農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋築く新生全農の役割

インタビュー

すべての情報を公開することが協同組合の最大の武器

生活クラブ事業連合生協連会長河野栄次氏に聞く


 全農会長の諮問機関である「全農改革委員会」では、現在の全農が抱える問題点からこれからの全農のあるべき姿まで、多くのことが議論され、最終的に「答申」としてまとめられた。同じ協同組合の代表としてこの改革委員会の委員として参画された河野栄次生活クラブ事業連合会長に、全農の改革を成功させるためには何がポイントなのかを、委員会での議論も含めて率直に語ってもらった。この中で河野会長は、協同組合の原則や価値を踏まえて組織運営・事業展開することと、旧来の制度依存ではなく、国民の食料を担っていることに自信をもち、自ら制度をつくり販売事業戦略を構築することが重要だと強調した。

◆協同組合の優位性が認識されていない

生活クラブ事業連合生協連会長河野栄次氏

こうの えいじ

昭和21年東京生まれ。40年世田谷の「生活クラブ」の牛乳運動に参加。43年生活クラブ生協(東京)設立に参加。51年生活クラブ生協(東京)の専務理事、平成元年同理事長に就任。9年生活クラブ連合会専務理事に就任。10年生活クラブ連合会会長に就任、現在に至る。

 ――全農改革委員会でどうのようなことを感じられましたか。

 河野 一番重要なことは、日本の食料生産について、JAグループの役割が圧倒的に大きいということを再認識をしたことです。JAグループ全体で基幹の食料生産に関する販売・購買事業で6兆円の規模があります。なおかつ、全中含めて農林中金やJA共済連を含めて、ありとあらゆることをやっていて、これを肩代わりすることは、トヨタでもできないと思いました。
 二番目には、全農は協同組合であるにも関わらず、協同組合の基本的な価値と原則が日常の組織運営や事業運営に充分活かされていないことです。協同組合は正直とか誠実、透明性、社会的な責任が基本的な価値であり、組織運営の原理なわけです。そういう点で、営利目的の一般企業より優れている組織体です。このことが、残念ですが認識しきれていないということです。私は協同組合としてもう一度見直す必要があると考え、1回目の委員会に提出した文書にICA声明・協同組合のアイデンティティを付けました。

◆市場経済が前提となっている農協法の改正

 河野 三つ目は、この作業をやる中でもう一度、農協法全文を読み返してみました。そのことで分かったことは、農協法の改正は商法に準拠しているということです。だからこの法律を読むためには商法を横に置いて読まないと理解できません。つまり、いつの間にか市場経済が前提条件になって企業活動の仕組みをここに取り込んできている。もちろん、取り込んでいいこともあります。しかし、協同組合のアイデンティティである価値と原則に基づいて、人の組織としての在り様をキチンとしないと、いつの間にか協同組合の本質を逸脱した形が出てきます。

 ――逸脱した形とは具体的にはどういうことですか。

 河野 一つは経営管理委員会システムです。総代会で経営委員を選び、経営委員が理事長を指名する。社会的責任は経営委員会の会長にはなくて理事長にある。こんなことは協同組合ではありえません。このことは改革委員会のなかで最後まで議論になりました。
 協同組合の側からの法案改正ではなく、結局は押し付けられたものだと思いますね。とくに住専問題以降にです。改訂条項をみると金融の問題にからんであらゆることを入れてきています。
 生協法改正もこういう方向に向かっていますから、この問題は協同組合陣営として考え直さなければいけないと思います。

◆官と民の間で大きな役割を果たしている協同組合

 ――「官から民へ」という考え方に通じるものがありますね。

 河野 今回の選挙でどの政党も「官から民へ」といっています。しかし、官と民の中間に非営利・協同組合セクターが存在し、今日、それが大きくなっています。いまの社会は、国家ですべてができなくなり、民間に委託するといっても成り立たない構造をもっているわけです。まさに共助・自助という枠組みの中に地域があり、官・民という二極で全てがすむわけではありません。
 とくに地方ではそういう中間項がいままでの公の役割を果たしています。人びとがつくる新しい公共です。ユニバーサルサービスといったときに、それを担えるのは、まさに協同組合陣営です。「官から民へ」していいことと、してはいけないことがある。地域の人びとの生活や生命に関わることは、地域の中に人びとが参加してやるべき新たな仕組みづくりの提案をすべきです。

 ――JAグループもそういう認識をもたなければいけないわけですね。

 河野 JAグループは自分たちの社会的位置を十分に認識していないと思います。改革委でもそのことをいいましたが、事業改革がテーマということで議論になりませんでした。組合員の生活をよくすることが協同組合の目的で、事業はその一つの手段だといったのですがね。企業は営利を目的として事業をします。だから、企業の代表者は明快に全農は効率的でないといいます。それは直さなければいけない。しかし、効率的であっても人びとの生活を脅かしてはいけないわけです。郵政民営化の議論はそこにあるわけです。

◆循環型社会実現に取り組むことが全農の社会的責任

 ――消費者団体からみて、これから全農が果たさなければならない役割はなんですか。

 河野 1億2700万人の食料生産の担い手だということです。
 世界同時異常気象が起きていて、他国との協定による食料の安全保障がないわけですから、地域循環型社会づくりをしないかぎりは食料再生産はできません。その中核を担っているのがJAグループです。そして「全農はJAグループにおける経済活動の担い手として、経済活動に関するさまざまな情報・技術・モノを効率的に活用する仕組みを構築しなければならないし、更に進んで、将来の循環型社会形成の中で農業が担う役割の重要性を認識し、その実現に取り組むことが全農に課せられた大きな社会的責任である」と「答申」の「おわりに」に入っています。さらに「これは今回の改革委員会メンバーの共通認識であり、これからの改革に当たって全農の関係者全員にぜひともこうした意識を共有して欲しいと願っている」とあります。
 JAグループは総力をあげて食料生産し、消費者を含めて日本の社会をつくっていく。そこの点をはっきりしていくことだと思います。

◆負の情報も含めて公開するすることこそが

生活クラブ事業連合生協連会長河野栄次氏

 ――「情報開示」も大きなテーマですね。

 河野 BSE以降、食品の安全・安心に関するテーマが大きくなりました。そのときに、全農は生産するところから最終ユーザまで、組織の中で連携していますから、その間のすべての情報開示ができる組織です。ここまでの情報開示は他ではできません。だから、情報開示することが一番のキーになる。企業に対抗するときに協同組合にとって何が武器かといえば情報公開だと思います。
 私はマイナス情報も特許やノウハウも公開するべきだと思います。ノウハウや特許は自分たちだけのものだといいます。しかし、全農の役割はそれを人びとに広げていくことですから、公開してまた新しいノウハウをつくればいいんです。常にオープンにしていく。
 農薬を使ってもいいんです。なぜ農薬を使うのか。何のために使うのか。使った結果どういう形で農産物に残留するか。残留した場合にどういう影響があるのか。そういうことを明らかにする。全農なら、協同組合ならそういうことができる。それを武器にすべきです。
 JAグループはものを生産していますから、必ずトラブルは生じるものです。自然界を相手にしていくのだから、予想しない害虫や病気が発生することはある。そのことを隠さず必ず情報公開します。そのことは企業にはできないません。そういう戦略をやってください。それができれば十分戦えます。
 それを情報戦略とするのです。情報戦略なくしていまの時代、勝てませんよ。こんなチャンスは二度とないと思いますね。しかも、全農だけではなく、全中も全共連も含めてオールJAグループで、この情報戦略で戦いを挑んでいく。そこがキーだという話に改革委ではなりました。

◆部署ごとに全員参加のマニュアルづくりを

 ――負の情報も含めて本当に情報開示することができるかどうかですね。

 河野 するんです。そのためには、裄V会長が全国の全JAから県本部を通さずに直接、一切のタブーやいままでのこだわりなしに意見を聞き、農業を再生産していく必要な事項を全部出してもらうことです。その意見を、直ちにやらなければいけないこと、長期にかかること。それらを日にちを区切り、整理して経営委員会で議論し決定する。
 そして、関水理事長は、1万2000人の全農グループ全職員・社員に対して、新たな全農をつくるために、いまやっている仕事のなかに問題点は何があるのか。自分の仕事の範囲・ジャンルを超えていいから、あらゆることについて意見を具申してもらう。いままで問題を起こしていたり、問題を抱えていることがあったら、それも含めて出してもらう。責任を問わないから全部明らかにしてもらう。私は「徳政令」だといっているんですが、それを直ちに整理して、これも直ちにやれること、3年でやること、5年でやること、予算をとること、人を異動しなければいけないことなどに整理する。こうした問題の洗い出しと整理が、私が提案した「100日宣言」なんです。
 そしてマニュアルを全部見直してくださいというのが私の提案です。いままであるマニュアルはやめて、部署ごとに職員自らがマニュアルをつくり、それで3ヶ月実行してみる。うまくいかないところは改訂版をつくり直す。それに則って作業する。営業部門では商習慣があるから、いままでやっていたマニュアルと付け合せ、相手に対して齟齬をきたす場合はそれは残して、問題があることを明らかにしておいて、時間軸のなかで解決していく。そういうマニュアルづくりを1万2000名が参加し、時間を区切ってつくる。それを完成版とせず、いつつくったマニュアルかを明示し改訂版をつくっていく。つくったマニュアルで今回から施行しますと公開する。いままでの問題点はこれだけあります。法律と矛盾したことは何となんですと公開してしまうことです。
 いままでは、トップダウンで点検するからいわれたとおりにする。マニュアルは覚えさすものではなくつくるものだし、つくり変えるものです。

◆販売チャネル別の営業戦略を構築する

 ――改革を成功させるためには、その他に何が必要ですか。

 河野 全農は今日まで、制度に基づいて事業展開してきました。しかし、アテにしていたその制度が完全に崩壊したんだという認識をすべきです。
 食糧法の改正、米流通システムの改革そして卸売市場法も改正され、すべての農産物は市場経済のなかに投げ出されたわけですから、いままでのように制度で保障されているという考え方に立たないで、自分たちで新しい制度をつくる。そのためには、事業のあり方のキーを、これまでの農民が作ったものを制度の中に売るという仕組みから、自分たちでマーケットを調査して、マーケットに合わせた販売戦略に基づいて生産するという形に切替えることです。
 JAと一体になって、もっというなら組合員も参画させて、農産物の販売事業戦略をたて、それに基づいて生産者の営農、生産購買事業の取り組みをするという戦略を組むべきです。
 全農は専務直轄の販売戦略部門をつくり、縦割りの事業部門別ではなく、市場流通も含めて、量販店・生協、加工業者、通販などチャネル別に営業戦略を組むべきです。問題はそういう体質になるかどうかです。そうすれば私いけると思います。

 ――生活クラブは全農の経営役員にも入られましたね。

 河野 生活クラブ事業連合の総会で全農に呑み込まれてしまうのかという意見もありましたが、呑み込まれるのではなくて、共同責任になったというのが、組合員の意見です。少なくとも食料自給というテーマは生活クラブだけの戦略から全農とともに進める戦略になり始めた。言葉だけではなく実態をそうしようと考えています。

 ――ありがとうございました。

(2005.9.27)



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