農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋築く新生全農の役割

新生全農として直販事業を
再構築し総合的な販売力を発揮

1兆円規模の事業展開をめざして

小野 正 全農大消費地販売推進部長


 国産農畜産物の販売力を強化することは、生産者そして日本農業を守り発展させていくための大きな課題といえる。全農は誕生以来、直販事業を販売事業の重要な柱として位置づけてきた。そしていま“生産者と消費者の架け橋”としての直販事業を強化しようとしている。そこで、小野大消費地販売推進部長にこれから直販事業がめざすものを聞くと同時に、取引先である食品スーパーいなげやの青柳精肉部長とサミットの青果部マネジャーである清水理事に全農に期待することを聞いた。お二人の話は全農関係者には厳しいものだといえるが、その底流に全農への大きな期待があるからこその言葉だったといえる。小野部長の語るなかにその答えはあったといえるし、その期待にどう応えるかが、これからの直販事業を考えるときに大事ではないだろうか。

◆販売事業の22%を占める直販実績

小野 正 全農大消費地販売推進部長

 ――全農の直販事業の役割はなんでしょうか。

 小野 全農が誕生した1972年に、急激にシェアを拡大してきた量販店と市場外流通の拡大へ対応するために、直販事業を事業の基本戦略の1つにしました。もう一つは、素材中心の販売ではいまの流通に十分適応できないので、加工事業を強化するためにいくつかの関連会社をつくり、総合品目の総合販売事業を確立してきました。事業が年々拡大し、いまでは直販事業は当たり前という水準になりました。

 ――現在の事業規模はどれくらいになっていますか。

 小野 16年度実績では、全国本部とその関連会社、県本部とその関連会社を含めた全農全体では8837億円です。そのうち全国本部関連が6245億円、県本部関連が2591億円です。販売実績に占める割合は全体で22%、全国本部関連では29%、県本部関連は14%です。品目別は表1のようになっています。

 ――販路別にはどうですか。

 小野 全国本部関係の主力390社の実績でみると、量販店が56%、生協が35%、合わせて91%と業務用や外食などのシェアが少ないのが実態です。

◆素材ではなく食事を買う時代に

 ――現在の事業環境についてはどうみていますか。

 小野 消費の動向をみると特に20代〜30代消費者は素材の購入から食事そのものを購入する傾向が強くなってきています。最近の業界の調査では、中食が13年の6兆円から8兆円規模に増え、素材中心の内食が40兆円から37〜38兆円規模に縮小し、外食はほぼ横ばいです。中食のなかでも惣菜や弁当が伸びていますが、その購入先割合をみたのが表2で、スーパーからコンビニや弁当・惣菜専門店へシェアが移ってきています。
 それから小売店の業態別売上げをみると表3のように、消費者のニーズを受けて、食品スーパーとコンビニの伸び率が大きくなっています。
 また、市場外流通の割合は図1のようになっています。鶏卵やブロイラーは全量市場外流通です。青果物ではまだ7割市場流通がありますが、他の品目では市場外流通が圧倒的に多くなっています。

◆業態別に戦略をたて販売力を強化

 ――そういう中で何をめざしていくのですか。

 小野 人口が減少するなかで小売業の再編成が進んできます。一方でJA合併が進み産地が大型化しています。そして米の制度変更や卸売市場法改正、国際的にはWTOなど、規制緩和がさらに進み、流通の合理化が求められています。
 そのなかで、まず食品スーパーが伸びていますが、欧米と比べ寡占化はすすまないとみていますので、130億円(年間)以上の売り上げをもっているリージョナルスーパー(140社)に対して、国内農畜産物を扱っている組織として、全農型のチームMDを編成して、引き続きいろいろな商品提案をしていきたいと考えています。
 二つ目は、外食・中食への取り組みが弱いので、ここへの販売強化を進めていきたいと考えています。このマーケットで対応が遅れたのは使用食材で輸入食材が多かったことがあります。最近は、国産を使う流れもでてきていますし、原料の原産地表示に関するガイドラインも設定されて国産に目を向けてきていますので、この業態に相当な力を入れていきたいと思います。具体的には、青果や米では産地育成型の契約栽培方式を県本部と一体となり、全農安心システムを中心に開発していきたいと思っています。

 ――生協については

 小野 三つ目は青果物では現在、センターを活用したりして共同事業を進めていますが、今後も積極的に進めていきます。もう一つは、地域循環型農業の事例が増えてきていますので、今後も連携を強化していきます。
 四つ目は、県本部の直販がまだ少ないので、県本部との連携を強めて地産地消とか県内における直販の強化を進めていきたいと考えています。また、米の直販が少ないのでパールライスの販売を強化していきます。

◆県本部・関連会社を含めた業態別販促チームの編成を

 ――そのためには販推部機能を強化する必要がありますね。

 小野 マーケティング機能を強化して、役員によるトップセールスを進めたいと思っています。そして、ルート別・エリア別販売について、県本部、関連会社を含めたチームを編成し、取引先・店にあわせたきめ細かな商品開発や物流対策をして、営業推進をしていきたいと考えています。
 そのために、関連会社とはすでに実施していますが、県本部や売れる農産物づくりをしている購買部門との人事交流をして生販一貫の体制づくりをして、生産まで入った商品開発ができる体制をつくり、総合的な販売強化をしたいと思っています。
 生産情報と消費情報をもっている全農の強みを発揮しながら「消費者と生産者の架け橋」機能の強化に力を入れていきたいと考えています。
 直販事業を立ち上げて30年経ちますが、統合全農として県本部を含めて再構築する時期にきていると思っています。そして現在8800億円ですが、1兆円規模をめざしたいと思います。

表1 販売実績に占める直販実績の割合

表2 中食を購入することが多い店の業態割合

表3 16年度小売店の業態別売上高シェアと9年度との対比

図1 市場外流通の割合

消費者ニーズを産地に伝え、それをフィードバックする
青柳 力 (株)いなげや精肉部長

青柳 力 (株)いなげや精肉部長

 青柳部長は10年ほど前にバイヤーとして、そして4年前から精肉部長として全農と付合いがあるが、その経験から、全農は、消費者や小売りのニーズに対するものをいろいろ持っており、大きな力があると評価し、その力が発揮されることに期待している。その上で、これからの全農について、「生産者と消費者の架け橋」というが、産地と小売りを単につなぐだけでは、架け橋にはならないことを認識して欲しいという。
 和牛とホルスしかない時代に全農の紹介でその中間に位置する大変良い牛肉が入ってきた。そのときは「いいものがきた」と思ったが、それから数年して和牛の相場が下がり、その牛肉と和牛の価格が並んだ。その時にお客がどちらを選ぶかといえば和牛を選ぶ。また、入社2年目にあるブランド豚が入って、その美味しさに感動した。しかしそれから17年経って一般豚のグレードが上がり、差がかなり小さくなったが、ブランド豚には大きな変化がない。
 いいものを紹介してもらったが、消費者ニーズは時代とともに変化をしており、「1回つないだらいつまでも続けられるという時代は終わった」。また、普段はあまり動かないものでも年末とか生活シーンによって大きく動くものもある。そうした変化を読み取り「消費者のニーズをつかみ、スーパーの実態や思惑を産地にフィードバックし、それを私たちに戻してくれる」それが全農の仕事であり“架け橋”ではないか。そしてそこにリスクがあるならともにリスクを負う。なぜならそれは「取引きではなく取り組みだから」。
 価格を軸にすると味が価格を上回る「ごちそう」、ご飯を食べる道具である「おかず」、そして毎日大量に食べる「主食」に分けて考えることができる。「おかず」は味と価格がイコールでなければならないし、「主食」は価格が勝って(安く)なければいけない。ごちそうは百貨店や専門店で、スーパーに来る人はおかずを求めている。いま消費者が求めているおかずはこういうものだから、こういう取り組みをしていこうと「全農が中心になり小売りと密接にマーケティングなり2年後の動向を真剣に考え、それができる生産者との架け橋をかけることがいま一番必要なことだ」と語る。
 そして全農は組織として大きいし力もあるけれど「最終的には一人ひとりのスキルだと思うので、個人のスキルをアップして、こうした会話がいつでもできるようにして欲しい」とも。
 そして取材の終わりに、フェアのときに休日でも一緒に店を回ってくれたり、随分変わってきていると最近の全農の姿勢を評価することも忘れなかった。


売る側の論理から顧客の立場に立つこと
清水弘文 サミット(株)理事・青果部マネジャー

清水弘文 サミット(株)理事・青果部マネジャー

 清水理事は、全農東京集配センターの開設以来、全農とのつきあいがあり、「着実に店の数を増やし、全農との取り引きも増やしてきた」。センター開設当時と比べれば、施設が一新されたいま「猛暑のときの品質の差は歴然としているし、コールドチェーンが切れず、その効果は絶大だ」と評価する。
 そのうえで、「全農はJAや産地がこういうものをつくったから売ってくれといわれたときに動く。他との比較でいえば、仕掛けが遅く、受身が多いので歯がゆい」という。
 また「全農は産地開発の取り組みが弱い」とも指摘する。サミットでは種苗会社と提携して、新しいものを「使っていない畑で試して欲しいと産地に提案している」。その成功例がミズナだ。サミットの提案を受け入れた茨城のJAでは、ミズナの販売高が50億円に成長したという。「そういう仕掛けがいまの全農にはない」と清水理事はいう。東京センター開設当時は「後発だから市場流通に負けまいと真っ先に葉つき大根や朝採りを開発していたが、いまはそういう意欲を感じない」。それが「歯がゆい」のだと。
 その原因として清水理事は、仲卸などでは担当者が異動したり昇任しても同じ社内にいることもあって、仕事が引き継がれ積み重ねられていくが「全農は人が消えていき、いままでの積み重ねがプツンプツンと切れてやりにくい」という。全農の場合、東京センターから大阪センターへといった異動があり、仕方がない面はあるにしても、考えなければならない課題だ。
 いまは、味・鮮度・規格など市場流通で問題になっていることを改善すれば売れるという。例えば、トマト。真っ青なときに収穫し、市場に着くとピンク色になり、「偽者の色だけど」店に着くと色が回る。「農家にこれを食べますかと聞けば、食べるわけがないという」つまり「自分たちが食べないものを、金を出して買ってくれる人に売っている」。こういうことについて「全農は真剣に動くかといえば動かない」。そこを変えなければ“架け橋”にはなれないということだろう。
 「売る側の論理からどれだけ顧客側の立場に立つかです」。「農協に対する仲間意識があるから、産地に行ってもお願いしますになる」。そうではなく「対等な立場になり、お客の要望だからそれができなければ売らないという。それが結果的には生産者のためになる」とも。
 そして最後に「農業という機能は残るけれどその形は変わるものです。時代とともに変わらないといけない」と語った。


(2005.9.29)



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