農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 売れる米づくり戦略とJA全農の米事業改革

本紙アンケート・「JAの米事業改革と売れる米づくりに向けた戦略」結果まとまる

「JA米」、17年産では7割超すJAが取り組む

―全国主要410JA調査で明らかに―


 JAの米事業改革の柱のひとつ「JA米」への取り組みは、16年産ではJAの58%での実施だったが、17年産では72%まで広がっていることが本紙の全国主要JAへのアンケート調査で分かった。
 また、販売を起点とした米事業改革の実践が求められているなか、売れる米づくりに向けた「販売計画」の策定は9割を超すJAが行っており、米生産者への需要情報の説明も全生産者を対象に行っているJAが6割にのぼった。
 ただ、生産基準を統一し「生産者の顔の見える生産履歴記帳が消費地に安心してもらえる必須条件」、「今後は実需者の求める米の安定生産に取り組む」といった認識が現場にはある一方、米価の低迷で「JA米としてのメリットが感じられない」、「再生産価格が出ない」、「過度な要件を課して実質手取りの減少では話にならない」、「価格が安いため生産者の関心がない」など、現在の価格水準を懸念、「米価維持のためにJAグループの力発揮を」「系統集荷率の向上を」と課題を指摘する声も少なくない。
アンケートの実施概要と集計分類

●調査対象JA数/410
●実施方法と時期/調査票を郵送。17年4月〜5月にかけて回収。
●アンケート回収数/350
●回収率/85.4%

○アンケート集計分類
【東西別】
(東日本)北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重
【西日本】
滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄
【ブロック別】
(北海道)北海道
(東北)青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島
(関東)茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉
(甲信越)新潟、長野
(北陸)富山、石川、福井
(東海)岐阜、静岡、愛知、三重
(近畿)滋賀、京都、兵庫、和歌山
(中国)鳥取、島根、岡山、広島、山口
(四国)愛媛、高知
(九州)福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島

◆調査JAの合計生産量は520万トン、全国の6割をカバー

 このアンケート調査は、都道府県ごとに米の生産量の多いJAを選定、合計410JAを対象に4月初めに調査票を郵送し米穀事業担当者に回答を依頼したもの。回答JA数は350で回収率は85.4%となった。
 今回のアンケートでは「JA米」の取り組みや売れる米づくりに向けた「販売計画の策定」、「生産者への需要情報の伝達」などについて、16年産の取り組み実績と17年産の方針を質問するなど、この2年間の変化が明らかになるように設定した。
 回答JAの16年産水稲作付け面積を合計すると、約107万6500ヘクタール。全国の作付け面積の63%を占める。生産量の合計は約522万トンで全国生産量の約60%になる。
 回答JAの集荷率の全国平均は50.2%だった。ブロック別にみると北海道が82.9%ともっとも高く、もっとも低いのは東海の32.3%だった。(表1)
 そのほか、「農家の自家消費率」の全国平均は23.7%、「農家からの直売率」は13.0%、「JA以外の業者の集荷率」は14.7%という結果だった。
 米の作付け品種では、全国ベースでは(1)コシヒカリ、(2)ひとめぼれ、(3)あきたこまち、(4)ヒノヒカリ、(5)キヌヒカリの順だった。ただ、東日本では(1)から(3)は変わらないが、(4)キヌヒカリ、(5)ササニシキ、となった。また、西日本では(2)ヒノヒカリ、(3)ひとめぼれ(4)キヌヒカリ、(5)あきたこまちの順で地域特性を反映した結果となっている。
 16年度にスタートした米政策改革によって、生産から販売まで制度が大きく変わった。このため、今回のアンケートではJAに現時点とくらべた5年後、10年後の米の生産量の見通しを聞いた。(図1)
 それによると5年後の生産量が「増加する」見通しのJAの割合は34.0%、「減少する」が63.6%、「変わらない」が2.4%となった。ただ、10年後では「増加する」との見通しは26.3%に減り、「減少する」が72.1%に増えた。「変わらない」は1.6%だった。
 回答からは米の需要動向を踏まえた見通しだけではなく、生産者の減少からの生産減退を予想したものもみられた。

◆栽培履歴記帳を米の販売計画では柱に

 流通規制の緩和などの米政策改革にともなってJAの米事業には、販売を起点とした事業方式が求められている。アンケートでは販売計画の策定、生産者への情報提供への取り組みについて聞いた。
 販売計画の策定では16年産では「実施した」が81.8%だったが、17年産では91.7%に増えた。(図2)調査時点で計画策定の予定はないとの回答は8%ほどにとどまっている。
 販売計画の重点項目について聞いたところ(図3)もっとも多かったのが、「栽培履歴記帳の実施」で79.9%だった。ついで「JA米の生産・販売」56.1%、「有機栽培・特別栽培米などの生産」44.8%など。「直接販売の拡大」は35.4%で「業務用の拡大」は6.9%だった。
 その他の重点項目としては「新規販売先の開拓」、「需要に応じた作付け」、「実需ルートの見える販売」、「学校給食用」などがあがっている。
 また、販売計画での「JA米の生産・販売」の位置づけは東日本が27.3%で全国平均より高く、一方西日本は19.9%とやや傾向に差がみられた。ただ、後に述べるように西日本でもJA米への取り組みは17年産では大きく広がっている。

◆17年産のJA米、220万トン超す見通し

 銘柄の確認できた種子、栽培履歴記帳の実施、そして農産物検査受検と3つの要件がある「JA米」には、16年産(図4)では「取り組んだ」が58.3%、「一部の集落、生産者では取り組んだ」が9.2%だった。東日本では70.7%だったが、西日本では38.3%にとどまった。
 しかし、17年産(図5)では全国で「取り組む」は、71.9%に伸びた。東日本では82.5%となり、西日本でも54.3%と半数を超えた。
 ブロック別にみると北陸95.8%、東北87.1%と高く、西日本でも九州は57.6%、近畿が前年の22%から41.2%に高まった。「一部の生産者から取り組む」との回答も11.9%ある。調査時点で「取り組む予定はない」は16.1%だった。
 回答JAの16年産でのJA米集荷量は合計約138万トンだった。平均でJA集荷量の64.7%を占めたという結果となった。(表2)また、17年産の見込みを回答JAで合計すると223万トンでJAの集荷量の平均70%程度になるという結果となった。(表3)

◆全戸訪問での記帳運動推進も

 JA米など売れる米づくりに向けた取り組みでは、生産者への需要情報の説明も重要になる。
 16年産では説明を「実施した」は51.5%、「特定の部会では実施した」は36.7%だった。一方、17年産の方針では「実施する」が60.9%、「特定の部会では実施する」が33.2%となった。(図6)
 需要情報の内容は(図7)、「県全体の需要情報」がもっとも多く55.2%、ついで「価格動向」52.9%、「JA管内の需要情報」44.8%。「銘柄別需要情報」は32.7%、「用途別需要情報」は20.2%だったが、「販売先の評価」も30.6%あり、より具体的できめ細かい米へのニーズを生産者に伝える取り組みもみられる。
 同様にJA米の取り組みについてもその必要性や要件について的確に伝えて運動を広げることがJAに求められるが、生産者への説明方法でもっとも多かったのが「集落座談会での営農指導員の説明」で71.5%。ついで「パンフレットの作成・配布」65.6%だった。また、「JA米推進会議などの開催」に取り組んだJAも17.4%あった。(図8)
 その他の推進、説明方法として回答が寄せられたなかには、「戸別訪問による説明」、「全職員での戸別訪問」といった取り組みもあった。一部地域をのぞき推進方法では集落座談会などの機会での説明に力を入れている傾向がうかがえる。
 JA米の要件となっている栽培履歴の提出状況は、平均83%。生産日誌の点検もJAの役割だが、生産基準が守られていなかった割合は全国平均で3.9%だった。
 日誌の点検回数は平均で2回。17年産の取り組みでは、「点検回数、時期の見直し」、「生産者が記入しやすい様式への変更」、「点検体制の確立」など課題をあげる現場が多かった。

◆生産基準要件の上乗せ設定も進む

 JAによっては、売れる米づくりに向けて需要動向や地域特性に合わせてJA米を基盤としながらも、さらに特色ある米づくりのための要件を設けている。
 JA米に上乗せの要件をつけているJAは19.3%(図9)で、その内容は「網目」26%、「等級」17.7%、「銘柄指定」が20.8%だった。(図10)その他の要件としては「DNA鑑定」、「残留農薬検査」などがあがっており、安全・安心対策が重視されていることがうかがえる。
 また、JA米とは別の生産基準をつくっているJAの割合は64.1%にのぼっている。(図11)
 JA米を含め特別な生産基準を設けて生産指導、販売を行っているという区分数は全国平均で2.4となった。なかには8区分の生産基準を設けているというJAもあった。
 生産基準で多かったのは都道府県認証基準で46.2%。全農安心システム米も31.3%あった。(図12)

◆需要動向に合わせた生産へ意欲と、厳しい環境認識も

 アンケート結果からは、JA米への取り組みの拡大を基盤に需要に合わせた米づくりから、売れる米づくりを確立しようという現場の意識が感じられた。
 ただ、産地間競争が厳しくさらなるコストダウンが求められるなか生産者手取り確保を懸念する声も多い。また、生産基準を確立しても消費者がその必要性をどこまで分かっているのか不明だという声や、消費者への情報伝達、宣伝が重要という声もあった。
 系統集荷率の向上による適正な価格維持が必要との指摘もあり、生産だけでなく販売環境の整備もJAグループの課題となっていることがうかがえた。

JAの米事業改革と売れる米づくりに向けた戦略

現場からの声(自由記入欄より)

【JA独自の栽培基準例】
◎整粒歩合80%、食味値80の「8.8米」。
◎減化学肥料、減化学農薬の特別栽培米。1.堆肥は10a1500kg以上散布 2.堆肥は特別栽培米こよみ基準 3.種子100%更新 4.農薬は特裁米こよみ基準、ヘリ防除は1回のみ 5.栽培日誌を記帳、提出する。
◎1.土壌改良剤の施用、 2.網目1.9mm使用。
◎・有機元肥、穂肥(JA独自肥料)の施用、・土壌改良資材(りん酸、けい酸)の投入。
◎堆肥100%有機質肥料の施用、農薬7成分、たんぱく含量7.2%以下。
◎稲わらのすき込み、調製する米は網目1.8mm以上。深さ15cm目標の深耕、元肥は有機50%配合肥料の施用、種もみは、温湯消毒、畦畔は草刈り機で対応。
◎EM菌を使用したボカシ肥料で栽培。
◎有機質入り(有機態窒素50%以上)肥料使用。
◎水系を限定した栽培、1.95mm選別、オリジナル有機肥料栽培。
◎「環境保全米」=減農薬(5割)、減化学肥料(5割)、コープネット向け提携米=「ササニシキ」の3JAでの取組み(減・減)、「推奨米」=JA独自基準で使用農薬成分回数を減らし統一された資材を使用しての栽培。
◎無農薬、無化学肥料栽培米、減農薬、減化学肥料栽培米、減化学肥料栽培米。
◎マルチ、堆肥、学校給食用米、等の組織(協議会)を作り米栽培に取り組み。
◎農薬の使用回数、肥料の統一、圃場の登録、乾燥の共同化、生産履歴の記帳。
◎地区指定で減農薬(10品目)、土づくり肥料施用(ケイ酸)
◎堆肥センターで製造した堆肥を散布、有機質由来は99.6%。農薬削減約65%。
◎減農薬・有機栽培・天日干。
◎農薬成分回数=県指標20回の1/2以下、化学肥料の40%以上カット、管内畜産農家の家畜排せつ物をセンターで堆肥化し循環型農業を実践。
◎育苗=種子消毒、土壌消毒以外は使用しない、施肥=指定有機質肥料、除草=指定農薬1回のみ、防除=殺菌剤1回のみ。
◎自然循環型農業のために米ヌカ主体とした肥料により栽培。
◎除草剤代替対策=米ぬか+手作業による除草、殺菌剤代替対策=フミン物質散布(ミネラル分も多く生育促進にも効果)、殺虫剤代替対策=耕種防除(雑草除除や環境整備などにより害虫の生息密度を低減)。
◎「商品価値の高い米作りの推進」(安心、売れる、うまい米作りの取組)、生産履歴記帳へ向けた取組、減農減化学による米づくり、無人ヘリ共同防除の推進。
◎有機肥料の成分量50%を使用、レンゲ草のすき込み。
◎全量種子更新、登録検査期間で受験された、栽培暦どおり、またはそれと同等に栽培され栽培管理記録簿とサンプル米が提出された米穀、網目1.85。

【米事業改革と売れる米づくりの課題】

◎米の価格が安い為に関心がない。生産者の意欲の沸くような価格設定。
◎特色のあるこだわり米の生産に努め、特定契約を推進し、生産された米は一年以内で全量売り切ることに最大の力点を置く。
◎県内の量販店で販売流通はできているが、JAの集荷量が少なく、年間を通して販売するロットがない。集荷率を上げるのに苦労。
◎売り切る産地、生き残れる産地として、特別栽培米の生産に取り組み、販売先を特定し相対販売を強化。
◎都市化が進み、JAの集荷率が低く販売力がない。また、高齢化が進むなか耕作放棄地が多くなっている。
◎消費者と生産者の交流事業等を展開し、信頼される米づくりが大切。
◎商系との競争が激化。買取り価格の見なおしも必要。米の需要は、ますます二極化(付加価値か、安い)がすすむのでは。
◎実需者の求める米の安定生産及び供給。
◎土壌診断に基づく土づくりマップ作成(17年度に完成予定)
◎「生産量>消費量」の時代が続くと思われる中で過剰米を輸出に向けるしか方法はない。
◎売り方別の生産組織が必要となる。販売方法、生産方法が統一できず、こまめな指導販売体制が必要。
◎生産者に販売状況を理解していただき、生産努力してもらう。(こだわった生産を推進)
◎消費者組織を取込んだ安全安心に対する取組みにより、消費者ニーズに合った米作り。
◎量販流通米(カントリー)と地域ブランド米、契約栽培等の需要に対応した米作に取組む。
◎共乾施設の建設による品質の向上、低タンパク米栽培の推進等による食味の向上。
◎中山間地では複数の品種を栽培する必要がありライスセンターの利用等課題が多い。消費地では直接農家からの販売が増加しているなかでJA米は短期的なメリットがでないことが課題。
◎直販価格設定と代金回収。地域別の米の生産に対する対応(施設、貯蔵保管のスペース、栽培基準の多細分化対応)。
◎JA独自の栽培基準を満たした米を中心とした有利販売や、JA独自販売の強化及びマーケテイング強化。
◎直販(学校給食米)で特別栽培基準の確立と出荷量の確保。
◎ニーズによる取り組みは理解できるが過度な要件は生産者の負担となっている為、実質手取金額の減少では話にならない。
◎実需要者から求められる肥料、農薬などの資材を統一した栽培を実施し、より安全な米の供給体制を確立し信頼性の確保を行う。
◎米価維持のためJAグループの力を発揮してもらいたい。
◎県内で生産される米については、その品質にばらつきがあり、食味のいいJAとそうでないJAの米をプール計画していることについては疑問がある。みんな仲良くの精神では、限界が来る。プール計画を廃止し、レベルの高いJAにメリットを与えるような事業展開が必要。
◎生産者の顔の見える生産履歴記帳が消費地からも安心して購入してもらう必須条件。JA米以外の米も含め全ての米を 1.生産履歴記帳 2.種子更新100% 3.検査の実施の徹底を図ることが重要。
◎販売面からみて1品種100%で販売する品種とブレンド用として販売する品種など白米で販売できる売れる米作りも必要だと思う。
◎共同計算に基づく仮渡金制度による集荷は限界にきている。今後はリスクを覚悟での契約栽培と直接販売への方向転換の時期である。
◎今後の米価の推移を見たときに、低コスト生産、良食味米生産に取り組み単年度販売を目指す。
◎販売店において指定席を得るためには、(1)共同計算方式の見直しと集荷率の向上対策、(2)売れ残らない米→売り切る米→求められる米にするための付加価値づくり。
◎典型的な中山間地帯にあり必然的に多品種が生産されているが、需要の多い品種に集約するとともに重要なことは用途を明確にした計画生産と需要者への販売促進を図る。
◎JA米以前に、全農、全集系統集荷率が極端に低い。系統集荷率の向上につとめなければならない。
◎県認証特裁は将来、普及拡大すると予測し、他産地に先がけて取り組むことで実需やその顧客を早期獲得する事がカギとし、15年産から取組んだ。しかし、18年産頃からこの特裁は全国的に増えそう(スタンダード化)。今後はより農薬使用量の削減や低タンパク、均質化など、今のプラスαで更に差別化を図る必要がる。
◎現在の消費者ニーズを考えると履歴のしっかりした米が売れるわけではない。履歴は必要だが、こだわって購入する消費者は何人いるだろうか?今後は独自で販売するJAも多くなっていくだろうが、履歴も含め、消費者に知ってもらう販売活動が必要になってくると思う。
◎生産現場からは再生産が可能な価格が求められるが当地方では生産原価は1万5000円/60Kgくらいであるためこれを下回ると作付けしない。適正価格で販売する事に努める。
◎消費者の動向が掴みがたい。健康、安全・安心を求める口調が多いがそのような食材を提示すると価格面で納得してもらえない。
◎実需者・消費者の要望にそった米生産、高品質・良食味で値ごろ感のある米生産販売、消費者・生産者の顔の見える販売生産。
◎JAで競争、競合化がさらに進み、農家が経営できなくなり、JA管内は消費地を抱えており、他JAの米を多く販売する役割も必要である。無駄な施策より全農全国本部の役割は、売り場や売り方を再検討するべきであり、販売力を強化すべきである。

(2005.6.17)



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