◆より農家に近い活動の重要性を確認
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菊池全農常務 |
JA全農は初めての「JAグループ営農経済渉外活動パワーアップ大会」(JA全中後援)を9月2日、東京都千代田区内のホテル)で開催。全国のJAで活躍中の営農経済渉外員や県本部・経済連等の関係者155名が参加した。
大会はまず、主催者を代表して菊池健久全農常務が、「営農経済事業に対する要望は多岐わたり、その内容も技術的に高度なものが求められる場合もある。農家の要望を満たすことは容易ではないが、渉外とは汗を流すこと。より農家に近いところで農家ニーズに応える「情報」「商品」「サービス」の提供にがんばってほしい」と、農家に近い所での渉外活動の重要性を強調した。続いて、JA全中経済事業改革推進部の久寝正則部長が「営農指導に対する農家組合員の評価は厳しく、満足度もあまり高いものではない。営農経済渉外活動を強化して、農家との絆を強化する必要がある」と挨拶した。
その後、「食品安全行政・経済事業改革について」農水省消費・安全局の嘉多山茂農産安全管理課長が講演。小高根利明全農肥料農薬部長が「営農経済渉外活動の向上・定着に向けて」基調報告を行なった。
そして、営農経済渉外活動の優良活動事例を5JAが報告し、パネルディスカッションを行なった。
さらに、来年度以降も内容を充実させ本大会を継続して行くことを確認し、小宮山潤全農肥料農薬部次長から来年度大会の素案が提案された。
大会で採択されたスローガン
●わたしたちは、畑や田んぼに足を運び、
農家に役立つこだわりの情報をお届けします!
●わたしたちは、農家の要望にしっかり耳を傾け、
心のこもった対応をします!
●わたしたちは、農家との信頼の絆を担うパイプ役として、
魅力ある渉外員になります!
●わたしたちは、苦労や失敗の経験を乗り越えて、
農家によろこばれる「ふれあい活動」を行います!
●わたしたちは、農家の満足度を向上することにより、
JAグループ事業の基盤強化に貢献します !
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現地ルポ JAはが野(栃木県)
JA経済事業の中心を担うACSH
◆「暗闇を手探りで」から「何でも相談される」へ
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塩山眞市さん |
JAはが野で経済部営農経済渉外を担当する「農業相談支援チーム」ACSHがスタートしたのは、平成15年3月だった。それから2年半が経過し、当初の8名から今年は若手職員を1名投入し9名に増員された。当初からACSHの一員である塩山眞市部長代理は、スタート時を振り返り「初めの半年は暗闇を手探りで歩いているようでした」と振り返る。
出発当時は「とにかく会えるまで行け。農協から離れていった人に話ができる道筋をつくれ」ということで、認定農業者や大規模農家1900戸を設定して、1日20戸を目標に訪問した。だが、一度、農協から心が離れた人が簡単に受け入れてくれるはずもない。
「植木をいじっていれば誉めて話をしていくうちにだんだん穏やかになって話を聞いてくれるようになる。そうしてこちらを向いてくれるのがスタート」だ。そうしたなかからパソコンやハイキングが趣味だということを聞き出す。そこでJAの青色申告のパソコン教室に夫婦を誘い、だんだんに仲良くなり、製粉機の故障を直してあげたり、頻繁に顔を出し少しずつ信頼を得てくる。そうこうするうちに塩山さんには何もいわずに肥料を500袋注文してくれた。予約リストを見た塩山さんはあわててお礼にいったという。
◆簿記を一から勉強して
また、訪問すると「おじいちゃん、おばあちゃん、農協の人が来たよ」といわれていたが、いつの間にか「誠、宏(息子さんたち)、塩山さんが来たよ」とお年寄りから若者に相手が変化した例もあるという。
塩山さんは、これからの時代、パソコンで簿記をする時代になると考え、パソコンソフトでの簿記や青色申告を一から勉強し、若い担い手にアプローチもしている。JAでは営農センターごとに毎月1回夜に講習会を開き、年間100名以上が受講している。青色申告では取引先データを自動的に仕分けしてくれるソフトをある職員さんが開発、これもACSHの大きな力になっているという。
あるときには、ナス農家を訪問すると、ナスの剪定が悪いと奥さんがいい夫婦でもめていた。塩山さんが見るとそれほど悪くはないので「きれいに剪定されていますね」というと、その一言で奥さんの機嫌が直ったという。
東京の大学を出て就職していた長男が帰ってくるので「家を建てたい」という相談を受けたこともある。建築会社を紹介し予約までしたが、遠いこともあって行っていなかったので、改めて塩山さんが同行して話がまとまったという例もある。「中途半端ではなく、最後まで背中を押してあげないといけないですね」と振り返る。これはJAの住宅資金融資になったわけだ。
◆“オラが農協”意識を取り戻すために
こうした事例をあげればきりがない。杉山忠雄常務は、「合併前の昔の農協は組合員が1000戸くらいで30〜50人程度の職員が接していた。その時代には“オラが農協”という意識があり、農協職員に時間に関係なく、相談や頼みごとをしていたし、職員もそれに応えていた。それが合併して、合理化して、そういうことがなくなり、農協と組合員の間に距離ができた」。そうした関係をもう一度取り戻そうとしているがACSHだという。
塩山さんたちACSHの活動は、総合的な経営コンサルタント活動だといえる。そうすると「浅くてもいいから広い知識をもって、組合員からいわれることに、とりあえずでも受け答えができないと、相手にされなくなる」と坂入勝男経済部次長。だから「勉強、勉強ですよ」と塩山さんもいう。そして専門的な問題は担当部署に回し、24時間以内には組合員に返している。
◆簡単な問題はACSHが庭先で解決できるように
15年、16年とかなりの成果をあげてきたACSHだが、今年から対象者を主たる園芸部全員全戸訪問することにし、さらに「営農情報の提供だけではなく、軽微な営農技術指導まで行なう」ことになった。
それは「園芸生産者は米も作っているので、その人たちに特化すれば、主要な生産者はほぼカバー」できるからだ。そしてACSHとは別に、大型水田農家を対象とする「大型農家対策班」を3名の人員で設置した。集落営農における担い手育成が中心的な仕事になるという。
杉山常務は「簡単なことは、ACSHが庭先で解決できるようにしたい」と考えている。つまり、信用・共済も含めた総合的な渉外活動であり、「総合農協の力を発揮するACSH」ということだ。その手始めが「軽微な営農技術指導」ということのようだ。そのためには、JAの理念・考え方がシッカリし、全役職員がそのことを認識していなければ実現はできないだろう。
JAはが野の場合、2000戸(管内農家1万1930戸)で購買事業の5割を占めている。だから、2500戸くらいの農家をキチンと把握しておけば「10年、20年経っても、JAの農業基盤を把握できる」。それがACSHの仕事だといえる。
そして何よりも大事なことは、ACSHの目的と役割が、経営トップから全職員までキチンと認識され共有化されていることだ。例えば営農部とは、毎週月曜日に打合せ会を持ち、情報交換すると同時に、現場で感じた疑問を出し、キチンと解決している。こうした部門を超えてJA全体での連携・支援体制がなければいくら優れた個人であっても、営農経済渉外活動は成功しないからだ。
◆マネジメントできる人材を配置する
最後に、ACSHには訪問戸数などの目標はあるが、推進(金額)目標はない。それは「結果は後からついてくるもの」だから。そのために「個人でマネジメントできる、自分自身が経営も分かる所長クラスの職員をACSHに配置」したのだと杉山常務。今年、ACSHのメンバーから2名が部長に昇任した。
そのことで、ACSHは、JAはが野の経済事業の中心に携わっていることを明確に示している。このことは、営農経済渉外活動の重要性を考えれば、非常に大事なことではないだろうか。
事例報告要旨
佐藤章一さん
JAあきた北経済部
営農経済渉外課課長
13年9月にスタート。当初、合併前の旧15支店を13名で担当し、1人あたりでは、約500名を受け持ったが、現在はエリアを拡大して、8名で担当。渉外員1名あたり約1000戸を受け持ち、1日20戸・月300戸の訪問が目標。毎月『ふれあいデー』を設定し、全職員御用聞きの日として、金融情報や生産資材の注文書を配布し、渉外課職員が生産資材等の未回収部分のフォローにあたる。全戸に担当者の顔写真を貼った携帯電話番号を配布したら、予想外に効果があり、組合員と気軽に話ができるようになった。渉外担当は全員軽トラックで巡回してることから、急ぎや軽微な注文品については、会って話をすることの大切さを確認する意味もあり、直接届けることにしている。農協提案の伝道者、農家の代弁者をめざしている。
内田新一さん
JA佐波伊勢崎営農
経済事業部生産資材課課長
11年から地域の拠点施設設置計画により5ヵ所の地区営農センターへの集約を進め、12年に各営農センターに経済渉外員を配置した。しかし、狙いどおりの効果が発揮できなかった。農家とのつながりを密にすることが求められていることから、本年2月の理事会で営農経済専任渉外担当者設置規定・当活動要領・同行動基準が決まり、本格的な活動への体制が整った。野菜生産が主流だが、待っていては野菜はJAに集まってこない。JA集荷を担当する渉外員を含め、現在34名で活動。
営農経済渉外は「制度」や「要領・要綱」だけではうまく機能しないことから、研修にも力を入れている。研修は経営者、管理者を対象としたマネージメント研修、渉外担当者を対象とした推進システム研修、に分け年3回程度実施している。実践研修を通じて、役員―管理者―担当者が目的・意識をひとつにすることが大切である。
田中一彰さん
JA新潟西内野町支店営農経済課営農経済
渉外員
営農経済渉外員制度は、16年2月にスタート。事業年度当初の年間目標と、毎月の活動計画が活動の基本で、毎月の活動結果は、翌月に所属長および支店長経由で本店に報告される。この報告に基づいた課題の整理と、解決方法の検討が、毎月行われる推進会議のテーマとなる。
組合員に会って話してきたことは、なんでも組合員台帳に記入し、データを増やしていくことに努めた。渉外員は他の職員よりも農家に近い位置にいることを自覚し、農家のことを一番知っている職員になることをめざした。顔を覚えてもらうこと、何でも話し合える関係をつくること、そして農家の立場に立って栽培方法や資材を提案すること、我々の仕事は、これに尽きると思います。
鮫島繁樹さん
JAそお鹿児島
農家対策特別班
(TAF)主任
10年にスタート。日々の活動は、徹底的に農家を訪問し、よろず相談係として組合員に認めてもらい、待ちの姿勢から、積極的に出かけて話を聞くことを心がけている。しかし、ノルマは与えられておらず、その分、自分が試されており厳しいのも現実だ。今までは自分(JA)の頼み事があるときだけ出かけ、組合員が用事のあるときには事務所に来てもらうのが普通だった。渉外員はJAのなんでも屋として、どんな些細なことでもこちらから出かけていくので、組合員から喜ばれている。組合員の利益になるような情報を伝え、組合員の手取りが多くなればJAを信頼し、JAから離れないと思う。
JAはが野
(現地ルポ参照) |
営農経済渉外活動の充実で
経済事業基盤を強化
◆JAへの満足度向上めざし、全国で約1900名が活動
「商系業者はほ場までよく来るけれど、JAは最近ちっとも来ない。商系業者は新しい商品情報や技術情報をもってよく来る。応対のマナーもいい」
「共済や貯金の推進のときとか、宝石なんかを売りたいときばかり来るけれど、肝心なときにはちっとも顔をみせない」
「農協の事業運営に俺たちの意見が反映されているとは思わない」
「JAの方針が十分に伝わってこないから、JAがなにを考えているのかよくわからないね」
こうした声は、取材などを通してJA組合員からよく聞かれる。
平成12年に全国に1411あったJAは現在875。そのうちの4割が構想実現JAだ。そうしたJAの多くは、行政の枠を超え、組合員数も1万人を超える規模になっている。そして収支の改善や経営の効率化を進めるために、組合員の身近にあった支所・支店や購買店舗などが統廃合され、職員数が徐々に減ってきている。とくに収支の悪い営農指導や経済事業部門でこの傾向が強いといえる。
その結果、営農指導や経済事業の担当者は「行きたくても組合員のところへ行くことができない」状況になってきている。それが、組合員の“JA離れ”を生み出し、冒頭の声となって表れてきているのではないだろうか。
かつて生産資材については、農協がほぼ独占的に供給してきていたが、いまはホームセンターや農業資材店舗など競合する店舗が増え、価格やサービス競争が激化している。営農車も含めて1人1台車がある時代になり、生産者の行動半径が広がり、そうした店舗などを見比べ、生産者が選択する時代になった。ところがJAは、どちらかといえば“待つ営業”に慣れてしまい、競争の時代に対応しきれていないということも、こうした現象を拡大してしまった原因だといえる。
こうした組合員とのつながりの弱まりによるJAに対する不満。競合他社の価格やサービスなどの攻勢によるJAへの不信感をなくし、JAへの信頼を取り戻し、JA事業への満足度を向上させるために営農経済渉外員制度を導入するJAが増えている。その数は、全国166JAで1867名(17年3月末現在、JA全農調べ)だ。
◆目的・役割を役職員全員で共有化する
営農経済渉外活動導入の目的はとして小高根肥料農薬部長は次の4つをあげる。
第一は、農家のほ場・庭先を訪問して、農家に役立つ情報・商品・サービスを提供することで、JAに対する信頼を深め、その結果として、組合員の満足度が高まればJA利用の拡大につながり、事業基盤の強化になることだ。
二つ目は、農家・組合員のJAに対する要望や苦情、思いなどに率直に耳を傾け、その情報をJA全体で共有化し、JAの事業活動や施策に活かすこと。
三つ目は、JA経済事業に従来ありがちな「待ちの体制」から「出向く体制」へ事業方式を見直し、JA役職員の行動・意識の改革をはかること。
そして、営農渉外活動で得られた情報をもとに、農家・組合員の視点でJA事業のあり方を見つめ、JA事業への満足度を向上させることで結集を高め、営農・経済事業の事業基盤を強化すること。
要約すれば、JAが積極的に農家・組合員に出向く営農相談活動によって、農家・組合員との信頼を構築し、JA事業への満足度を向上させるのが、営農経済渉外活動だといえる。
積極的に“出向く”活動で
信頼と満足度を向上
◆組合員とJAを結ぶ第一線部隊としての位置づけを
前にみたように多くのJAが導入しているが、まだ必ずしも定着したとはいえず、廃止されるケースもあるという。
その原因はいくつか考えられるが、営農経済渉外活動の目的や役割がJA役職員全体で共有化されていないことがまずあげられる。組合員に提供する情報も農家・組合員から寄せられる要望や苦情も多岐にわたっている。それに対応するためには、担当者の知識や経験が必要であると同時に、営農指導・経済事業だけではなく信用・共済事業も含めた支援体制が確立していなければならないからだ。
経済事業改革の柱として「三位一体の物流改革」が位置づけられ、そのなかで営農経済渉外活動が語られることが多いためか、この活動が「余剰人員対策」として誤解されているケースが多いのではないだろうか。それでは、営農経済渉外に配置された職員のモチベーションは上がらないだろうし、他部署との連携や積極的な支援を受けることは難しいだろう。
JAと農家・組合員をつなぐ重要な第一線として積極的にキチンと位置づけ、そのことを役職員が全体で共有することがなによりも大事だといえるし、いくつかの先進事例はそのことを教えてくれている。
◆まず話ができる関係づくりから
二つ目は、初めから金額目標を設定しては成功しないということがあげられる。
営農経済渉外活動の対象は、JA利用率が低い“JA離れ”した大規模農家や生産法人だ。彼らの心をJAに向かせるためには「売る」ことではなく、まず「話をしてくれるようになり、仲良くなる」ことから始めなければならない。JAはが野のACSHチームは「初めの半年は真っ暗闇」だったという。半年経って、やっと話をしてくれるようになったというように、心を少しでも開いてもらうためには時間がかかるわけで、拙速に結果だけを求めると失敗する。
そして、前にも触れたが、農家・組合員と話をするためには、広く浅くてもいいから、営農・経済事業から信用・共済事業の知識を習得しておかなければ、「そんなことも知らないのか」と相手にされなくなってしまう。各部署と連携した教育・研修や定期的な会合などが重要になってくる。その体制がつくられておらず、担当者個人任せになっていることも定着しない要因の一つだといえる。
経済事業は総合農協の軸といえる事業であり、その事業基盤を強化する営農経済渉外活動は、まだ発展途上にある活動だが、協同組合の、そしてJAグループ経済事業の原点ともいえる活動でだといえる。連合会とJAが一体となってこの活動を積極的に広め高めていくことが、これからのJAグループにとって重要になってくるだろう。