業実績では、長期共済新契約で約2165億円、がん共済で3000件超などの実績を挙げ、年金共済も含めていずれも年度目標を達成するとともに優績表彰基準をクリア、特別優績表彰JAに選ばれた。
 輝かしい成果につながったのは組合員・利用者の生活を守るプロフェッショナル「総合資産相談員」を核とした支店のチームワークの発揮という推進体制と徹底した目標管理にある。16年度から新たに導入したこの推進体制を中心に同JAの共済事業の取組みと実績をレポートする。

◆専門性の発揮で信頼獲得

 
 JAいるま野の事業地域は埼玉県の面積の約19%を占め10市4町に及ぶ。本店のもとに地域を7つに区分して統括する事業部を置き、64支店で事業を展開している。
 各支店に配属されているのが「総合資産相談員」だ。
 「営農部門は営農指導員が担当し、それ以外の資産運用など生活に関わることをすべて担当するのがこの相談員。共済だけでなく融資や資産活用などの相談も含め、私にすべてお任せください、という専門職員です」と宮寺聖治専務は話す。
 つまり、共済、信用などそれぞれの事業部門ごとに職員が組合員・利用者宅を訪問するスタイルではなく、生活に関わる部門すべての守り手として専門の職員を育成し地域に貢献するという事業のあり方をめざしたのである。
 この総合資産相談員は16年度は157人。ほぼ全員がライフ・アドバイザー(LA)資格を持っているほか、ファイナンシャル・プランナー(FP)、宅建(宅地建物取引主任者)資格を持っている職員もいる。JAはこうした資格取得者の拡大を図っている。
 共済事業担当の村田肇常務は「相談員は持っている資格を名刺に書き込んで自分がどんな要望に応えられる職員なのか組合員に理解してもらうようにしている。担当地域が広域化するなか、共済もかつてのように組合員と職員とのいわゆる顔のつながりだけでは推進できない。共済も含めて資産全般の相談に乗れる人材を育成し組合員の多様なニーズに応えることが求められている」と話す。
 資格が加わればさらに組合員から頼られる存在にもなる。職員自身のキャリアアップが組合員、利用者への貢献度を高め事業実績にもつながることになる。


支店のチームワークでニューパートナーも獲得

◆全支店でミーティングを開催

 16年度の共済事業は、「組合員、地域住民が健康で安心して暮らせる地域社会づくり」に貢献し、総合保障の一層の充実と契約者の負託に応えるため「ひと・いえ・くるまの総合利用のメリットを高める」こと、次世代対策と将来の普及基盤の強化、拡大のためにこども共済の普及拡大、などを方針として掲げた。また、総合保障の充実とメリットの発揮という課題では、フォルダー登録率の向上も目標としたほか、地域住民を対象にした「がん共済」の推進によるJAのニューパートナー獲得もめざした。
 同時に推進体制も大きく変えた。
 共済推進は、16年度から総合資産相談員と日常的に集金業務を担当する渉外担当者に分け、相談員だけが推進するという新しい体制に切り換えたのである。
 そのために課題としたのが支店での、より一層のチームワークの発揮と目標達成期限の大幅な繰上げである。
 共済推進の生命線ともいえるのが、組合員、利用者の生活に関わるさまざまな情報だ。もちろん相談員は日常的な活動のなかでさまざまな情報をつかみその組合員家庭などのニーズを掘り起こして推進につなげることに力を入れているが、一人の力にはやはり限りがある。集金にあたる渉外担当者からの情報や、さらには窓口担当職員がその日の窓口対応で耳にした組合員家庭などの出産、進学といった話も貴重な情報になる。
 こうした情報を相談員に集約していくというチームワークが欠かせない。
 また、相談員はすでに触れたように共済専任ではなく、貯金、融資や資産管理などの事業も推進しなければならない。共済推進の目標達成期限を繰り上げたのもそのためで、原則として年度末ではなく9月末を期限とした。
 このような新たな推進体制に求められる課題を現場の第一線の職員が理解し、全支店で目標が達成できるよう同JAは、支店すべてで支店ミーティングを開催した。組合長以下、常勤役員が分担して出席し全支店での開催を実現、理念の意思統一を図ったのだという。

◆目標管理こそが目標実現への道

 さらに重視したのが第一線職員の司令塔である支店長の意識改革だ。
 村田常務は「共済に関する商品知識は研修等により向上している。しかし、これまで欠けていたのが気持ちの面ではないかと考えた。思いついたのが全支店に標語を掲げてしっかりとした気持ちを持って事業にあたることでした」と話す。
 その標語は今年度も張り出してあるが、たとえば「実績の差は責任感の差。判断力の差は情報の差」といった内容。自分の成果とその原因を冷静に見つめさせる標語で、考え方と行動の規範として徹底していこうというのが狙いだ。
 また、月に1回は支店長会議を招集。目標達成に向けた各支店の状況報告と課題解決策などを協議した。とくに16年度に強調されたのが「目標管理は毎日行うこととその指導」だった。全支店で目標達成という成果が得られたのはこの「日々管理」の徹底にあったという。
 また、支店でのチームワークの発揮では、たとえば、窓口担当職員、渉外担当者が情報を書き込むノートを備えて相談員に伝わるような工夫も生まれてきた。
 「意識改革とは突き詰めれば、自分たちで目標を設定したのだから自分たちでそれを達成していこう、という考え方の徹底ということです」と村田常務は話す。

◆フォルダー登録率6割を達成

 長期共済新契約高約2165億円など16年度同JAは冒頭に紹介したような実績を挙げたが、なかでも特筆されるのはフォルダー登録率を約60%に向上させたことだ。15年度末の登録率は約13%だったことを考えると飛躍的な成果だといえる。
 フォルダー登録にともなう割引き制度などによるサービス向上について加入者の理解を促進すると同時に、個人情報保護法施行に対応して契約者情報の保護の面からも重要な取組みで17年度もさらに登録率向上をめざしている。
 また、地域住民も対象にして推進したがん共済は目標の3000件を超えた。JAでは「健康」というテーマで広くJAのニューパートナーを獲得し経営組織基盤の充実につなげる重要な取組みと位置づけている。
 今は日々、17年度の目標達成に向けてそれぞれの現場で事業を推進中だ。今年度は目標の設定に支店特性を考慮するという考え方を取り入れた。東京のベッドタウンとして都市化が進む地域と農業が盛んな地域では、人口数や年齢構成などの特性が異なる。JAの事業に対するニーズも違い、たとえば共済実績の伸びが期待できるところと、むしろ融資などの信用事業への期待が高いところなどがある。こうした地域の特性、言い換えればJAに期待される役割の違いに応じて事業ごとの目標を設定することにしたのである。支店にとってはよりきめ細かく地域特性を把握することが求められるし、それが「時代の変化に対応する支店」でもあるという。
 課題としては共済保有高減少への対応。これは全国共通の課題だが、同JA管内の早期失効解約率の平均は4%だという。ただし、この率がゼロの支店も複数あり、そうした支店の取り組みをもとに目標値を定め低下に向けて取り組んでいる。具体的な対策としては相談員の契約者全戸訪問の実現だという。また、女性の相談員育成も課題としている。
 同時に准組合員や地域住民への対応も重視。地域住民にも災害への備えとしてJA共済の関心が高まっているといい、支払い実績などJA共済の実力を知ってもらう情報提供活動にも力を入れる。「われわれは支店窓口という触覚を持っている。それを活かして意識的にPRしていきたい」(村田常務)。
 全国的にJA事業への組合員を含めた地域住民の利用、参加が課題となるなか、JAいるま野は「共済事業こそJAの利用、参加の基盤となるもの」と位置づけ共済事業推進を図っている。

【JAいるま野の概要】

キャッチフレーズは「地球にやさしさ 耕す未来」

 JAいるま野は埼玉県の南西部一帯が事業区域。その広さは県面積の約19%にもなる698平方キロメートルある。平成13年の合併で10市4町(川越市、所沢市、飯能市、狭山市、入間市、富士見市、上福岡市、坂戸市、鶴ヶ島市、日高市、大井町、三芳町、毛呂山町、越生町)が管内となり、地域総人口は約156万5000人(17年1月末)で世帯数は約60万4000世帯ある。
 川越市、狭山市などには工業団地があり、県内の工業生産額ではもっとも高い地域。その一方で農業生産も盛んで県内生産量の100%近くを占める狭山茶をはじめ、かぶは67%、さといも65%、ほうれんそう40%など県内で一大産地となっている。管内の農業産出額は約300億円でそのうち野菜類が57%、米が14%などとなっている。都心から30kmから60kmの首都圏に位置し、その条件を活かした消費者ニーズにあった多品目生産や観光農業など多彩な都市近郊農業が行われている。江戸時代に新田開発され、屋敷林の落ち葉をたい肥利用する循環型農業が今も続いている「三富新田」も管内にある。
 こうした地域の特徴を市川俊一代表理事組合長は「工業発展だけに偏らず農業もきちんと維持してきた地域」と語る。地域特性をふまえて地域協同組合としての役割発揮も目標とし、人に優しい豊かな地域社会をめざすことがJA運営の基本理念のひとつ。キャッチフレーズは「地球にやさしさ 耕す未来」だ。地域の人々を巻き込んだJAの事業展開を図っている。
 実際に准組合員の増加に意識的に取り組むことを課題のひとつとしており、共済契約者や貯金利用者への加入を働きかけ、16年度の1年間で約600人増となり、17年3月末の組合員数(准組合員含む)は6万9129人となっている。
 市川組合長は「食料自給率の向上に向けて経済事業部門を重視し農家が元気が出るよう安全・安心な農産物の供給につとめながら、共済事業では生活習慣病対応を軸にした新しい利用者の獲得など事業を伸ばしていきたい」と語る。
 職員数は1153人。業績は貯金残高8860億円、貸出金残高2789億円。販売事業93億円、購買事業84億円。宅地等供給事業142億円など。(17年3月末)

市川俊一代表理事組合長 小澤稔夫代表理事副組合長 細野邦彦代表理事副組合長
市川俊一
代表理事組合長
小澤稔夫
代表理事副組合長
細野邦彦
代表理事副組合長
(2005.5.19)


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