JAいわて中央
(岩手県)
特別栽培で商品力高め
攻めの営業で販路確保
◆予約相対50%へ
北は札幌、南は熊本と全国10都道府県の取引先30数社にJA独自で営業に歩く。職員だけでなく生産部会の役員も同行する。より実態に即した現場からの提案をするためだ。計画を立てて百貨店、スーパー、生協、コンビニなどを回り、生協ではチラシで組合員から注文を取るギフト販売用も予約。こうして出荷の3〜6カ月前に相対で数量と価格を予約している。品目はコメ、リンゴ、野菜、花など。
「JAの価値は売る≠アとが前提。うちは売り切る≠アとを目指している。昔は全農任せでなんとかなったが、今はJA自らが買い手を探し情報を交換しなければ簡単には売れない」と熊谷健一常務は攻めの販売事業を語る。
いくら営業に歩いても普通の品質では売り切れない。そこで安全・安心で消費者との信頼関係を結ぶ特別栽培(減農薬・減化学肥料栽培)に乗り出した。
窒素肥料が半減するため味も良い。平成16年産の特栽米生産は約1000トンで効果的に販売に結びつけた。17年産は管内の7割が特栽となり、18年産は全域で特栽に移行する計画。リンゴとネギも100%の特栽である。
こだわり栽培で商品力を強化したため、17年産うるち米の注文は生産量に対し120%、もともと全国的に有名なもち米は200%と応じ切れない状況。
こうして予約相対の分量が増え、全体の4割以上に達したが、市場取引との割合は半々にとどめるという販売戦略だ。
◆平等から公平に
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米穀倉庫に積まれたコメ袋への
特別栽培米のシール貼り
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代金回収リスクを回避するため、また異常気象などで約束通りの出荷ができなければ違約金問題なども起きるからで、ほぼ5割を市場調整とした。
しかし自ら販路を確保しても伝票だけは全農・市場を通して手数料を払っており、全体の95%を全農経由としている。とはいえ20年には卸売市場法改正で市場が自由化されるため、市場を通さない直接販売も始めた。ある百貨店向けの3割を市場抜きとしたが、全農だけは通す方針だ。
その取引高は7億円だが、将来は20億円ほどを目指す。全体として農産物の販売高120億円を誇る同JAだが、うち予約相対取引分を80億円に伸ばす目標だ。
果樹では篤農家などが努力した個性的な作物と、単収を上げる一般的なものを一緒に選果するという悪平等≠ェ農協離れの一因とされてきた問題に対しても、新しい共選方式を導入した。
リンゴは16年から3ランクに分け▽農水省の基準に合致した特栽品をA共選▽基準に届き損ねたのをB共選▽普通栽培をC共選とし、価格に差をつけて平等から公平へ%]換した。
また、これより早くセロハン包装の花束は平成7年から3ランク別とし、高級品種の組み合わせ方で価格差をつけた。これによって高級品種作りへのモチベーションを高めてきた。
◆手数料にも格差
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品揃えが豊富な直売所
「サンフレッシュ都南」
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さらに昨年からは安全・安心や差異化とプール計算は相反するという考え方を農家に説明。A共選は高く売れるように営業努力をするから販売手数料も高くなるといった提案をしている。
今は各ランクとも同じ手数料率だが、これを価格差に応じた手数料に改めるべき時期にきていると熊谷常務はいう。
コメの手数料は15年産から特栽米の営業活動用に1%引き上げて3.5%とした。また手数料以外に15年からはコメとリンゴについて1箱と1袋当たりを単価とした販売対策費を生産者からもらっている。これも営業活動用だ。野菜は2%で据え置いたままとなっている。
コメは取引先から特栽米の加算金をもらっている。販売事業の収支は共管配布前2億円黒字。JA岩手県中央会の小笠原一行会長は、JA飯岡(11年に合併してJAいわて中央)の組合長時代から施設別・部門別の独立採算を説き続けている。その益を消費者と農家に配分したいという考えである。
飯岡時代に、その薫陶を受けた熊谷常務も独立採算を追求し続けているが、販売事業の収支改善には市場抜きの直接取引や取引先の絞り込みなど課題は多い。また、1社当たりの販売高を増やして取引先を整理すれば営業に歩くコストも少なくて済む。
◆集落営農で園芸
JAいわて中央といえば、地域水田農業ビジョンづくりで有名だが、集落組織で決めた園芸品目の3割は販売先を確保してから1〜2ヘクタール単位でまとめて作る。そうすればコストが下がるから買い手も探しやすい。6組織が試運転に入り、リレー出荷するが、結果が良ければ来年は品目ごとに作付面積を広げる。
肥料・農薬も集落で4、5人がまとまって注文、配達先が1カ所なら平均6%の奨励金を出すなどの制度にしている。
JAの直売所は10年前が1店舗。合併後2店舗が増え、計3店舗の売上げは18億円となった。出荷登録者も増え、今は500人。
なお同JAの正組合員戸数は7000戸。准組合員は3000戸。うち専業農家は600戸ほど。
JAあいち中央
(愛知県)
大規模土地利用型農業を推進
直販事業で販売力強化はかる
◆物流改革、部会共同購入で生産資材コストを低減
JAあいち中央は、平成8年に安城・碧南・刈谷・知立・高浜の碧海5市のJAが合併して誕生。当時75あった支店を平成19年までに30拠点にするとともに、各支店で対応していた営農・経済事業を10の営農センターに10〜11年に集約した。しかし、営農指導や営農渉外で農家を訪問することがなかなかできなかった。その最大の理由は、生産資材の配達にほとんどの時間をとられていることにあった。そこで、14年に配送業務を外部委託する物流改革を実施した。さらに「生産資材は大量仕入・大量販売しなければコストは下がらない」ことから、全品目にある生産部会でまとめて購入する「共同購入方式」を実施し、大型トラックでセンターに配送してもらい、生産者が引き取りに来る方式に改めた。この方式で引き取る生産者には、配達する当用買いより2割安く供給している。現在、配送するのは全体の2割程度で、後の8割は引き取りだという。さらに品目によって違いはあるが、決済時期を収穫時にしたりなど長期とするなど、JAらしいサービスもしている。
さらに、集出荷施設やカントリーエレベーターについても外部委託することを検討しているが、それは「農協職員がやらなければならない業務と、外部委託できる業務を明確にすること」。当初は外部委託しても「費用は変わらないが、段階的に改善することでコスト低減が可能になるからです」と加藤新一営農部長。
やりがい農業と快汗たのしみ生きがい農業
農家組合員に対する営農支援は営農センターを核として進められているが、農家の二極化が進む中で農家全体を一元的にとらえたのでは中途半端になるので、自立経営農家を中心とした「やりがい農業」と兼業農家や女性・高齢者による「快汗たのしみ生きがい農業」に分けてそれぞれに対応している。
「生きがい農業」では、ファーマーズマーケット(産直)を9カ所設置し、そこに出荷することで地域社会との接点として地元の農産物を地域に提供している。産直では年間20億円ほどの売り上げがあるという。
◆何階建ての農業経営をするのか
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スーパーで消費者に直接アピール |
「やりがい農業」では、自立経営農家をリーダーとした大規模土地利用型農業を展開し、企業的経営者を育成していくことが目標として掲げられている。つまり、「農地の所有と利用を分離して考え、狭い農地を広く利用したり、地域という一つのまとまりを単位に、所有する機能を発揮して、農地・労働力・技能といった資源の効率的な活用」(第一次営農振興計画)を図っていこうということだ。安城市では農地の合理化事業としてJAが農地を預かって、こうした農地利用を実現しており、20〜30ha規模の法人や協業がほとんどだという。高浜市も同様の施策が行政によって進められている。
加藤部長は水田農業の場合、米価の低迷を補うためには「すぐには規模拡大できないから、米の後にカリフラワーやキャベツを生産するとか、ハウスで菊や野菜をつくるなど、稲・麦・大豆をベースに何階建てをつくるか。それが農業の方向性」だと語る。そして「親父が儲けている農家は後継者がいる」とも。つまり売れる農産物をつくっているかどうかが問題で、名古屋という大消費地に近いところなのだから、中国や他産地と同じものではなく、希少価値や付加価値のあるものを作れる技術や高い感性をもつ生産者を育成していくことが大事だという。
◆リスクを負っても消費者と直接向き合うこと
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CE、倉庫、育苗などの施設を
集めた総合センター |
そうした生産者を核に直販事業にも取り組んでいる。管内の米は卸や小売りの評価は高くないが、実際に炊いて消費者に食べてもらうと「旨い」といわれる。消費者は本当の味を知らないのだから、生産者は直接消費者と向き合い自分の作っている農産物の良さをアピールしなければいけない。それをするのが「農協の仕事であり、販売力の強化につながる」と加藤部長。
JAが直販事業をすれば当然リスクを負わなければならない。だが「いまは農協もリスクを負う時代」だという。リスクを負って得た消費者からの情報などをベースに、市場とも交渉する力をつけ「必要なときには、断ることができる」ことも大事だと考えている。
経済事業改革には、その成果を農家組合員に還元するという目的とJAの収支を改善するという目的がある。これはある意味で矛盾することだ。JAあいち中央では現在約3億円の経済事業の赤字を「中期計画で1億5000万円の赤字にする」と計画している。この赤字は管内農業を継続するために必要な営農指導のコストとして位置づけられたことになる。