◆麦作戸数は2400戸
JA佐城は、平成13年に佐賀県の中南部の1市8町の7JAが合併して発足した。北部は標高1000メートルの天山の麓のみかん産地、南部は平坦な有明干拓地の米麦中心地帯までがJA管内となっている。農地面積は9130ヘクタールで組合員戸数は9200戸ある。
麦は17年産で作付け面積6400ヘクタール、2400戸で生産した。大麦50%、小麦50%の作付け割合だ。麦の販売額は平年で約25億円となっている。
地域では昭和50年代の麦作機械やほ場整備の推進で麦の増産が進んだが、近年では水田の団地化、品質向上などの取り組みに対する助成などによって麦作への取り組みがさらに盛んになってきた。
なかでも平成12年からの、生産と需要のミスマッチを解消するための民間流通への移行、麦の本作化をめざすなかで麦種の転換なども進んできている。
代表的なのが小麦のチクゴイズミで製粉会社からの要望で作付けが進んだ。それまでは地域全体でシロガネ小麦が中心だったが、この要望をきっかけに小麦の作付けがなく大麦だけだった地域にチクゴイズミの作付けをJAが推進。農家の理解を得て需要にあった麦の生産を進めてきている。
ただ、課題はビール麦の生産。これはどの地域でも同じだがビール麦として販売できる検査規格が厳しいため、天候に恵まれないと評価が上がらない。
「ビール麦として販売できるかどうかはとくに収穫期の天候によほど恵まれないと。検査で半分しか評価されないか、あるいは年によってはまったくだめだったということもある。これは毎年の大きな課題」と同JA営農販売部営農企画室の矢ケ部勝美室長は語る。
◆播種前契約で生産の体系化をはかる
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麦の播種に向けて田の荒起しが始まっていた |
ビール用以外では焼酎原料などの大粒大麦として利用されるが、残念ながら販売価格は下がる。生産者にとては痛手だ。こうした不安定な面も麦作にはあるため作付け面積を地域全体で大麦、小麦の半分づつになるよう営農指導してきた。
ただ、播種前契約については矢ケ部室長は「JAとして販売計画にもとづいた計画的な生産、営農指導が可能になった」とそのメリットを語る。
播種前契約によってJAがどの生産者がどの品種をどれだけ作付けするのかが把握できる。また、麦種による播種時期についても集落、生産者ごとに指導できるし、収穫期も想定できる。
さらに面積と反収から収穫量を考慮した共乾施設の荷受け体制の準備をあらかじめ組んでおくことも可能になったという。
JA管内には13のカントリー・エレベーターと2つのライスセンターがある。共乾施設の受け入れ能力は平均して面積で400ヘクタール分。管内で生産される麦の受け入れには十分な能力を備えており、計画的な収穫、集荷ができる。
「収穫は大麦の次が小麦となる。共乾施設ではそれを見込んで具体的に大麦の集荷、そして施設の清掃、小麦の集荷、とスケジュールを組むことが可能。営農指導担当と共乾施設関係担当者が協議して、その年の天候などによって収穫期を想定しながらスケジュールを考えている。共乾施設単位で一定のレールを敷いた栽培、防除、収穫、集荷を考えられるようになった」という。
この制度ではもちろん播種前契約どおりの生産量が実需者から求められることは言うまでもない。
「生産者のみなさんには、しっかり作れば売れるのだから生産量の達成を、と強調しています。売れる見通しがあるのだからがんばって作ってくださいというのがJAの指導の基本になりました」と話す。
◆DON対策など安全確保も課題
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JA佐城の米麦共同乾燥施設 |
こうした売れる麦づくりのために生産者に求められている課題のひとつに赤かび病のDON(デオキシニバレノール)対策がある。
現在、DONの暫定基準値は1.1ppmと定めれており基準値を超えると食用として流通できないため適切な防除が必要だ。
JAが農家に配布する麦づくり暦でも重点目標として赤かび病防除が強調されている。具体的には4月の出穂期、開花期に防除を行うことが重要だ。JAでもサンプリング調査を実施しておりこれまでのところ基準値を超える例はないが、農薬取締役法の改正などで農薬使用期限の変更などもあったため今後も適切な薬剤による適期防除に向けて生産者への周知が課題となっている。
また、米や野菜などと同様に栽培履歴記帳にも取り組んでいる。JAが配布する栽培暦にほ場管理記録が記入できる欄を設けており、生産者は収穫前に切り取ってJAに提出する。JAはその記録を確認してから集荷する。これまでに例はないが、かりに栽培記録に不備があれば共乾施設では区分して集荷する体制をとっている。
◆集落営農を基本に生産力を維持
小麦ではパン用小麦のニシノカオリの作付けにも一部で取り組んでいる。これも国産麦の消費拡大をめざした取り組みで国が開発した品種。県内のメーカーがパン用に使用して販売し、麦の地産地消を促進している。
JA管内には生産組合が427あるがすべての生産組合に対して品目横断対策への転換に伴う担い手育成に向けた取り組みが重要になってきることをこれまでも座談会などで説明してきた。基本は全集落での集落営農集団づくりである。
ただ、4ヘクタール以上の経営は9000戸のうち300戸にすぎず小規模農家から大規模農家まで多様な農家による体制で地域農業を維持していくことが基本と考えている。これまでに2000戸で耕作をしない農家が出てきたがいずれも利用権設定に取り組み大規模農家などが耕地面積を広げており耕作放棄が進む状況にはない。現在の多様な生産者によって耕地利用率は175%と高い水準を誇っている。農業機械、防除用無人ヘリコプターなどの設備の共同利用も集落で進んでおり生産性向上、コスト低下に取り組んできた。自給率向上のためにも麦の生産を増大させることが求められているなか地域実態にあった体制の支援も必要だ。
「集落の今の力で麦生産を維持していくことがまず課題。安全、安心対策の負担問題、原産地表示問題など生産者を支援する政策課題はまだあるのではないか」と矢ケ部室長は話している。 |