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特集 生産者と消費者の架け橋を築く女性たちの役割 | ||||||||||||
生産者の女性たちへのメッセージ | ||||||||||||
「世の中が悪くなると女は元気になります」 〜「食」で活躍する大消費地の女性たちからの期待〜
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◆地域づくりを進める
尾澤 東京の南東部をエリアとする生協で、いろいろ勉強しながら活動しています。食のことだけでなく、福祉や環境など生活全般にわたることを地域住民とともに考えていく“まちづくり”も進めています。 増子 私は循環型社会を目指して、地域づくりの活動をしています。最初は水処理問題に取り組みました。やがて食が危ないということで、日本人の食の柱はお米と大豆だと考え、安心でおいしい品質のものを作る所を探しました。しかし思わしい所が見つからないため、自分たちで作ろうと東京で生産グループを立ち上げて5年目です。 山本 私は情報処理業が本業ですが、仕事の中で環境とか地方の自立とかJAなどとの関わりが増えてきました。しかし統計などから結論を導いて、その対策を提案するには実際にコトに当たってみないと、よくわからないという問題意識から、故郷の新潟・佐渡に関わって地域起こしに取り組みました。 ―― みなさん大活躍をされているんですね。さて最初の論点ですが、この冬は寒波と豪雪がひどく、農作物の生育に被害をもたらし、物流にも響いて出荷できない農家は減収に悩み、一方で野菜や果物の価格高騰で消費者は困っています。尾澤さん、対策はいかがですか。 ◆再生産できる価格を 尾澤 そうですね。私どもの生協は山形のJAと提携し、登録した組合員は一年間そこのお米を購入し続ける約束をしていますが、93年の冷害を契機に基金を造成しています。それを一昨年の潮風害で取り崩し、あっという間になくなってしまいました。そのため組合員にカンパを呼びかけたりもしており、その他の対策もありますが、まだつかんでいません。―― 価格変動を緩和するための基金ですか。 尾澤 いいえ、本来安定した取り組みのための米の開発が目的ですが、生産者の再生産が困難な状況になったことで使いました。再生産ができる価格で作物を引き取るという考え方が基本です。産地からの買い付け量も前もって約束をするため組合員の購入申し込みが少ないとあわてる時があります。 ―― 価格が高くなると、すぐ輸入物に走るとか、品薄の場合、スーパーはカット野菜の工夫をしたりしますが、輸入依存についてはどう思いますか。 尾澤 世界の食料危機が予測されていますが、もっと具体的に中国の問題があります。さらに経済発展をして、食料の輸入大国になった場合、日本に回ってくるものがなくなるんじゃないかとも予想されます。もし、そんなことになったらどうするのか。手をこまねいていてよいのか、こわい感じです。為政者はどう考えているのでしょう。 ◆情報を阻害する流通 ―― 農業生産をしている増子さんとしてはいかがですか。増子 農業は工業製品を造るのとは違うということを肝に銘じるべきですね。命を育むものを作っているのですから。しかし農業経営の採算性を考えると“命”の部分と引き換えに何かを失っていくことになるので、そこをどう踏まえるかですね。 ―― 山本さん、どうぞ。 山本 そうした問題に対するJAの役割をいえば、消費者にわかってもらい、協力を得ることです。そのためには正確に生産者側の情報を提供し、産地振興なども含めて、今後どうしていきたいのかを、本気で消費者と話し合う必要があります。 尾澤 生産者と消費者の間にJAなどの流通があるから、お互いに直接顔が見えないのかどうか。生協のありがたいところは直接生産者の顔が見られることです。 山本 ターゲットを絞って生産し、そして流通をどうするかを考える必要がありますね。 ―― 流通が論点になりました。増子さん、どうぞ。 増子 間に流通が入ると消費者の情報が生産者にうまく伝わらないという問題、それから流通コストが高いこと、この2つの問題をどうクリアするかです。消費者は「流通コストを食べている」といった感じもあります。 ◆社会不安の原因問う
―― 流通合理化が叫ばれてから久しいのですが、具体的に一つ一つの改善を進めるとなる大変です。では話題を先ほどの輸入問題とからめて安全安心のほうへ移したいと思います。 増子 私たちは輸入品は扱いません。出所不明のものを扱わないというのが原点です。 人間の体は食べ物で、でき上がっていると思います。また食が崩れるのは社会不安のもとといわれます。異常な事件が増えていますが、思いもよらぬ行動を起こす人はやはり脳に問題があるのではないでしょうか。 ―― 近年の異常な犯罪と食と脳の関係などに話が及びました。では山本さん。 山本 相手を理解することよりも自分の主張を先に立て、人の話を聞かない、成長していないというヒトが増えましたね。生物のヒトから人間へと成長していないのです。それが問題です。 ◆営農指導をきちんと ―― 生協の場合は農薬についていかがですか。 尾澤 日本の気候では無農薬でやるのは大変だと思います。 増子 いや、それほど大変じゃないんですよ。 尾澤 でも大量に供給していくのは大変なことだと思う。 山本 土から変えていかなくちゃいけないから大変ですよ。 増子 土を変えるには時間がかかりますが、後は余り手をかけないでやっています。 山本 そこでね。私はJAさんなんかに営農指導をきちんとすべきだといいたいのです。今、何をしなければいけないかということをきちんと把握して農家を教育すべき人たちや組織が、もっと営農指導を強化してほしいと思います。 増子 農業者の土とのコミュニケーションがとても薄くなっています。 山本 そうですね。 増子 だから農薬にしても即効を求めてパッとまく感じですが、農薬も化学肥料も高いのですよ。だから農家の方はもう一度、農業経営の採算性を把握して、土とのコミュニケーションを取り戻していったほうがいいんじゃないかと思います。 尾澤 農家には現状の枠組みを変えて危険を冒す気にはなかなかなれないというところがあるのだと思います。だから消費者は自分の要望や意見をもっと農家に知らせるべきだと思います。やはり農業に誇りを持ち、安全安心の目標を掲げてがんばっていらっしゃる農業者を見るとほんとにかっこいいと思います。 ―― 増子さん。米や大豆を作るご気分はどうですか。 増子 食べ物のことがわかってくるし、楽しいですよ。私たちの倶楽部は農業特区への参入で新潟県では第一号に認定された生産グループで構成員には母子づれや若い人、学生もいます。 ―― 農地というのは耕作放棄地ですか。 増子 いえ休耕田や以前の葉たばこ畑などです。もう少し説明しますと、東京都内からボランティアで新潟へ稲作、大豆作に出向くわけで、参加は誰でも自由です。田植え、草取り、稲刈りと作業は年間何回かありますが、そのうちの1回だけの参加でもOKです。 ―― ユニークな活動ですね。大豆の自給率向上にも貢献しているわけだし。 ◆生態系を守っていく 尾澤 農地の活用についていいますと、東京23区内で世田谷は畑の多いほうですが、それでも耕作地は一部分だけという感じです。だから遊休農地を農業体験園などに活用できないものかと思います。少しでも農業を体験すると、その人の食と農に対する意識はぐんと違ってきます。 山本 生態系が崩れると、化学肥料や農薬を使わないと商品ができなくなります。作物はできても、その作物が商品にはならないのですよ。 増子 土と水ですね。 山本 それは、酸性雨がどんどん降ってきては困りますが、農業はとにかく土です。 ―― 土壌や生態系について消費者教育も大事です。 増子 だから私たちは「自然食の健康食卓」の店で、この商品は東京のグループが新潟へ行って、みんなで作ったお米と大豆ですと生産履歴をくわしく写真つきで紹介しています。 ―― 佐渡の特産品販売のほうはどうですか。山本さん。 山本 それがね。佐渡島は大消費地の首都圏と離れているから生鮮食料品の輸送には冷凍が必要です。だから加工品を作らないといけないのですが、まだ商品化されたものが少なくて苦労しています。例えば核家族に合わせたパッケージにするとかの工夫が進んでいないのです。 ―― JAの対応は? 山本 全国の地域起こしについて、会社運営も含めた一般論でいいますと、私たちは情報を分析して提供しますが、それにもとづいて自分がどうしたいかを考え、判断するのは事業主体です。何か新しいことをやろうといっても、その地域や組織が自立的によしやろうという意識にならなければだめです。 ―― 内発的な変革の意欲が必要だというわけですね。 山本 外部からの提案が非常によいと思っても、それをやって失敗したら責任をとらなくてはならないから行動に移さないという面も組織にはあります。 ◆生きることが困難に
尾澤 新しいことをやる時には、やはり仲間がいるかどうかを考えますね。同じ夢を見ることのできる人がいるかどうかです。一人で声を挙げても、人を動かすのはなかなか困難です。 増子 しかし最初から仲間がいるわけではないから、まず声を挙げる必要があります。すると何か共通するものを感じる人たちが集まってきます。 山本 こうしたいと最初に思った人が、たった一人でも、それをやることです。そうしないと変わらない。そういうパワーを持った女性が結構いるんですよ。 ―― そういうやり方は男よりも女性のほうがやりやすい面があるのじゃないですか。 山本 男性と女性は根本的に違います。女は命をつないでいきます。それが私たちの仕事です。 ―― 男の仕事は? 山本 男は女性に「お願いします」と頼んで、命の継承にちょっと力を貸してくれるだけです。だから立ち上がった女は、命を継承するために、本能的に立ち上がらなくてはいけないというDNAを持っているんです。 ―― かつての戦争中も女性は元気だったという見方がありますが、現在の危機意識というのはどういうことですか。 山本 目に見えないところで命の継続を困難にする事態が発生していることを敏感な女は第六感で感じているんです。だから何とかしなくちゃいけないと立ち上がっているんです。 ◆スローライフ推進を 増子 現在の状況では、危ないものをいっぱい食べさせられたりして健康に生きられない危険がありますから、やはり自衛しなければいけない時です。―― 平和、地球環境、健康と問題は多いですね。 山本 寿命がある限り健康で生きたいですもんね。 増子 健康を自分できちんと守っていけば医療費を心配しなくてもいいと思います。 ―― 消費者家庭と農家の食事について健康的に違いがあると思いますか。 増子 農家は、おばあちゃんが昔ながらの農法で作ったものを食べているかといえば、そうでなく、お嫁さんなどがスーパーで買ってきたものを食べる家が増えています。それで、おばあちゃんの作物が余ってくるので、私たちはそういう野菜を店へ送って下さいと頼んでいます。 ―― どうして自家で作った野菜を食べないのですか。 増子 泥がついているのはいやだとか何とかいってね。 山本 いえ、自然農法で作った自然食は、スローライフに見合っていて、手をかけて料理しないと、おいしく食べられない、しかし若い人は手をかけたくなくて、レトルトで済ませたいからです。 尾澤 半製品などを買って手早く済ませようとしますね。 山本 だから最初からミートソースを作る人なんてほとんどいない。でき上がったハンバーグを買ってきてフライパンで焼くだけといった人が多いのです。 尾澤 世の中で発信されているほとんどの情報が、そういうことをよしとして、また当然としています。だから、その中で育ってきて、レトルトなどの選択肢しかなかった若い主婦たちにとって、それが悪いこととは思いもよらないことなのです。彼女たちの母親もまた手をかけた料理を作らなかったのですから、そうじゃない方向に行くのはとても大変なことだと思います。 ―― 昔は母親がみそ汁の具を刻む音で目を覚ましたなどという子どもの作文がよくありましたが。 山本 いや、それは今でもやっていますよ。朝の台所仕事は。だけどみそ汁を飲まない人が増えましたね。 増子 それはみそがおいしくなくなっているからです。一般的な市販のみそは、みそじゃない。熟成していない。最低でも1年間は熟成させないとだめですが、でも、そんなことをしていたら恐らく大量生産には合わない。資金が寝ちゃうから。 山本 2週間くらいで出してしまうんでしょう。 増子 だから私たちはもう一度ほんとうのおみその味を少しでも味わってほしいと、おみそ作りをはじめました。 ◆共働き家庭の食生活 ―― 昔の農家は自家で作った大豆でそれぞれみそも作っていました。しかし手がかかるためもろみだけは、みそ会社から買うようになり、その後はさらに、みそそのものを買うようになりました。そしてメーカーは防腐剤などを添加するようになったという経過があります。 増子 昔のみそはそのままで十分にご飯のおかずになりました。みそをつけたおにぎりのおいしかったことも思い出します。今そうした味の復活に取り組んでいます。 尾澤 私たちは今のおみそに慣れてしまって、ほんもののおみその味を説明されても実感がわきません。しかし生協運動の中でメーカーに半年熟成のものを注文し、その次には1年熟成のものを求めています。やはり市販のものと食べ比べてみると、はっきり味の違いがわかります。 増子 みそには料理の隠し味に使うとか、いろんな使い道があるんですよ。 山本 しかし、そうした料理を作らない、作れない人が増えているという問題があります。例えば子どもからアサツキの酢みそを作ってと注文されても作れない母親ばかりでしょ。みそを使った日本古来のおかずを作れない状況になっています。 増子 それでね。健康食卓の店では売っている素材に即した簡単でおいしい食べ方を、たくさんおそうざいとして作って出して提案しています。そして麩とかね。日本の昔からある栄養価の高い食材を勧めています。 ―― サラリーマン家庭では夫婦共働きだから、主婦は料理に手をかけないということが、ずっと前からいわれていますが。 山本 共働きだから食をおろそかにしているなどといわれるとカチンときます。 ―― 共働きと手抜きには余り関係がないのですか。 尾澤 共働きだからどうのこうのといわれたくないので逆に一生懸命、食事に気を配っている人や、また子育てが終わったから食事は簡単に済ませているなどいろいろですね。傾向をひと括りにはできません。その中でも話をしてみると、きちんと食事を作るということが大切だと思っている人が結構います。 ◆伝統食がやはり一番
―― そういう体質はやはり食事から来ているんですか。 増子 それ以外にないと思います。食は体のもとだから。 山本 母親の体も問題です。 増子 そうです。母親の食べたものの蓄積が子どもにいっちゃうんですよ。 ―― それは増子さんの主張する自然食で直りますか。 増子 直りますよ。 山本 すぐには無理ですね。 増子 時間はかかりますが、的確にきちんとした食事に戻していくと、出ていた症状が引っ込むとかね。もちろん洗剤の問題とかもありますが、ベースは食にあるという感じです。 尾澤 日本列島の風土の中で作られたものを2000年以上も食べ続けて日本人の体が作られたわけですから、急激な西欧化で子どもたちの身長が伸びたなどといっても根本的なところでは対応し切れていないだろうとよくいわれますね。だから、ご飯にみそ汁といった伝統食がやはり一番ではないでしょうか。私も以前はそうではなかったのですが、近年はご飯にみそ汁が元気の一番のもとです。 ―― さて、今後は増税とか社会保険料の引き上げなどで国民負担が重くなり、家計が苦しくなります。その中で食費を削るような傾向も出てくるのではないでしょうか。 ◆農協は変わったか? 増子 病院へいけばカネも時間もかかります。医療費が必要にならない前に早い目に自分の体に投資をして食費にカネをかけ、健康を確保しておくべきですね。 尾澤 若者の中には食費を削ってでも遊ぶカネがほしいという人もいますから、食べることの意味、その大切さを伝えていく必要があります。 山本 食事に手間をかけることが大切です。例えばてんぷらでも衣をつけた半製品を買ってきて揚げると高くつきます。それよりも素材を買ってきて自分で小麦粉を練るところから始めれば安くてすむし、また味もよくなります。 ―― では最後に、今進められている農業の構造改革やJA改革について、感想があればお聞かせ下さい。 山本 世の中が変わってきているのに農協は以前と余り変わっていないように思います。 増子 私は昔、農協が組織されていったころのほうがよかったのじゃないかと思います。例えば今は何か銀行さんのようになっちゃったりして。 山本 そりゃ昔は事業環境などに対応する農協の価値がありましたから。今は価値が発揮されていないと思います。
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(2006.1.30) |
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