キャッチフレーズは「よりわかりやすく、親しみやすく」
◆ターゲットは地域農業の担い手
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佐野裕編集長 |
(社)家の光協会では11月号からの『地上』リニューアルにあたって「農業で生計を立てようとしている人」をイメージして誌面づくりをすすめることにした。
それを象徴するようにA4判と大きくなった表紙には、男女を問わずこれからの農業を担おうとする20歳代の若者が登場。若さ、汗、土のにおいをキーワードに若者のたくましさと未来への希望を表現する。表紙のコンセプトは「次代の輝き」だ。
佐野裕編集長は「国際化の進展など農業をめぐる厳しい環境変化のなかでも経営感覚を持ったこれまでとは違う若い農業者が出てきている。一方、新基本計画など農政改革では担い手中心の農政、農業への方向が明確になってもいる。地域のなかでどう農業を変えていくのか、それを見越し農業で生計を立てようとしている30歳〜40歳代の若い世代を改めて読者対象にした誌面づくりをします」と語る。
佐野編集長が語る「農業で生きようという人」はJAを拠りどころにして「地域農業の振興と快適な地域づくり」をしようという地域社会の担い手でもあり、JA青年部員である。その意味では現場で彼らを日夜支援するJA役職員も同じ立場だ。
「青年農業者だけではなく、JA役職員、さらには行政関係者とも地域農業、地域社会の課題を共有して、どう将来を描いていくかが求められていると思う。『地上』が一定の役割を果たせればと考えています」と佐野編集長は青年農業者と課題を共有するためJA役職員など広く関係者に新生『地上』を手にとってもらいたいという。
◆農政の大転換の時期、とことん分かりやすく伝える
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リニューアル第1号、11月号の表紙 |
リニューアルする誌面の目玉のひとつは分かりやすい農政記事だ。
『地上』は農業技術誌や流通情報誌などと違い、将来の地域のリーダーになる青年農業者に向け、農政やJAグループの取り組みなど自分の農業と地域ビジョンを描くために政策動向などを伝える雑誌として期待されてきた。
ただ、これまでは堅苦しい、難しそうというイメージがあったのも事実。それをリニューアルを機に「分かりやすさをとことんまで追求する」という。
新たな経営安定対策や農村社会の維持に関わる農業資源保全政策づくり、環境政策、さらにWTO農業交渉など農政の課題は山のようにある。地域の盟友との話題になることも多いだろうが、正直、専門用語も多く難しい。それをたとえば、Q&A方式の活用で素朴な疑問から解き明かしていく。
WTO農業交渉についても「そもそもWTOって何をしているところなの?」とか、「担い手政策というけれど、オレたちは担い手なのかな?」、「地域で話し合って集落営農をつくったけれどこれも担い手になる?」といった疑問から農政の理解が深まるように工夫する。
もちろんこれまでも評判になったQ&A記事はある。そのひとつがWTOとFTA(自由貿易協定)の関係だ。WTOは加盟147か国が交渉して貿易ルールを決めるが、その一方で2国間で貿易ルールなどを決めFTA協定を結ぶ国も多くなった。WTO交渉の一方でどうして?という疑問が沸く。それを『地上』のQ&Aでは「FTAとは、たとえていえば合コンの真っ最中に2人だけの世界に入ってしまうようなもの」と解説した。
「自分にとってこれはどう理解すればいいのか、という視点を大事にしていきます」という。
また、基本計画やWTO交渉、食の安全問題など専門的な分野の理解を助けたりJAのことを深く知ったりするため、年に2回、綴じ込み付録を発行することも注目したい。
◆リーダー論、流通情報も登場
地域社会の将来のリーダーとして期待される青年農業者に向けて、組織を率いるリーダー像を伝える企画も登場する。
登場する人物は読者の興味を引くスポーツ界、企業の開発部のキーパーソンたち、あるいは組織を動かしてものづくりをする映画監督なども検討されている。一回読み切りの企画でテーマは「あのとき、あの決断」だ。
第1回は全日本女子バレーボールチームの柳本晶一監督。若手選手起用の決断のときの思いや世界レベルで戦うための考え方、ゲーム中の判断などを語ってもらった。
また、消費者の支持を基本にした農業が求められるなか、生産技術情報だけでなく消費、流通の情報を提供することにも力を入れる。作物別のマーケット情報や外食、中食産業の動向、家庭の食卓で話題になっていることなど農業経営に結びつけて考えられる情報提供も工夫。こうした情報を受け止めるうえでも農政動向などの基本的な問題の分かりやすい解説が必要になると編集部では考えている。
◆青年農業者の声を豊富に掲載
佐野編集長も強調するように読者対象はJA青年部の盟友たちだ。
そのため青年農業者の生の声をできるだけ掲載し、盟友どうしが共感しあえる誌面づくりをめざす。また、JA青年部の活動事例紹介も充実させるほか、盟友の人物ルポなどで若きリーダー像も描く。
さらにJA青年部員やJA役職員が参加する『地上』編集企画委員会も開催。農業者として今関心のあること、不安に思っていること、地域づくりの夢などを語ってもらい、まさに読者と編集部が一緒になって編集企画を考えていくという。
「『地上』の創刊号には、青年はいかなる時代にあってもその希望の源泉である、と記されている。その原点を忘れず、今の時代に合った表現方法、記事の作り方をめざします。
盟友たちが全国で仲間づくりをすすめ農業とJAを支えていくようにお互いが触発し刺激を与え合うような誌面を作ります。地域に元気を出すことに役立つ『地上』をつくっていきたいと思っています」と佐野編集長は話している。
「農で生きる」を考える雑誌
山下惣一さん (農業、作家)
昭和27年から農業をやっていますが昔から読者でした。当時は農政活動が盛んでそのメインは米価闘争でしたが、『地上』は農政活動を支える理論誌でした。記事を読んで「そうだ、そのとおりだ」と全国のみんなが集った。農業青年の拠りどころだったと思います。
しかし、減反が始まり米価も下がり、さらに国際化も進んで農政運動もなくなっていった。また、若い人たちが本を読まなくなった。『地上』はこういう時代の波をもろにかぶっていると思います。
たしかにグローバリーゼーションが進展し農業の「業」の部分は苦しくなって大変な状況にあります。しかし、一方で自分の手で食を作り食べるという「農」の生き方に魅力を感じ、脱サラして農業をやりたいという人も増えていますよね。農業はこういう両面をふまえなくてはならない。私は「農」の部分で発言しています。というのも農業を「業」だけで捉えるなら、規模拡大すればいいとなり、究極は株式会社に任せればいいという話になる。強いものが勝てばいいというのなら協同組合運動も農協もいらないということにつながる。
しかし、私は農を中心とした社会のほうが正しいと思っています。みんなで地域社会と環境を守りながら暮らしていく、この視点ははずしてはならないでしょう。農業とは何か、農協とは何かという基本を忘れないことが大事です。農は人が生きていく基本。流行り廃りがあっては困る、ずっと続かなければならないものです。成長よりも安定、発展よりも持続ですね。そうした原点に軸足を置いた誌面をづくりがこれからも期待されます。
JAの職員の方々も今の時代は非常に忙しいですね。しかし、静かに立ち止まって考える時間が必要でしょう。読まないから考える暇がない、だから、結局は情報に左右されてしまう。『地上』は情報に左右されないよう「考えるための雑誌」だと思います。(談) |
将来のJAリーダーの育成を支援
松下雅雄 JAはだの(神奈川県) 代表理事組合長
『家の光』創刊60周年記念事業として20年前、家の光協会は将来の農協のあり方についての論文を募集しましたが、私の応募作品が最優秀作に恥ずかしいですが選ばれたという思い出があります。当時考えたのは、これからの農協は地域のなかでの協同組合、地域協同組合的な運動、事業を展開すべきではないかということでした。
そういう意味で『地上』はやはり農業協同組合のリーダー、地域の協同活動の先兵になっていく人材を育成する雑誌と位置づけてもらいたいと期待します。5年先、10年先を見据えながら現状を見るという目を養う、そこに『地上』の役割があると思いますね。
とくに今は協同活動の指導者が少なくなってきており、その育成が非常に重要になっている時期だと思います。
たとえば、JA改革が求められるなかでJAには事業の健全性が要求されていますが、企業のまねをした改革でこと足れりという事業展開でいいのかどうか。やはり協同組合の組合員は出資者であり、利用者であり、また運営者、そして組織者でもあるわけですから、そうした認識に立ってものごとを考える人材が大事になります。青年農業者にとってはそれぞれの営農、経営に関わる情報も重要でしょうが『地上』にはそれを超えて協同活動を進めるエネルギーの源があると思います。『地上』を通じてそのエネルギーを青年農業者たちが蓄積していくことを期待します。
JA職員にも問題を共有するためできるだけ読むようにと折に触れて話しています。職員は組合員活動の黒子役。自分たちも5年先、10年先を見据えて組合員をバックアップしていくことが求められています。「時代は追いません。次代を追いかけています」というキャッチフレーズはとても大切な姿勢ですね。(談)
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地域農業のビジョン描くトレーニングの場
平和男 JA全青協副会長 (家の光協会理事)
青年部では『地上』の皆読運動、愛読運動を各地で展開しています。青年部の機関誌的な雑誌と位置づけ、盟友たちにしっかり読もうと呼びかける運動はこれまでも展開してきました。
しかし、正直いって情報発信が一方通行だったり難しいという評価もありました。また、青年部員といっても新規に就農したばかりの盟友から40代までと幅がある。都府県では青壮年部としている単組もあり年齢の開きはもっとある。こういうなかで機関誌的な雑誌といってもだれに読んでもらうべきかということは青年部内部でも議論してきました。そのなかで読者としてイメージされたのは、青年部の幹部、幹部候補、つまり、単組の部長、副部長、支部長といったメンバーです。年齢としては30歳代の半ばですね。私たちとしてもこういう盟友に『地上』をしっかり読んでほしいと考えています。
ただ、この世代は新しい技術を身につけようと営農雑誌などは精力的に読むのですが、『地上』はなかなか手にとってもらえないという問題もありました。
ところが、新基本計画の検討が始まると品目横断政策に転換し日本型直接支払いが導入されるという話が伝わってきた。これまで政策課題の多くは米農家のことだろうという受け止め方もありましたし、たとえ自分に関わる問題であっても組合長さんがさまざまな要求してくれてオレたちは決められたことをやっていればいいという意識もあった。
しかし、今回の政策転換はどうも自分たちが主人公ではないかという理解が広がり、もっと知りたい、分かりたいという気持ちが非常に強く盟友の間に生まれました。
そのときに『地上』では審議会企画部会の議論を分かりやすく解説した記事が掲載されていて、各地の現場では盟友たちから参考書として議論に活用できたという評価が出てきた。今回のリニューアルでは分かりやすい農政解説が柱になっていますが、まさに自分たちの政策環境、生産環境はどうなるのかという疑問に応えてくれる誌面になると期待しています。
盟友たちにも米をできるだけ多く穫る、乳をたくさん搾る技術だけではなく、政策もしっかり勉強する必要があるという意識が生まれてきたということだと思います。これまでは県の委員長などなら中央会が開く会議に出席する機会もあるので専門用語や業界用語についても学ぶことができた。しかし、単組の部長ではそういう機会もなく、なかなか正確に理解できなかった。ですから、単組レベルでも部長がしっかり仲間に説明できるような知識を解説した副読本的なものも必要だと思いますね。
農政の転換期だからこそリニューアルされた『地上』が待ち望まれているといえます。
新誌面には各地の青年部の活動事例も豊富に掲載されます。われわれからの政策提言や自分たちの地域づくりのビジョンを描くためのトレーニングの場として『地上』を活用していきたいと考えています。(談)
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『地上』創刊のことば
「青年はいかなる時代にあっても希望の源泉」
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昭和22年5月の創刊号 |
『地上』が創刊されたのは昭和22(1947)年5月。巻頭には「創刊のことば」が掲載されている。記事では「新憲法と国民」といった論文が時代背景を物語っている。また、農政では農地改革が実行に移され農協法が検討されていた時期。近藤康雄東大教授らが出席した座談会「農村協同化への進路−農業協同組合はいかに作らるべきか−」が掲載されている。
およそ青年は、いかなる民族にとっても、いかなる時代にあっても、その希望の源泉であり、至宝である。まして惨苦と混迷より起ち上がらんとする日本にとっては、青年にまつところ今日より大なるはない。今や日本民主化の無血革命は、その基盤を第二次農地制度の改革を起点とする、農村諸改革の現実に求めんとしつつある。したがって、日本再建における農村および農民の役割こそ、まさに決定的な要素であるといわなければならない。
農村改革の当面の目標は、農村社会構成の民主化と、営農形態の農業技術における高度の協同化、科学化等に向けられなければならない。また、農村生活様式においても、あらゆる因習より蝉脱し、非合理性より解放せられた、明朗闊達な文化郷土の出現であらねばならない。かかる新農村建設への農民の自覚と意欲の昂揚こそは、やがて日本民族再建への基本的な原動力であると信ずる。
しかるに、わが国の現状は、終戦後すでに二カ年にならんとして、今なお混乱と虚脱と頽廃は、全土を覆うているというも過言ではない。われらはかかる現実を速やかに精算し、高き理性をもって混乱に秩序を、虚脱に正気をあたえ、廃墟を建設する担当者としての中堅農村青年の役割を、もっとも高く評価せんとするものである。
雑誌『地上』はかかる青年層の伴侶として、盟友として誕生したのである。それゆえに『地上』はどこまでもその基底を農村におくも、その視野は世界にあまねく、その思索は最高の科学文化の領域に及ばんことを期している。また時代の尖端を往かんとするがゆえに、独善を戒め、孤独を排し、不断の反省と読者の声に応えつつ、力強き成長を期し、祖国再建の大業に参加せんとねがうものである。
(宮部一郎)