JA女性組織の活性化を検討してきたJA女性組織基盤強化方策検討委員会は昨年9月22日に報告書「共生の世紀のJA女性組織活動ビジョン」をまとめた。この報告書では食と農を結ぶ担い手としての役割は、生産者でもあり消費者でもあるJA女性組織こそが担うべきだと提言。食農教育の実践など食と農の再生を機軸に結集した運動の展開などを求めている。第51回JA全国女性大会の開催を機に大蔵浜恵会長にJA女性組織の課題、JAへの期待などを聞いた。
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プロフィール
おおくら・はまえ 昭和14年生まれ。平成2年大中の湖農協婦人部長、同年JAしが女性協議会理事、10年JAグリーン近江女性部長、11年JAしが女性協議会会長、14年JAグリーン近江女性部参与、15年JA全国女性組織協議会副会長、15年日本農業新聞取締役、16年JAグリーン近江経営管理委員、17年JA全国女性組織協議会会長。 |
◆若い世代への食と農の大切さを伝える組織に
――「JA女性組織活性化ビジョン」は「食と農の再生」を機軸にして結集し、活動していくことをまとめましたが、現在の食と農についてどうお考えですか。
「今のおかあさんたち、つまり、私たちの世代が育てた親ということになりますが、たとえば、もったないという言葉が分からない人が増えているんじゃないかと思います。私たちはごはん粒一つこぼしても、お百姓さんが一年かけて穫ったものじゃないか、もったない、と言われて育った。当たり前のことでした。ところが、今はケニアの環境副大臣、マータイさんが世界に発信してそれでもったないを知るような時代になっているんじゃないでしょうか。
『いただきます』も命をいただきますということだと当たり前に思っていたのに、給食費を払っているんだから言う必要はないとか、あるいは栄養素が不足しているならサプリメントを摂ればいいとか、私も責任を感じてしまいますが、こういう親がいるという現実があり、それは国民的に危機的なことです。
農業も危機的な状況ですが食の部分から変えていくことが女性組織の最大の仕事だと思っています。
JA女性協もJAグループも食育ではなく『食農教育』に力を入れるといってますが、それは食と農に関する体験が大事だからです。おでんになったものをコンビニで買ってきて食べるのではなく、大根一本からいろいろな料理ができるという体験で学ぶ。これが非常に大事だと思っています。」
◆女性組織こそ果たせる国民合意づくり
――消費者への働きかけが大切ですね。
「農水省の食糧部会にも委員として出席しています。私たちは米の先物取引には反対です。リスク・ヘッジなどとスマートな言葉で説明していますが、米が投機の対象になると現場は大変混乱します。米はあくまでも日本の主食ですから。ところが、消費者団体の委員の方は、米が先物取引の対象になるということについて、それがどういうことなのか分からないと率直に私におっしゃってました。賛成とか反対とかではなく、分からないというのは正直な気持ちだと思うし、こういうときにこそ食農教育もふまえて私たち女性組織が消費者団体と農業団体を結びつけていく。それができるのは女性の視点、女性組織だからだと思います。
JAグループ全体としても国民、消費者に向けた運動が必要ですが、それは最終的には食という共通の問題になるからですね。国民的合意が得られるような運動のためには女性組織、青年組織が現場で核になって取り組むことがこれからは大事だし、女性部、青年部の現場の声が反映されるJAグループであるべきだと思います。」
――そのためにも「JA女性組織活性化ビジョン」の実践が求められます。
「女性組織の活性化のために多くのJAで委員会などをつくって検討してきていますが、なかなか部員の減少に歯止めがかからず再び委員会を設置するということを繰り返してきました。そうなるのは提言が関係機関に気配りして玉虫色で現状維持型の内容だったからではないかと考えています。
しかし、今回まとめていただいた「JA女性組織活動ビジョン」はフレッシュミズの育成に力を入れることなど具体的で、先見性、構想力、創造力に富んだ委員によって策定されました。
これをもとにJA女性組織が各組織の実態をふまえてそれぞれのビジョンをJAと合意してつくり実践することが大事だと思っています。」
◆フレッシュミズの育成が急務
――フレッシュミズ育成の課題はどこにありますか。
「高齢化のなかで女性部を支えてくれているのがエルダー層であるのは現実ですが、若い人も育てていかなくてはなりません。若い女性たちは、決断も早く実行力もあります。今のJAにはないハッとさせられる発想もあり私たちの世代もJAも学ぶべきだと思います。他業種から農家に嫁いできた女性も多くユニークな人も多い。フレッシュミズと私たちの世代の知恵を結集できればいいと思います。
滋賀県の場合、調べてみるとフレッシュミズに該当する女性部員は2000人もいるんです。しかし、女性部員として登録してはいるものの活動はしていないということです。まずフレッシュミズとして集まり、活動に取り組めば、次のステップにも進めますから、JAの事務局にも工夫が必要だと思いますね。」
◆消費者との連携、共生でJA運動をもり立てる
――各女性組織、JAに期待することは?
「JAは人の組織、人が大事です。世の中、IT化を進めれば人はいらないなどという風潮ですが、私たちの現場を支える職員はやはりきちんといてもらいたいし、女性や高齢者がJAのほうを向いていけるJAでなければならないと思いますね。
その意味でも食農教育はいい課題です。私たち女性農業者にはやることがいくらでもある。B級品を加工して直売所で販売したり、消費者を招いて交流会や料理講習会など女性だからできるアイデアはいっぱいです。むしろ女性部が提案してJAの事業として発展させるぐらいの気持ちをも持たなければいけない。
女性組織のあり方も、これまでやりたいことをやりたい人が集まって、ということから始まっていましたが、それはそれで大事でも中身が仲間内の文化活動どまりになっていることも多い。今後は非農家の女性も、おもしろそうな活動をしているなと思うようなことも大事でしょう。農業をやっている人だけではなく農業に関心のある人もJAに取り込んで、消費者と共生していく。それが地域の農業の持続につながることですから、女性ががんばらなければならないと思いますね。」
――地域づくりの役割も期待されますね。
「すばらしい例だなと思ったのは福井県の小浜町の官民一体となった地域づくりです。ひとつの例ですが、ネギ部会の部会長さんは、地域を存続させるための活動だという理念でやっているとおっしゃってました。そして食農教育にも取り組んで、子どもたちはネギを買うなら地元産のネギを買ってと親に言うようになったそうです。
小浜町にはきれいな棚田があります。美しい風景を残していて頭が下がる思いでした。畦には秋、彼岸花が咲くということですが、農薬で除草していればそもそも生えません。手で草を刈っているからですね。それでこれは私も勉強して知ったことですが、彼岸花の根にはモグラが嫌う毒があるから畦を通らず、畦が維持される。消費者がその時期に訪れたら、きれいだね、と言うと思いますが、それで終わらせずに、彼岸花がなぜ咲いているのか、彼岸花が咲くから棚田の畦が維持される、といったことを伝えることが大事じゃないかと話し合ってきました。
女性は、なぜだろう、どうしてだろうと地域の小さなことも考える。地域に密着した活動をしているからのことです。ですから地域で活躍している女性たちをJAはもっと役員にすべきだと思います。地域に密着した活動をしている女性だからこそ、地域に必要な事業を考えることができるからです。一方で女性たちもしっかり目的を持って活動を考えることが大事です。
昨年末にはWTO香港閣僚会議に合わせJAグループ代表団の一員として外国の農業団体との意見交換も経験しましたが、やはり自国の食料は自国でしっかり作らないといけないと感じました。私たちの組織は92万人の仲間がいます。その仲間が動けば、自給率向上はできると思います。多くの仲間がいるということを忘れずに活動してほしいですね」