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シリーズ 歴史を振り返り農協のあり方を考える |
経済性は大事だが初心忘れず協同を JA全中元会長 堀内巳次氏に聞く |
米政策改革や卸売市場法改正などの規制緩和に加え、新基本計画が重点的な農業の担い手育成を打ち出してJAグループは大きな変化を迫られている。日本農業の現状から、JAグループは生産者と消費者の架け橋の役割を果たしていかなければならない。しかしJAグループは外部、そして組合員からも厳しい評価を受け、JA役職員の自信は揺らいでいる。そこで本紙は、農協を創り、その運動を推進した先達に、これからの農協のあり方を提言いただくシリーズを企画。農協運動の復権をねらった。第一弾は堀内・JA全中元会長に登場願った。同氏は農協を創った時の初心を忘れるなと強調した。 |
◆教育が協同の心養う
梶井 堀内さんは協同組合運動について「何となく不安になっている、これでいいのかと思うことがある」と、平成6年の国際協同組合デー記念式典あいさつの中で述べておられる。また、そういう不安に対処するには「初心に帰って協同組合運動とは何かと振り返り…行動を正すことが大事」と指摘されている。堀内さんの語録などをまとめた本にそう書いてあります。 堀内 農協運動の初心みたいなものが薄れてきていました。協同組合をつくり始めたころは、みんな手をつないで運動をやろうじゃないかという熱い思いがあった、それが薄れてきたため農協はこれでいいのか、と心配になったわけですよ。今は当時以上に、もっと心配しています。 梶井 それは効率性を求め過ぎるとか経営主義に走っているとか、そういう問題ですか。 堀内 いえ、経済事業はやはり経営とか経済性を抜きにして存立は難しいわけだから、そこは大事にしていく必要があります。しかし同時に農協草創期の原点を忘れてはいけないということです。経済性にとりつかれて初心を忘れてはいけません。 梶井 堀内さんは協同する心が一番大事なんだと強調しておられます。それを養うのは組合員教育だと思いますが、その点についてはどうでしょうか。 堀内 そこですよ。が、みんなが協同の心で力を合わせていくという農協組織の体制はまだ全国的にはできておりません。やはり問題です。 梶井 合併して単協の経営力、経済力が強くなれば当然、事業、そして組織も2段階になっていく、そんな考え方の組織整備を進める決議をしたんですね。 堀内 2段階制にして、組合員の要望に応えられる資材価格の実現などに努めようとする決議でした。だけど、それもまだ実現していません。 梶井 全農の場合、経済連を県本部にして組織を2段にしましたが、事業は依然としてそうなっていない。そのマイナス面が、いま、いろいろなかたちで出てきてるんだと思います。 堀内 単協としても事業2段の機能を立派に果たせるようにならなきゃいけないが、逆に合併で大きくなり、かえってだめになってしまうJAも多い。
◆人が集まる農協に 梶井 堀内さんは南穂高農協の専務時代から「農協とは人が大勢集まるところでなければいけない」が持論だと本に出ています。確かに組合員が自分たちの問題を直接議論できるのが農協の良さだった。ところが合併によって支所が統廃合されるなど人が集まりにくくなっています。 堀内 地域住民のニーズに応える点では、むしろ一般企業の業務拡大に向けた活動が立派です。農協はそれに負けないように運営しないと大変です。大規模化と同時に組織の末端機能をうんと強化する必要があります。 梶井 一般企業に比べても組合員と接する末端の機能に欠けている面がかなりあるということですね。 堀内 それは10年前から余り変わっていないと思います。 梶井 国際協同組合連盟(ICA)の組合7原則の5番目は組合員教育でしたね。日本の農協法も、もともとは「組合の事業についての組合員への教育」を行うという条項だったのが、昭和29年の改正で「技術及び経営の向上を図るための教育」に変わり、平成3年の改正でついに「教育」の文言をなくし、「指導」に変えてしまいました。問題だと思います。協同についての組合員への教育を抜きにしては、一般企業の顧客サービスと変わらなくなってしまいます。 堀内 農協運動の再建にとって教育は喫緊の課題です。 梶井 本当に、職員に運動者がいましたね。 ◆全中役員の協調は? 堀内 今は営農指導担当なんかでも協同組合運動のオルグ者としての意識が弱いのではないかと思います。 梶井 また堀内語録を引用しますと、平成元年の全中常勤役員・部長研修会で「全中の職員は一人ひとりは人格的にも能力的にも立派であっても、全体として皆が一致協力して事に当たる協調の精神がいささか欠如していないか」と講話の中で反省を求めています。これを読んで私は感銘を受けました。歴代の全中会長の中でこんな講話をしたのは非常に珍しいんじゃないですか。 堀内 常勤役員は全中のプロパーと他の全国連から来た人たちですが、それぞれ個性が強くて、協調して事に当たるという面がちょっと弱かった。それはコンダクターとしての私にも責任があったのです。 梶井 全中はじめ、全国連は優秀な職員を集めていますが、個々の農協組合員と接する機会が少ないという点が、農協マンとしては気になる点ですね。 堀内 全中も簡単に受け入れたけど、やはり全中役員が総辞職するくらいの抗議をすべきだったと思います。開放阻止に向けた農民の結束は固かったのですから。当時の政府の対応は下手で世論対策もまずかった。それに比べて今はよくやっているといえるのではないでしょうか。 梶井 UR対策で堀内さんは各国の農業団体の代表らとの意思疎通にずいぶん努力されました。その成果は今も生きているのではありませんか。 堀内 確かに、いろんな意味で効果はあったと思います 梶井 私は当時の全中のワシントン事務所が果たした役割は非常に大きかったと思います。情報収集が外務省より早くて、その分析による見通しなども同省よりはるかに的確でした。 堀内 米管理などは農協が積極的に取り組めばやれます。それをね、農水省は農協が何もできないような規則をつくって、また農協の実務面について指導も監査もやらずに、なにか問題が起こった時には責任をすべて農協と全農におっかぶせています。 ◆地域協同組合へ 梶井 食管法から食糧法に移った時、ある意味でかなり農協に責任を負わせたけど、農協がきちんと管理していけるような法律ではなかった。農協は実際の権能を持たないで、責任は負わされる形になってるんですね。 堀内 農協も地域組合の方向へ変貌していかざるを得ないと考えています。しかし私が評価した当時も、全中内部の議論は余りありませんでしたね。 梶井 JAの事業は経済・信用・共済など、いずれも地域住民との関わりを強めています。経営体としての確立を図るためには地域組合化の問題提起をしたほうがよいと思います。JAは法的には農業者組合員の職能組合とされていますから、そこを規制改革会議あたりから「准組合員が多過ぎる」などとつかれていますが、かつての産業組合は地域組合だったことでもあり、どう割り切っていくかの議論が今後必要だと思います。 堀内 そうです。考え方が合っていました。中金の理事長は農林事務次官OBで代々、人柄のよい人が来ています。 梶井 しかし系統から選任するとなるとなれば、みなさんも変わってくるんじゃないですかね。
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(2006.1.11) |
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