◆JAの存在意義がかかる
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JA全中山田専務 |
JAグループは、16年の米政策改革のスタートから「地域水田農業ビジョン」の実践強化運動に取り組むとともに、「担い手づくり戦略」の全JAでの策定を提起、16年末からは行政、関係機関と連携した「担い手育成確保運動」を展開してきた。
ただ、担い手づくり戦略の策定状況は、「戦略を策定して理事会で確認したJA」6.5%、「今年度中に理事会で確認予定」9.5%で、一方、「戦略策定は未定」が32.8%となっている。
新たな経営安定対策(経営所得安定対策等大綱)の決定で担い手要件が具体化したことからこの冬の間に集落座談会を開き、担い手づくりと、18年産の計画的な米づくり、麦、大豆などの作付け計画、その他の作物づくりのビジョンを描くことが求められている。
大会でJA全中の山田専務は「地域の実態に即して作り上げた担い手を対象にすることを政策提案し一定の弾力化は実現できた。地域に根ざすJAにとって担い手ができなければJAの存在意義が問われる。水田農業の将来も描けない。徹底した取り組みを」と現場からの参加者に訴えた。
◆米依存からの脱却が課題
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田沢繁
JA鶴岡営農部長 |
事例発表でJA鶴岡(山形)の田沢繁営農部長は、「米依存からいかに脱却するかに向けたビジョンづくり」を進めていることを報告した。
同JAの農産物販売額のうち60%が米。気象条件から麦の作付けは難しい地域でだだちゃ豆1000ヘクタール構想を進めてきた。17年産の作付け面積は643ヘクタールまで伸びた。ただ、全国的に生産量が増え価格は4割下落。そのなかでも量販店からはただちゃ豆のPB化の依頼もあるようになり、それに対応する生産者の組織づくりも課題としている。
米ではライスセンター(RC)、カントリーエレベーター(CE)ごとに組織している生産者利用組合が売り先をふまえた品種選びと計画的な作付けをし、品質も均一化してきたことが評価され、量販店のおにぎり用、弁当製造業者向けなど業務用として販売ルートが確立。16年産では8割が産地指定を受けて販売できるようになったという。
今後の販売戦略では、だたちゃ豆、米、メロンなど園芸作物を含め「JA鶴岡産をまるごと売り出す」ことも課題だという。
一方、担い手の状況は、4ヘクタール以上の農家で管内面積の50%をカバー。RC、CEを中心とした組織、集落経営体を育成して全面積が施策の対象になることをめざす。
新たな政策について田沢部長は「あくまでもわれわれがどう活用するか」の視点が必要で、JAの課題としては△販売に責任を持つJA、△人材、資金、経済事業などJA総ぐるみでの法人化支援、△担い手以外の組合員に対する生活事業などによる地域の拠点としての役割発揮、などを挙げた。
◆安定した大豆生産へ
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金澤幸彦
JAえちご上越常務 |
JAえちご上越(新潟)の金澤幸彦常務は安定的な大豆生産を目標に掲げた取り組みについて話した。
大豆の本作化には平成12年から取り組み、現在は作付け面積1600ヘクタール、収量250kg(10アール)を目標にしている。
金澤常務は売れる大豆産地の要件として△大ロット、△均質化、△検査基準の統一化、△保管体制を挙げ「安定供給ができなければ取引先が信頼しない」と述べた。
そのための生産体制づくりで取り組んだのが施設、機械などをJAが整備して生産者の負担を軽減していること。作業受託組織も立ち上がったが、播種機、培土、防除用の管理機、専用コンバインなどをJAがリースしている。また、無人ヘリによる防除を委託している。乾燥、調整施設は4か所に建設した。保管には2400トン能力の専用低温ラック倉庫を建設している。
こうした取り組みによって15年産では1500ヘクタールまで増えたが、16年産からは1100ヘクタール台に縮小した。収量、品質に課題もあるという。金澤常務は大豆生産への今後の支援が不透明で生産者に迷いがあることを指摘、「一歩踏み出したいが踏み出せない生産者の背中をJAが押すことが大事」だという。
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中村寿彦JAきくち参事 |
また、JAきくち(熊本)の中村寿彦参事は「JA・地域間連携による耕畜連携」について報告した。
同JAは県内でも有数の畜産地帯で、家畜排せつ物が100%たい肥化された場合、需給バランスは275%と過剰になると試算されているという。一方、阿蘇地域は49%と低いが、水稲が5700ヘクタール作付けされており、2万8000トンの稲わらが産出されている。
こうしたことからJAきくちとJA阿蘇が16年に耕畜連携事業を提携した。JAきくちがJA阿蘇の稲作農家にたい肥を供給し、一方で稲わらの供給を受ける。地域連携による資源循環型農業による農産物づくりに双方で取り組んでいる。取り組みを推進するため、今後はたい肥の散布組織、稲わらの収集組織づくりが課題だと話した。 ◆効率的な農地活用を集落から考える
パネルディスカッションでは、担い手づくりとJAの課題が話し合われた。
田沢氏は「まず農家に共通認識を持ってもらうよう今回の政策転換を丁寧に説明すべき」だという。ただ、それも政策に即した地域農業づくりをめざすのではなく「政策に乗ったふりをして別の方向をめざしたい」と話した。
そのためには集落で「最大の収益を上げるための農地の効率的な活用法を考えてもらう」ことが出発点ではないかと指摘した。すでに管内の生産者では4ヘクタールの農地でも米は1ヘクタールのみで残りをだだちゃ豆づくりに利用して収益を上げている例もあるという。
金澤氏も「米ほどあぶないものはないことを考えてもらわなければならない。リスクの分散のために大豆、園芸が重要になる。その大豆も交付金目あてではなくお金が取れるものをつくる、という意識改革が大切になる」と話したほか、中村氏は「新たな政策についてもっとも理解しなければならないのは生産者、という視点が必要」と話した。
コーディネーターの今村奈良臣東大名誉教授は、JAの役職員に対して、担い手育成と売れる農産物づくりは「日本全体、世界の動向まで視野に入れて考えるべき。たとえば、20年先には日本は人口減少で米の生産量は大きく減らさざるを得ない。何をどう作り、どう売るかをトータルに考えることができるのはJAしかない。先を見据えて自分たちの地域から農業の担い手をつくっていくという意気込みを」と呼びかけた。
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