農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA全農畜産事業特集 国産畜産物の生産基盤と販売事業の強化

生産基盤確保を基本に耕畜連携などを支援

畜産総合対策部 緒方康久部長


 「輸入圧力は強まる一方」と緒方部長は情勢を語る。そうした中で国内の畜産生産基盤をどう確保していくか。また環境対策などの課題もある。畜産事業本部の平成17年度事業方針は数々の課題があり、また多面的であるが、畜産総合対策部長は重点を絞って「安全・安心な畜産物を消費者に提供する取り組みの強化」や「生産基盤対策」などを挙げた。そして、国産の畜産物を「いかに売っていくか」にポイントを収れんさせた。話は、担い手問題や、耕畜連携、家畜の疾病対策、自給率向上などにも及んだ。
畜産総合対策部 緒方康久部長
◆減少する畜産農家

 ――畜産事業を取り巻く状況をどう見ておられますか。

 緒方 米国からの牛肉輸入はBSE問題で止まっているものの、全体として輸入圧力が強まっています。WTO交渉でがんばっていかないといけません。
 一方、国内の生産基盤を見ると、平成15年の畜産農家戸数は5年前に比べ約2割減って約14万戸になりました。系統の畜産農家を守る対策はきわめて重要です。

 ――農水省は担い手を絞り込もうとしていますが。

 緒方 小規模な繁殖農家には兼業もありますが、それ以外の畜産農家はほとんどが専業ですから、自給率向上の観点からも、担い手の位置づけは慎重にすべきと考えています。また繁殖基盤の維持も大きな課題です。
 もう一つ最近の事業環境の中で特徴的なのは、BSE、鳥インフルエンザ、口蹄疫などの疾病問題があります。徹底した防疫や発生した場合の風評被害を防ぐ日常的な対応が必要です。
 さらに、世界の食糧事情も注意を要します。中国やインドの人口増と途上国等の食生活の向上などによる需給ひっ迫も予想され、先行きを見極める必要があります。

◆「安全・安心」前面に

 ――では今年度の事業方針の重点をお聞かせ下さい。

 緒方 輸入品に対抗する上でも、まずは安全・安心な畜産物を提供する取り組みを強化します。そのためにトレーサビリティを徹底します。牛肉のシステムはできていますが、次は豚肉です。また生産情報公表JASに取り組みます。
 次は生産基盤の確保ですが、農家戸数は減っても、経営の大規模化で飼養頭羽数の減少は緩やかです。しかし今後もさらに減少する可能性もあります。これを食い止めるため、系統飼料会社や販売部門と連携しながら具体的な支援策を実施していきたいと考えています。
 さらに直販事業を中心とした販売力の強化に引き続いて取り組みますが、全国本部の販売事業の会社化を含めて対応力を強化します。すでに鶏卵事業では新会社を設立し、8月1日から営業を開始しました。

 ――畜産総合対策部の重点課題には、環境対策もあります。

 緒方 そうです。家畜排せつ物法の完全施行(昨年11月)までに、ほとんどの農家が施設整備を済ませました。このうち14%にあたる約8800戸は、ふん尿をシートでくるむなどの簡易対応です(農水省調査報告)。このため、これを恒久施設に切り替えていく整備の促進が課題です。

 ――4項目の重点方針を挙げられましたが、次ぎに具体策や行動計画をお聞かせ下さい。

◆積極的な行動計画

 緒方 安全・安心対策では、牛用配合飼料専用工場の建設も含め、系統の配合飼料工場はすべて牛用と豚・鶏用の配合飼料製造ラインを完全に分離しました。4月からの本格稼働により、BSE対策はさらに徹底されました。
 鳥インフルエンザ対策では、防疫の徹底をはかるパンフレットを作り、これを系統飼料会社の推進員が農家に手渡して防疫の啓発や衛生管理の相談にのるなどしています。
 酪農部門では、指定生乳生産者団体などと連携し、生乳の生産から乳業工場搬入までの役割分担を明確にし、品質管理を徹底していきます。
 一方、消費者が産地の生産履歴情報を確認できる全農食肉トレーサビリティの推進に取り組んでいます。
 また今年度は安心システム対象農場を牛2200頭、豚4万2000頭に拡大する計画です。豚の場合は前年度の約2倍という積極的な計画です。
 さらに生産情報公表JASマークを付けられる食肉の産地を増やします。これは取扱内容を第三者機関が認定することが前提となっており、現在、牛肉3、豚肉1の計4産地が認証されています。

 ――飼料・畜産資材の取り扱い拡大についてはどうですか。

 緒方 地域ごとに飼料会社を統合再編した地域別飼料会社(6社)は飼料をJAに直接供給する事業2段となっていますが、そうした合理化をさらに進めます。全農・経済連から原料以外の飼料事業を移管された6社は地域密着のきめ細かな営業を展開していますが、そうした取り組みで配合飼料と単味飼料のシェアを拡大していきます。

◆高い技術活用して

 ――次ぎに生産基盤対策についてはいかがですか。

 緒方 ハイコープSPF肉豚の100万頭生産を目指しており、17年度末に達成する見込みとなっています。また16年4月に全農畜産サービス(株)に種豚事業を移管し、生産コスト低減と高品質種豚の普及拡大を進め、生産基盤の確立に取り組んでいます。
 牛については受精卵・ET(受精卵移植)を活用した優良和牛の生産体制の強化に取り組みます。和牛の子牛繁殖農家が高齢化で減少傾向にありますから、ET技術の活用で子牛を確保していく体制固めを進めます。
 自給飼料については、中国の口蹄疫発生により稲わら輸入がストップしています。このためとりわけ稲わらの自給が求められていますが、地域の畜産と稲作の連携による完結は難しいところがあります。そこで広域的な連携を考えていますが、問題は国産のコストをどう下げるかです。

 ――では、次ぎに環境対策をお話下さい。

 緒方 簡易対応を恒久処理施設に切り替えるため、助成事業の利活用によって整備を促進します。一方で余りたくさんのおカネをかけずに施設をつくれるように、農家の実態に合った整備を研究しています。
 低コストの施設が開発された時には地域の農家に集まってもらい、勉強会を開くなど、普及できるよう取り組んでいます。

◆人材育成も進める

 ――アドバイザーはたくさんいるのですか。

 緒方 畜産環境アドバイザーという国の研修制度があり、系統ではすでに約600人が研修を受け、指導活動に当たっています。この制度などを活用した人材育成も進めています。
 また全農は耕畜連携を強化するため、環境保全型・畜産有機堆肥利用促進モデル事業を実施しており、これの普及を促進しています。登録JAは現在約250となっています。
 さらに高品質堆肥の生産・流通を促進します。

 ――最後に、販売事業の強化について、いかがですか。

 緒方 生協や量販店との連携を強化し、地産地消や産直事業による取り扱いを拡大します。
 さらに酪農生産基盤の維持をはかるため、海外乳製品に対抗できるフレッシュな液状乳製品の販売を拡大します。

(2005.8.26)



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