今年、私どもが直面することになるであろう重要問題にまずふれておきたい。憲法第9条改正問題である。
昨年11月23日、自民党は、“陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない”と規定している現行第9条第2項を廃止、それに替えて“内閣総理大臣を最高指揮者とする自衛軍を保持する”ことを規定する第9条の2を新たに起こすという憲法改正案を党是として決定した。
憲法改正には“各議院の総議員の3分の2以上の賛成”による国会の“発議!”、“国民投票…においてその過半の賛成”を得ることが必要だが、小泉チルドレンを多数抱える今の国会なら“発議”は容易だろうし、新聞報道などが50%を超す内閣支持率を伝える今の政治状況なら、“国民投票”も乗り切れると踏んだのであろう。小泉構造改革の謳い文句は“小さな政府”だが、“小さな政府”を呼号しながら“大きな軍隊”を持とうというのである。これを見過ごしていいものだろうか。
表を示しておこう。専守防衛をいい、海外には出さないことをたてまえとしてきた今の自衛隊でも、防衛関係費は四半世紀の間に倍増し、その反面で農林水産業費は20%減になった。
自衛隊が自衛軍になり、“国際的に協調して行われる活動”(改正案第九条の2第2項)を行うことになったら、どういうことになるか、説明は不用だろう。自民党支持の農家の方々にも、この点はよくよくお考えいただきたいと思うのである。
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経営所得安定対策の対象経営の選定作業が進められつつある。経営所得安定対策の施策対象を、特定少数のいわゆる“担い手”に限定することは、構造改革の加速化とは逆の減速化になり、食料自給率向上ではなく自給力弱化になることを、これまでも本紙で私は何回か指摘してきたので、この点は繰り返さない。問題は認定下限規模に若干の弾力的措置がとられ、一定要件を備えた集落営農組織が対象となるようになったとはいえ、それでどれだけの農業経営が政策保護の対象となり、どれだけの農地面積がカバーされることになるかだが、経営体数は集落営農参加農家の数え方の問題があってはっきりしないが、農地面積のカバー率としては当面50%が目標とされている。
新「基本計画」は、前「基本計画」が目標にしていた470万ヘクタールの農地確保は不可能になったとして、450万ヘクタールを確保目標面積にしたばかりだが、50%の農地しかカバーできず、残り50%の農地を耕作する農業者は、輸入農産物と裸で競争しろということでは、450万ヘクタールの保持も不可能になるのではないか。450万ヘクタールは、不測の事態になったとしても国内農業で“国民が最低限度必要とする食料の供給を確保”するため(基本法第12条)のギリギリの面積であり、私たちの生存権がかかっている数字といっていいのだが、その確保を危うくするような施策でいいのかを、“担い手”選定作業が進められるなかで、今年はじっくり考える必要があろう。
関連して、今年、展開する施策を吟味するとき念頭におく必要がある問題として、昨年の経営基盤強化法改正が持ち込んだ特定法人への農地貸し付けと設定が容易になった特定利用権問題がある。経営所得安定対策の対象にはならない50%の農地を耕作している農業者から、仮に耕作放棄地や“遊休農地になるおそれのある農地”が出たとしたら、それに特定利用権を発動、特定法人に利用させることができるようにしたのが05年強化法改正といっていいが、その活用を行政は意図しているのだろうか。意図しているとすれば、それはまさに行政による分解強化策である。
特定法人を導入しての分解強化策が行われるようになったら、日経調木委員会提言(05・6・29)が“途上国からの農業労働力が利用可能になれば、日本農業の生産構造も変わってくる”といっていたことが現実味を帯びてくることになろう。木委員会提言が出たときの私の本紙の論評(05・6・30)での結びを再録しておきたい。
“超低賃金外国人農業労働者雇用での営農なら、まさしく今の低迷している農産物価格のもとでも、株式会社は利潤をあげることができよう。農業参入の自由化をしつこくいってきた財界の本音はここにあったのだろうか。それで日本の農業構造を考えようというのだとしたら、日本人による日本農業はいらないということである。とんでもない話である”。
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