農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 生産者と消費者の架け橋を築く女性たちの役割

 ルポ・JAファーマーズマーケット(1)

もっと活かそう食と農「提案」の場

JAすかがわ岩瀬(福島県)
はたけんぼ


 JAのファーマーズマーケットの多くは、生産者と消費者の交流の拠点となっている。こうしたファーマーズマーケットでは、JAはだの「じばさんず」のように積極的にイベントを展開し生産者の思いを伝えるとともに、JAすかがわ岩瀬「はたけんぼ」では郷土料理教室を開催するなど「食育」にも取り組んでいる。JA紀の里の「めっけもん広場」は「あるものを売る」から「売れるものを作る」ために品目別に生産数量目標を設定し営農指導部門とも連携した計画的な生産拡大運動に取り組み、消費者ニーズに応えようとしている。また、今回紹介する3つの事例では、いずれも「野菜ソムリエ」の資格を取得したJA職員が生産者と消費者をつなぐ重要な役割を果たしていることも忘れてはならない。


定期的な情報発信で生産者と消費者の交流進む

◆生産者の思いを伝える「はたけんぼ通信」

JAすかがわ岩瀬
 JAすかがわ岩瀬(福島県)は15年6月、生産者の手取り増大、多様な販売先確保等を目的に「はたけんぼ」を立ち上げた。運営はJAの全額出資子会社『(株)JAあぐりすかがわ岩瀬』が行っている。須賀川市を南北に走る東北自動車道須賀川ICの近くに位置し、車で買い物に来るお客のためかなり広い駐車場を持ち、入口に立つ大きな案内板は遠くからでも目立つ。
 「多くの人に利用してもらうには何をしたらよいのか、最初は全くの手探り状態でした。しかし、生産者がどのような気持ちを込めて農産物を作っているかという思いを消費者に伝えるのが我々の役割だと考え、昨年の春から“はたけんぼ新聞”を春夏秋冬と季節ごとに年4回発行しています。生産者からのメッセージ、生活の豆知識、料理レシピ、季節に合わせて行われるイベントの報告など、お客さんに役立ちそうな情報を掲載し、生産者の『食』にかける思いが伝わるよう心がけています」。総合フードグループ企画管理チームで編集担当者の澤山聖美さんは、新聞発行の経緯を語る。
 はたけんぼ新聞はA3用紙の表裏カラー印刷で、写真やイラストが多く、読ませる工夫がされている。毎号3000部をレジの横に置いてお客さんに持っていってもらう形を取っているが、毎回2〜3週間でなくなる程好評だ。新聞に対してお客さんからの反響も大きく、食の安全や地元産野菜などについて多くの意見が寄せられるようになった。
 「消費者が一番望んでいるのは『安全で美味しいもの』。また、生産者に話を聞くと、多くの生産者は“自分の作ったものを美味しいと言って食べてくれること”が一番嬉しいと話してくれた。食に関して、生産者も消費者も同じ思いを持っていることを知りました。生産者には安全で美味しいもの作ってもらい、それを私たちが自信を持って提供する、はたけんぼをそんな場所にしたい」と澤山さん。また、生産者が自分の生産したものに強い誇りを持っていることを改めて知ることができたことも語った。
郷土料理教室
郷土料理教室

農家の主婦を講師に
地場食材で郷土料理教室

◆消費者との交流で変わった生産者の意識

 はたけんぼ新聞に続いて、昨年10月からは地元の管理栄養士の指導のもとに、食べることの大切さ、栄養についての知識等をまとめた「食育新聞」を2ヵ月に1回のペースで発行している。これは食が健康に果たす役割など、主に食と健康をテーマに取り上げ、中高年のお客さんを中心に関心を呼んでいる。また、地元産の野菜を食材とした郷土料理教室も開催しており、講師に農家の主婦など地元で生まれ育った人を頼んでいる。料理教室は好評で、リピーターも多い。
 それらの活動を通じて、生産者と消費者の距離がオープン当初よりもかなり近くなったと澤山さんは感じている。新聞などを通じて個人やグループで生産者と消費者が交流しているケースも生まれてきており、はたけんぼを中心として地域の農業をみんなで支えていこうという雰囲気が作りだされつつある。
 しかし、生産者の多くが高齢者であると同時に、はたけんぼのお客さんも40〜60歳代が多く、若い世代を取り込み老若男女をお客さんとすることが今後の課題だ。そのためには、子育て世代のお母さんお父さんを対象に、子どもの健康に役立つ野菜や嫌いなものを克服できる料理方法を紹介するイベントなどによって20〜30歳代をはたけんぼに取り込むことが計画されている。
 現在、登録されている生産者は約750人。そのうち3分の1の生産者が毎日農産物を届けにくる。品切れなどがないようになるべく多くの生産者に声をかけており、登録者も増えてきた。また、はたけんぼがオープンし消費者と交流する機会が増えたことで、以前は出来たものを出荷していたが、今は出荷するために作るというように生産者の意識も変わった。

◆地域農業を守るサポーターへ

はたけんぼ

 オープン当初、1日平均1000人程度の来店者であったが、現在は平日が1200〜1300人、土日には約2000人が訪れる。売上は16年度が7億2000万円、17年度が8億5000万円(見込み)で、将来的には10億円をめざす。
 「買ってもらうために、生産者には厳しい注文を出します。しかし、作った物は我々が責任を持って売るから、安全で美味しいものを生産して下さいと生産者には言っています。お客さんとともに、我々スタッフ一同は生産者のサポーターとなって、地域の農業を守っていこうと思っています」。店長の佐藤貞和氏が最後にこう語ってくれた。
 訪れたのは平日の午後であったが、広い駐車場には車が多く止まっており、店内はかなりの買い物客で混雑していた。はたけんぼは地域の中にしっかり定着している感じを受けた。

(2006.1.25)



社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。