農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋築く新生全農の役割

物流改革を切り口とした
三位一体の経済事業改革

県域物流移行でコスト低減
現地ルポ JA佐城


 経済事業改革の重要な柱である物流改革は、農家配送拠点設置による広域物流、当用対応する生産資材店舗設置、大規模農家など組合員のJAへの信頼度を向上させるための営農経済渉外員制度の「三位一体の改革」として進められてきている。配送拠点も物流改革実践JAも毎年着実に増加してきている(図参照)。そこで、具体的にどのように改革は進められ、生産者からはどう評価されているのかを、JA佐城とJA佐賀経済連に取材した。
県域のモデル資材店舗・JA佐城大和中央店
県域のモデル資材店舗・JA佐城大和中央店

◆資材店舗の品揃え充実で満足度が向上

松崎逸夫さん
松崎逸夫さん

 「以前は農協の生産資材店舗にきても、ハウス用の材料が少なかったり品切れで、すぐに手配ができなかったので、他所に買いに行っていた。行けばついでに他のものを買ってしまうから、JAの利用率は低くなってしまった。いまは、農業関係資材の品揃えがよくなり大概のものはあるから便利になった。土日も開いているし。だから、みんなにもそういって宣伝している」と佐賀県JA佐城の組合員・松崎逸夫さん(JA理事)はいう。
 JA佐城は、昨年5月に佐賀経済連委託による県域農家戸配送をスタートさせたが、それと同時に「物流を切り口とした三位一体の経済事業改革に取り組んできている」と夏秋道博経済部長。つまり、農家戸配送の改善だけではなく、生産資材店舗の統廃合と品揃えなどの充実で、農家組合員の当用ニーズへの的確な対応。さらに営農経済渉外員制度を導入し、大規模農家や生産法人のニーズを把握することだ。
 その一つの成果が松崎さんの大和地区では3店舗あった生産資材店舗を、ここ大和中央店に集約し「品揃えを充実」したことによって、冒頭のような評価を得られるようになった。
 JA佐城にはJAグリーンもあるが、JAグリーンは家庭菜園用など一般の人たちも対象にした品揃えをし、生産資材店舗は農業者の専門店として位置づけているという。それでも大和店のアイテム数は、JAグリーンの3分の1くらいあるという充実振りだ。
 また、県域物流への移行後わずか1年で購買事業の収支はプラスに転換。県域共同仕入れによって農薬80品目、肥料の主要6品目で組合員に価格還元。今後、物流改革による還元をしたいと経済部農業資材課の西川義博調査役。

◆JA・県域物流の一体化でコスト低減をめざす

 なぜ、わずか1年でここまでできたのだろうか。それには、JAグループ佐賀の物流改革に対する取り組みを振り返ってみる必要がある。
 JAグループ佐賀では、平成11年に、大型合併JA組成後の物流のあり方について検討し、県域一体化物流体制、物流情報システム構築の必要性を打ち出す。その構想は、配送中央拠点から県内6ヶ所の中継拠点(物流配送センター)を経て農家戸配送する。そのことで、農家戸配送業務を合理化しコストの削減をはかる。
 県域(経済連)の在庫管理業務に物流情報システムを導入して、JA物流との連携をはかり、JA・県域物流の一体化で県域全体のコスト低減をめざす。具体的には、受注センター・物流コントロールセンター設置による物流業務全般の合理化と各JAごとの在庫から県域在庫に移行することで、県域全体の在庫コストを低減する。
 そして、各JA内に点在する生産資材店舗(12年65ヶ所)を集約して、JAグリーン3店舗、生産資材店舗31店舗にすることで、品揃えの充実と欠品・長期不良在庫をなくしたり、相談機能を強化する。という内容になっている。

◆JAと県域の在庫をフラット化する「物流センター標準化システム」

 物流センターの設置や生産資材店舗の集約・充実などは現在、多くの県域で進められていることだといえる。こうしたハード面だけではなく、グループ全体としてソフト面での充実をはかってきたのが、佐賀の大きな特色だといえる。
 全農は13年後半から「物流情報センターシステム」の開発に取り組むが、佐賀経済連は共同開発のメンバーとして「職員を派遣し、設計書の段階から参加して、よりよいシステムの構築をめざしてきた」(中川哲也佐賀経済連流通部次長兼物流企画課長)ことだ。
 その最大の狙いは、JAと経済連が同じシステムを使い、JA在庫と県域在庫を一体的に管理し、相互に在庫状況を確認できるようにすることにあるといえる。「在庫のフラット化」だと物流改革への取り組み開始時から担当してきた佐賀経済連流通部の小野原誠物流企画課長代理と表現した。県域物流の実現など物流改革を実現しているところは多いが、物流情報システムが県域とJA域では異なっているのが実状だといえる。佐賀ではその壁を取り払うことで、JAにおける在庫管理を含めた物流関係の事務全般の省力化・効率化をはかってきたわけだ。
 「物流情報センター標準システム」ができあがった14年11月から15年にかけて、JA佐賀みどり管内にこのシステムを導入してシステムの検証とJAの物流業務になじむようシステムの改善を行なう。さらに16年2月に在庫管理の一元化をめざして経済連にこのシステムを導入し、基盤を固める。そして16年4月に佐城地区配送センターを経済連流通センターに設置して、県域農家戸配送がスタートした。

◆県域物流移行で資材店舗の機能を強化

 スタートにあたっては、予約についてはすべて配送センターが担当するので、基本的にJAが在庫をもつことはなくなった。また、予約についてはすべて配送センターから戸配送されるので、JAで予約品在庫管理をする必要がなくなり、そのための人件費が削減できる。さらに予約や当用品の入力処理は配送センターが行なうので、JAでの入力業務がなくなり、事務の省力化・効率化が実現する。など業務分担を明確にし、県域物流移行による効果をだしている。
 JAにとっては、予約を受ける業務はあるが、その入力から配送、在庫管理までが県域に移行したことで「予約率は70%だからあとの30%の当用への対応をキチンとやる」(西川さん)体制ができたといえる。

農家配送拠点数および物流改革実践JAの推移

農家配送拠点数の推移

物流改革実践JA数の推移


◆毎日全品棚卸で期末棚卸差損がゼロに

夏秋道博部長
夏秋道博部長

 冒頭に見た生産資材店舗・大和中央店は、県域のモデル店として、県連と連係のもとに在庫管理をしている。だから、水稲用資材が必要ない時期にはその時期に必要な資材に入れ替えるとか、一定期間ごとに販売数量をチェックして、ほとんど動かないものを入れ替えたりすることも、可能になった。そうしたチェックも新しいシステムで簡単に行なえるのだという。JAには以前から在庫管理などができるシステムがあったが「リアルタイムで見られるシステムではなかったので、必ずしも信用しきれなかった」という。
 新しいシステムは、本所から資材店舗ごとの在庫や配送センター(県域)の在庫をリアルタイムで見ることができるので、店舗間の移動や農薬の期限切れが近いものを移動することが、正確にスピーディにできるようになったとJAは評価する。
 正確さを支える要因がもう一つある。それは全品目の単品管理と毎日の棚卸だ。単品管理をするために、バーコードを全品に付けた。バーコードによって、価格改定が本所で一括してできること。パートの人でも売上げ処理が簡単にできる。さらに、商品名が分からなくても以前に購入した袋や箱を持ってきてくれればそのバーコードから商品が検索できるなどのメリットが生まれる。
 そして各店舗では、その日の終わりに店の在庫一覧を打ち出し、現品との確認を行い、合わなければその原因を探し、一致させている。これは一見煩雑で面倒な作業だと思えるが、「金融では合って当たり前だ。そういう考え方を資材店舗でも持つということ」だと西川さん。そして、「時間が経てば忘れてしまうことでも、今日の取引だから、合わなければ、あの時かと思い出す」から、その日に処理することが大事だとも。要は店舗職員の意識の問題だといえる。そのことで、在庫が正確になり、「今年の3月の決算では肥料農薬の棚卸差損はゼロに等しかった」(夏秋部長)という。

全商品にバーコードを付け単品管理
全商品にバーコードを付け単品管理
 
農薬は用途別に分類し商品名の五十音順に陳列。棚番号と何段目にあるかなどでコード化し管理
農薬は用途別に分類し商品名の五十音順に陳列。棚番号と何段目にあるかなどでコード化し管理

 

◆導入前に問題を「1つひとつ消し込んでいく」こと

 新しいことを始めようとすれば、組合員や職員から抵抗があることは避けられない。JA佐城でも導入前に1年間検討し議論したという。「問題は嫌になるほどたくさんあった」という。だが「逃げたりすれば後で倍になって返ってくるから、何のためにするのか目的を明確にして説明し、問題を1つひとつ消し込んでいく」ことが大事だという。そして導入して1年、在庫が大幅に減り、収支がプラスに転じ、資材店舗の品揃えが充実して組合員の満足度が向上した結果、「佐賀県内でJA利用率がもっとも悪い方だったのが、いまは100%」になるという成果をあげている。

×  ×  ×

 JA佐城に次いで、今年4月にはJA富士町が、そして10月からJA佐賀市も県域物流に移行。18年度中には県内全JAで県域物流に参加する計画になっている。その日をめざして中川次長や小野原さんたちの忙しい日々が続いていく。

(2005.9.29)



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