農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA全農米穀事業特集

認証産地107に! 信頼高まる
「全農安心システム米」


◆産地と消費者を情報でつなぐ

 「全農安心システム」は産地と取引先の間で農産物をどう生産するか、その基準について事前に協議し、お互いが合意したうえで生産、販売に取り組むシステムだ。また、生産基準どおりに作られたかどうかを確認するため産地では生産履歴記帳とその内容の開示を行うほか、保管、加工、販売などに関わる情報もすべて伝えることも条件としている。さらにこうしたシステムが基準どおりに間違いなく動いているかどうか、また、生産から加工、流通までの情報が消費者に発信できる仕組みを備えているかどうかを第三者が客観的に「検査・認証」する制度を導入しているのも全農安心システムの大きな特徴だ。
 全農安心システムの取り組みは17年8月末で108JA、162産地に拡大している。このうち米では、74JA、107産地、精米工場など加工場は56か所が認証を受けている。
 全農安心システム米全体の販売量は、制度導入初年度の12年産米では750トンだったが15年産では1万3000トンのまで増え、16年産では今年3月末時点で1万5000トンとなっている。取引先も15年産では量販店、生協など合わせて29だったが16年産では52まで拡大している。

JAいわて花巻産あきたこまちを使った「安心システム発芽玄米」   JAみやぎ登米産ひとめぼれを使った「そのまま炊ける玄米」
JAいわて花巻産あきたこまちを使った「安心システム発芽玄米」 JAみやぎ登米産ひとめぼれを使った「そのまま炊ける玄米」

◆販売店バイヤーから高い評価

山本弘幸副部長
山本弘幸副部長

 全農安心システムは有機農産物などの認証、格付けのためのシステムではない。もちろん減農薬減化学肥料を栽培基準とした農産物づくりの取り組みもあるが、基本は慣行栽培であってもその作り方について取引先、消費者と合意するというところにある。
 全農パールライス東日本(株)営業部の山本弘幸副部長も「生産者のみなさんが自分たちはこのように心を込めて作っている、ということをアピールするシステム。私たちの仕事は産地と消費者の間に懸け橋をつくることが大きな柱だが、そのひとつに全農安心システム米がある」と話す。
 今、米の販売にも求められているのが、消費者の安全、安心に対する関心の高まりに応えること。「量販店など販売最前線では最大のテーマであり、それが他社との差別化戦略の要にもなっている」(山本副部長)。
 こうした課題を抱える量販店にとって、全農安心システム米は、バイヤーからも消費者ニーズに応えるシステムとして高く評価されているという。

◆いつでも確認できる生産、加工情報が安心を生み出す

 高い評価を得ている理由のひとつが、全農安心システムにはいつでも生産履歴や加工情報などを確認できる情報公開システムがあることだ。
 JA全農のホームページには全農安心システムのサイトがあり、そこをクリックすれば米の取引先の一覧が登場する。さらに商品写真が表示される画面をクリックすると生産者名、生産履歴、加工、流通までの情報を確認することができる。
 全農安心システム米として販売されているすべての商品には全農安心システムの産地、品種などの表示とともにホームページアドレスも記載されているから、購入した消費者は自宅などからこのサイトに直接アクセスしてさまざまな情報を得ることができるのである。しかも生産履歴などは定期的に更新される。
 今、このサイトへのアクセス件数は毎月平均約3万件にものぼっている。
 「消費者の関心がいかに高いかが分かる。データも更新されるからまさにタイムリーな産地情報の発信となっている。販売店の担当者にとっても安心できるシステムとなっていることが高い評価につながっていると考えています」。

◆店頭でのPRも積極的に

全農安心システムコーナーに設置するフロアマット
全農安心システムコーナーに設置する
フロアマット

 JAグループの米事業では16年産から生産履歴記帳、銘柄の確認された種子の使用などを要件とした「JA米」の生産に全国各地で取り組んでいる。今や生産者にも生産履歴記帳などの取り組みは米の生産でも当たり前という意識が浸透しつつある。そこでJAによってはJA米を基盤としてさらにその他の生産要件などを上乗せするというかたちで全農安心システム米に取り組むところもでてきている。
 ここまで着実に実績を伸ばしてきたのは、特別な栽培法の米ではなくても『作り方が分かる米が食べたい』という消費者のニーズがいかに強かったかを物語っているのではないか。
 「プライベート・ブランド(PB)商品を品揃えしたいという量販店もありますが、その検討のなかで導入当時、一般米でも何か付加価値をという話から、作り方の分かる安心システム米の導入につながっていった例があります。JAと生産者に協力してもらい、生産履歴記帳などの体制をつくってもらった。今ではPB商品のすべてが全農安心システム米という量販もあります」と山本副部長は話す。
 そのほか販売拡大への取り組みとしては、量販店や生協などが産地指定している米を産地と協議して全農安心システム米への切り替えを進めたり、新たな品種導入など品揃えの構成を取引先が見直すなどの際にこのシステムの導入を提案、取引先と産地との協議に結びつけることもあるという。
 また、同社の頒布会でも販売中だ。これは「日本をたべよう お米列島頒布会」で現在会員約1万人。コシヒカリ、はえぬき、あきたこまち、ひとめぼれなどの品種で全農安心システム米の認証を受けた産地の米が毎月届けられる仕組みだ。5kg、10kg、15kgの三種類から選ぶことができる。頒布会では商品に添えて、毎月のお楽しみプレゼントとして全国から厳選した漬け物、味噌などや食情報を掲載した冊子、田植え、稲刈りなどのイベント参加案内も送られる。お米とともにさまざま情報提供をすることで食と農の距離を縮める取り組みとなっている。
 店頭で消費者の認知度を上げることにも積極的に取り組んでおり、全農安心システムコーナーを設置している店には、そのコーナーにフロアマットを床に貼っている。さらに最近では販促資材として電子ポップも準備した。これは小型の液晶テレビで数分間、ビデオが流れるもの。全農安心システムを分かりやすく解説し、消費者に理解してもらうことが狙いだ。

店頭販促資材として準備した「電子ポップ」。全農安心システムをビデオで紹介する。
店頭販促資材として準備した「電子ポップ」。
全農安心システムをビデオで紹介する。

◆発芽玄米にも安心システム

 全農パールライス東日本(株)としても全農安心システムを導入した独自商品開発と販売にも力を入れている。
 代表的なのが『安心システム発芽玄米』。岩手県JAいわて花巻の減農薬栽培のあきたこまちを使い14年度に商品化した。発芽玄米は健康志向の高まりのなかでブームとなっているが、そうした健康志向に応えるためにも原材料に生産履歴などがトレースできる全農安心システム米を使ったことが注目される。
 岩手県内の製造会社も当然、全農安心システムの認証工場となっている。
 また、圧力釜などを使わなくても普通の炊飯器で精米と一緒に炊くことができる『そのまま炊ける玄米』もキッコーマンと共同開発している。玄米は精米にくらべて血糖上昇率が低く、ビタミンが豊富でダイエットに適しているといわれる。ただ、普通の玄米では炊飯しにくいことから食べやすい商品として工夫した。使用している玄米は宮城県JAみやぎ登米のひとめぼれだ。
 そのほか餅製造業者では切り餅に全農安心システム米をつかった商品が開発されたという。これは業界初のこと。昔ながらのきねつき製法でつくられており、使用しているのはJA佐渡生産のもち米「こがねもち」。
 発芽玄米は全農パールライス東日本(株)の米関連商品の今や柱の商品だという。精白米以外の分野でも全農安心システム米が導入され消費者が求める安全、安心に応えている。

◆産地からの情報発信が産地を支える

 全農安心システム米について山本副部長は「自信を持って取り組みの拡大をはかっていきたい」と語る。
 ただ、そのための前提となるのはやはり「米としての商品力」だという。
 「私たちがJAグループを通じて、品質、食味に評価があり生産者の方々も一丸となって生産履歴記帳などに取り組んでいるという産地を知っていれば、取引先との商談のときにもその産地の話をし『全農安心システム米としてより差別化した商品を販売しませんか』と提案できる。ですから、前提は消費者にアピールできる米づくりをしているかどうか。このシステムは確かな商品力を持つ米に的確な情報という付加価値を付けるための手段だと思います」。
 全農安心システム米の取り組みは、生産履歴記帳や品質管理に加えて情報開示も求められている。確かに産地、生産者にとっては認証の更新作業も含めて負担となる面もある。しかし、このシステムの狙いは何らのお墨付きを得るというところにあるわけではない。むしろ産地、生産者から自分たちはこういう米づくりをしているという思いを伝えることにあるのではないか。その意味では、生産者と消費者の思いをすりあわせていくことが必要で、継続的な情報発信が大切になる。全農安心システムはビジネス・モデルだが、産地、生産者と消費者をつなぐコミュニケーション・モデルでもあるといえるだろう。
 「何のために情報発信をするのかを理解すべきではないでしょうか。このシステムを積極的に活用すれば必ず産地の励みにもなると思う。私たちもこのシステムの良さを伝えて取り扱いを拡大していきたい」と山本副部長は語っている。

(2005.10.7)



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