◆経済事業の自立が組合員の結集力を高める
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やすだ・としお
昭和7年福島県生まれ。昭和49年JA二本松市理事、61年JA二本松市農協組合長理事、平成2年中央会・経済連理事、5年中央会理事専務理事、9年JAみちのく安達代表理事組合長、14年JA福島五連会長就任 |
――改革委員会で議論になったポイントをお聞かせください。
安田 相次ぐ不祥事に対して経営管理委員会など組織のあり方を見直すことももちろん大きな課題でしたが、改革委員会で私など生産現場の組織代表委員が指摘したのは、JAグループの基幹事業の経済、信用、共済のうち、いちばん評価が悪く結集率も低いのは経済事業だということでした。ところがJAの事業としてはこれが最大・最重要の事業。そのJAの大黒柱に組合員の評価が高くない。それはいったいどういうことだろうということです。
今までのJAグループの事業体質というのは、第一線のJAも含めて、信用、共済で収益をあげてのいわゆる経済事業はサービス事業とまではいわなくても収支については重視されてこなかった。ところが信用事業は収益低下、それから共済事業についても長期共済保有高が年々減少している。信用、共済事業の収益で経済事業を応援することはもう限界があるということですね。ということは経済事業自体の自立という本来あるべき姿が求められる状況になってきた。
そこで、JA大会決議に基づいて全中段階で経済事業改革本部委員会を設置してまず部門収支に一定の目標を設け赤字JAは中央会が特別指導するなどの取り組みを行ってきたわけですね。
一方で、それでは全農が統合の成果をあげているのか、全国本部、県本部の事業活動を通して他の流通業態より優れた取り組みがされているのかどうか。ここが購買事業でも販売事業でも指摘されるべき大きな課題だということでした。
たとえば、ほとんどのJAが取り組んでいるSS事業では石油という原料は当然100%輸入だから、仕入れをしなければSSに石油を供給することはできない。ところが全農から仕入れるよりアウトサイダーから仕入れるほうが安いということが言われる状況とはいったい何かということです。これは肥料にしても農薬にしても程度の差はあれ似たようなことが指摘されている。
こういう指摘について、全農は決定的な取り組みを欠いていたのではないかということから議論のなかでは、購買事業については主として全農が外側から製品、原料を仕入れして会員JAに供給している仕組みだから、これは全国本部の機能を強化して体制を変えればそこでコスト圧縮ということが実現できるだろうということになりました。
一方、販売事業については生産の現場が地域で異なるということがあって、米にしても野菜にしても果物にしても九州と東北では置かれている状況が違う。それではどうコントロールしていくのかということになり、産地特性のある作物、それから全国的に共通の作物に大きく事業を分けられるのではないかという議論になり大きな方向性を示せたと思います。
◆正念場迎える米の販売事業構築
――現場では改革にどのような期待がありますか。
安田 私たち県域、農家の立場で言えば、購買事業についても少なくとも国内での農業団体としては最大の組織として力を持っているわけですから、その成果が明確に生産者に届けられる事業体制の構築を一日も早くやってもらいたい。
それから全農段階ではペイしても第一線のJA段階ではペイしないという事業については、もう全農が一元管理するという仕組みの構築が必要なのではないか。代表的なのは燃料事業や農機事業です。肥料、飼料はまずまずですが、けして他の業界にくらべて優位性を発揮しているとはいえません。これは全国本部と県本部の管理体制の一体的な扱いによってコストの圧縮をはかることを求める以外にないと思っています。
それから生産販売事業について大事なことは消費者のニーズ、これがどうなっているのかをきちんとキャッチして地域特性をいかして生産を担当してもらってはどうかということです。
この農産物は東北で担当してもらってはどうか、これは九州でつくってもらってはどうかということが全農の機能としてとくに大切ではないか。一般社会ではその会社が国民生活のためにどういうものが必要か、どんなものをつくったら受け入れられるか、他社との競争に勝つためにそういう工夫をしています。
ところがわれわれは、こういうものができましたから買って下さい、ということが多かった。そうではなく国民の食料としてどういうものが求められているかを考えて作ることが必要ではないかということです。
とくに正念場が米ですね。構造的に過剰基調のなかでしかも19年からは生産者主体の計画生産に取り組まなければならないわけですから。国内で作られた米は国内で国民に食べてもらわなければ消費されないわけですから、全農がどのように県間の調整をはかるか、そこが最大の課題と思います。
それから47都道府県が協調して販売事業をやっていくためにはやはり組織のあり方として全員参加の統合も求めるべきではないかと思います。全体的な力の結集をしなければ組織力を発揮することができないということです。
改革はJA、組合員一丸で進めること
◆「運動」という意識も必要
――改革が求められるなか農協という組織そのものにも批判が出ていますがどう考えますか。
安田 米の販売事業でも民間業者は自己責任で買い取りで事業をしているのに、なぜJAは無条件委託販売方式なのか、だから原価意識も生まれないとか責任も曖昧になっているのではないかという指摘もありますが、われわれの組織はあくまでも協同組合であって、協同組合として共通の参加と責任のなかで成り立っているわけです。
それは組織構成員だけのメリットを追求するものではなくて事業活動を通して社会にも消費者にも貢献していきたいということですから、その仕組みは組合員に対しても社会に対してもきちんと説明をしていく必要があります。
最近では事業の量だけ追いかけるために運動意識というものが薄くなってきているという側面がある。こういう事態はわれわれが十分心しなければいけないことだと思います。
われわれが全国組織として、いわゆる国の下請けではなくて自主、自立、相互扶助の観点からもう一度事業体制構築に取り組む、そのことがどう全農の事業改革に反映できるかということだと思いますが、基本的には全国の組合員が結集することが対外的に力を発揮することになると思います。
ただ、購買品の仕入れでも相手に対して力で交渉するだけではなくて相互に生きるために共生のメリットをどこで見いだすことができるか。大事なことはここだと思いますね。相手を圧力によって立場を苦しめるのではなく双方にメリットを見いだすためにどうするのか、そこに創意工夫がある。
◆改革のベースは組合員、職員教育
――JA段階でも改革が必要ですね。
安田 経済事業に限らずJAが取り組んでいるすべての事業に言えることですが、全国段階だけが改革すればいいというものではなく第一線のJAも問題を改めなければならないし、場合によっては組合員農家にも情報を伝えて努力を求めることも必要でしょう。
組織全体として改革の中身を徹底していかないと成果はあがらないと思います。そのためのベースとしては教育だと思います。われわれはなぜJAを組織し参加しているのか、その理解の上に立って各事業を利用することによって競争力も生まれるし、またメリットも生まれると考えています。
◆全農は国内食料の担い手、機能と責任を自覚して
――消費者の信頼回復が大きな課題ですが求められる視点はどこでしょうか。
安田 全農改革委員会で消費者委員やJAグループ外委員との議論を通して感じたことは、JAグループは食料生産をしている事業、運動体だと評価をしているということです。たしかに考えてみれば金融共済事業は一般の人にはあまり関係のないことですからね。
国内の農家がどういう手だてで消費者が必要とするさまざまな農産物を作って届けてくれているのか、その間に過ちはないのか、間違った方向に行っていないか。コストを下げる努力をしていないから高くなっているのではないのか、その結果として海外の輸入が増える状況になっていないか、ということです。さらに正確な理解はともかく3兆円もの国民の予算が使われているのに国民の期待に応えているのかどうかということもあります。そこに全農の偽装事件など不祥事が起き、いろいろな問題の象徴のように受け止められてしまった。しかし、このことについてわれわれは本当に組織としてきちんと受け止める必要がありますが、同時にどんな努力をしているのかと併せて、国内農業が果たしている役割(多面的機能)が8兆2000億円にも評価されていることを消費者、納税者に知ってもらう必要があります。
それからもうひとつは、JAグループの農産物の生産販売という全国的な経済事業がなくなってしまったら、今すぐにそれに代わる機能はないということです。部分的に米や野菜は特定地域から買うことはできるでしょうが、全国的に調整して取り組んでいる組織はありません。しかし、他に組織はなく、これはわれわれにしかできなことだ、だから存在が許されるのだという思いがどこか根底にあるとすればそれは改めていかなければなりせん。そこができるのかどうかが全農、そしてJAグループの存在が認められるかどうかだということを強く感じました。