◆仲間が少なくなるなかでどう活動するか
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かわて・とくや 昭和35年神奈川県生まれ。東京大学文学部社会学科卒。農林水産省農業研究センター研究員、同農蚕園芸局婦人・生活課、同東北農業試験場および東北農業研究センター研究室長等を経て平成17年4月より現職。 |
川手 わが国の食と農をめぐる状況がきわめて危機的な中、農業生産のみならず、生産者と消費者の架け橋を築く活動が女性農業者に期待されています。今日は、このテーマについて、お二人がどんな活動をしているのか紹介してもらいながら考えてみたいと思います。まず、自己紹介からお願いします。
大平 私は子どものころから農業をやっていたので、食いっぱぐれのない仕事は農業だと農業高校を卒業して、結婚後も農業をしています。
最初は手伝い程度だったのですが3人目の子どもができたことをきっかけに自分で農業をしたいと補助事業でビニールハウスを建てて、おもにハウストマトの栽培と地元で盛んなニンニクをつくっています。
それから、ソバの産地でもありますので女性部員が栽培しているソバを使ったおやつをつくってみてはどうかという話から、最近では私が中心になって試行錯誤してエゴマも加えたかりんとうも作って販売するようにもなっています。これは地元のテレビでも紹介され結構評判になってきました。
ただ、地域では若い女性たちは農家に嫁いでも農業をする人が少なくなっているのが現状です。私は38歳ですが、周囲で農業をしているのは私より年上の女性ばかりです。農業はもうやらないという人がほとんどで、勤めているので、いくらフレッシュミズに入って活動しようといってもなかなか難しいですね。子どもたちが通う学校が遠く親が送り迎えしたりなどで母親が忙しいということもあります。
そこで子どものクラブ活動が同じおかあさんたちにも呼びかけて、農家でなくてもメンバーになってもらうように工夫しています。そうしていかないとJAの活動に関わっていける人がいなくなってしまうなと思いまして。実際、そういう女性たちが部員となりかりんとうの加工など一緒に作ります。
フレッシュミズの活動は、先生を呼んでフラワーアレンジメントの教室や陶芸教室、地元の農産物を使った料理教室などを開いています。それから千葉の幕張メッセで開かれる「自慢市」に女性部と共に出展したり、地元のスーパーでの故郷味祭りに漬け物など加工品や、ハウス栽培のネギ、小松菜などを販売していますが、みんなお金になると喜んでいます。ただ、私はフレッシュミズの部会長や直売活動、学校関係など役員を、若い人がいないからとなんでもかんでも引き受けさせられて、これは役害だ、って言ってます(笑)。
◆女性の意識改革と家族の理解
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きよとう・みか 昭和39年生まれ。平成11年フレッシュミズ部会入部。ハウスミョウガ45アールを栽培。夫、夫の両親、祖母、子ども3人の8人家族。 |
清遠 高知県安芸市で家族でハウスみょうがを作っています。面積は45アールほどで、時期を少しずつずらして作付けをして、一年中、どこかでみょうがが穫れるようにしていますから、かなり忙しい毎日です。
女性部の活動としては県のフレッシュミズの部会長をやってますが、実は地元ではあまり活動が活発じゃないんですね。仲間づくりが優先です。なかなか新入会員もいませんし、加入しているメンバーもなにか行事をやっても出てこない。いかに呼び出すかということに苦労してます。
ですから、加工品づくりなどにはまだ着手できていなくて、仲間づくりのために趣味をいかした活動をと考えて、一昨年は月に一度集まってビーズでアクセサリーを作る活動をしていました。勉強会、研修会というと集まりが悪くなりますし。それでもどこかに視察に行くという遊びの部分が多いと参加者が増えるんですね。それ以外だと、家の事情だ、子どもの面倒を見なくては、となってしまう。意識改革をどうするかが今の悩みです。
それから家族の理解の問題もあると思います。たとえば、日帰りで視察旅行に行くといえば、きちんと予定を立てて参加するよ、といっていた人が、夫がその日に人手のかかる作業を入れてきたから行けなくなった、と愚痴をこぼされたこともありました。自分たちの意識改革も大事ですが、家族の意識も変えていかなくてはこの先なかなか大変だなと思っています。
川手 地域の女性たちの抱える事情が分かりますね。さて、今日のテーマは、食と農の再生に向けてどのようなことをしたらよいのか、特に、大きく離れてしまっている生産者と消費者の間をいかにしてつなぎ直すか、その時、女性農業者がどのような役割を果たせばいいのか、ということです。まず食と農に関わることで、最近、問題だなあと思っていることを話していただけますか。とくにお二人とも専業的に農業をやっておられるわけですから、いろいろ感じておられると思います。大平さん、いかがでしょう。
◆次世代に食への関心をどう持ってもらうか
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おおだいら・めぐみ 昭和42年生まれ。平成7年女性部入部、現在はJA八甲田フレュシュミズ部会部長、青森県フレッシュミズ代表理事。夫と中3、小6、小5の子ども3人の5人家族。 |
大平 消費者が求めるのは、有機野菜、無農薬野菜といいますが、実際、虫が付いた野菜や穴のあいたものは、とくに若い人は買わないですよね。若い人ほど買わない傾向が強いです。
川手 年配の人たちはそうでもないということですか。
大平 やはり町中に住んでいる人は、年配の方であっても敬遠すると思いますね。
農村部でも、若い人たちはそういう野菜は買わないと言って等しい。おばあちゃんたちがよく言うんです。せっかく家で作っているのに買ってくる、って。それで何を買ってくるかといえば安い輸入野菜だったりします。見た目がきれいならいいものだという感覚ではないかと思います。
それから今は、田舎でも自宅で餅つきするところは少なくなりました。まして臼でつく人なんてなかなかいないです。私が子どものころからもう少なくなっていて、実家ではわざと道路端に臼を持ち出して餅つきをしていましたが、みんな集まってくるような状況でした。
学校農園でモチ米を作らせて親も参加して餅つきをするんですが、今の親たちは何をしていいか分からない。モチ米の蒸し方、伸し方も知らないわけです。
学校農園では野菜も作っていますが、農家じゃない家庭の親が指導するとうまく穫れないと評判が良くなくて、私のような農家が手伝っていますが、おかあさんたちのほうが栽培の仕方を教えてとやってきます。
川手 大平さんが生活されている青森県七戸町は本当に落ち着いた農村ですよね。東京で今のような話を聞くのならまだ分かりますが、農村でもそういう状況になっているわけですか。
大平 山菜だって家の裏山に行けば採れるのに、若いおかあさんたちは買ったものでなければ、また山菜料理の仕方がわからない人が多いという。カット野菜も買ってますから。
川手 宝の山を自ら放棄するようなもので、食と農、豊かな自然環境を生かせないという状況があるということですね。清遠さんはいかがですか。
清遠 食育が大事だと言われてますから、学校からJA女性部に依頼があって、地元の農産物を使った料理教室を開いています。JA土佐あきはナスの産地なのでナス料理を中学校で教えたりなどしていますね。
地元の農産物を知ってもらうという点では直売所だと思いますが市内に4、5軒あります。そこに昨年から月に2回、女性部も出荷することにしました。ただ、私のように専業的に農業をしていると忙しくてなかなか出荷できないし、直売所に出すようないろいろな野菜を作ることもできないわけです。だから、引退したおばあちゃんたちが家庭菜園で作ったものを出荷しています。
それでも私の子どもたちはそうやっておばあちゃんたちが作っていますから、土のついた野菜を知っています。ただ、それはいいことだと思いますが、今の子どもたちは忙しすぎて料理を作っている姿を見る時間はないんですね。主人も中学生の娘には、もう少し料理も、家のことも手伝え、と言いますが、クラブ活動などで家に帰ってくるのも遅く料理するところを見る機会もないわけです。畑から大根と穫ってきてそれを切って煮てそれで料理になる、ということを見る時間がないですね。
◆自分なりの工夫が地域の農業を元気に
川手 清遠さんの地域でも食と農が離れてしまっているような状況があるわけですね。ところで、主力のみょうがについて販売する上で消費者や実需者に理解してもらう工夫としてはどのようなことをされているのですか?
清遠 市場関係者が視察に来たときには、みょうがの料理をつくって試食してもらっていますし、JAではナスの販売促進のためにナスとみょうがを組み合わせた料理なども各地で提供して宣伝してくれています。
それらからみょうがの茎ですが、これを私は甘酢漬けにして月に2回の直売所での販売には出荷するようにしています。これは今まで捨てていた部分ですが、漬物メーカーではやはり大きさが不揃いなので商品にはなりにくいと言われて、それならもったいないから自分で漬物にしようと。
大平 私の場合は、フルーツトマトや料理用のイタリアントマトなども作って出荷しています。最初は消費者の方は食べ方が分からなく、そのまま食べても味がしないと、人気がありませんでした。それでもだんだんとテレビなどでクッキングトマトが紹介されると、買う人が増えてきました。フルーツトマトも秋になれば糖度が13度ぐらいになってすごく甘くなるんですね。どうやって作っているの、と電話で問い合わせもありますが、これは自然の味です。
川手 クッキングトマトなどを生産してみようというきっかけは何でしたか。
大平 5年前にドイツ、デンマークに視察研修旅行に行く機会があって、スーパーなどでいろいろなトマトが売っていてそれで自分でも作ってみようと。まだそのころは私だけが作っていましたが、昨年あたりからはJAも料理用トマトを生産してみようということにもなってきました。収量も多く安定しているということで今年から切り替える人も増えるようです。
川手 大平さんが始めたことがきっかけになって地域全体で新しい品種づくりに取り組むようになったわけですね。
お二人のお話を聞いていると女性は、生産から加工、おいしい食べ方、料理の提案まで担当していて、そのウエートは、いままで言われている以上に高いかもしれないと感じますが、パートーナーとのご関係はどうなのでしょうか。
清遠 みょうが生産の中心はやはり夫が中心ですから、ウエートが私のほうが高いということはないと思います。ただ、加工や販促活動のために料理を作ることなどは私に任されていますし、それから女性部活動も理解してむしろ積極的にやれ、と言ってくれてます。
大平 農業は私自身の仕事で夫は会社員ですが、ニンニクなども直売所に出荷していると売上げも結構な額になります。だんだん額が増えてくると夫もじゃあ手伝うかという感じになって、直売所に持っていってくれるようになりました。やはりやっていることの成果が出てくると違ってきますね。
◆家族内での責任、役割分担が女性の意欲と活力に
川手 大平さんは独立して自分の経営として農業をやっているということですが、意欲を持っている女性の場合、家族で農業をやるよりかえって一人でやったほうが自由に創意工夫を発揮できるのかもしれませんね。
大平 確かに作る作物や、主力のトマトと直売所に出荷するものとの割合だとか、そこは自分で考えていくことができますね。時間の使い方もペースも自分なりに決めていくことができますから。
川手 清遠さんは、いかかですか。
清遠 義父母は自分たちが苦労したこともあって、私たちが結婚後、すぐに収入を分けてくれました。私たち夫婦で働いたハウス栽培の収入分はきちんと計算してくれるということでした。恵まれていたと思います。今は、私たちは独立してハウス栽培をするというかたちになっています。
川手 お二人のような話はまだ少ない例かもしれませんが、女性が活躍していくためには重要なことだと思います。
大平 自分のものが持てるということが大事だと思いますね。直売所でも自分で作ったものが売れるということになればどんどん自信がつきますし面白くなります。
川手 やはり家族のなかでも責任分担、守備範囲をきちんとする。そしてその範囲では自分の裁量で自由にできるということですね。そうしたことが女性が外にも出て行けるという条件にもなるということですか。
清遠 そうですね。きちんと責任分担があると仕事にも一生懸命になるということだと思います。がんばったらがんばった分だけ自分たちの収入になるということが当初からはっきりしていたことはよかったと思います。家族協定を結んでいるわけではありませんが、実質的には同じことになっていると思いますね。
川手 繰り返しになりますが、少なくとも農業をするにあたって自己裁量の部分がきちんと確保されることが大きいということですね。では、そうした状況をつくるためにはどうすればいいでしょうか。
大平 女性部活動に参加している人はかなりそういう自己裁量の面が多い人だと思います。問題は、なかなか参加できない、しない人という人ですが、それは自分で責任を持たされて決められる部分がないのではないかと思いますね。
どうしたらいいかと考えると、ひとつは家族に理解してもらうという点で、県、JAなどから、なんとかお宅のお嫁さんにこの役をやってもらいたい、と言ってもらうということも大切ではないかと思います。そうなれば家族も考え方が変わるかもしれません。
それからいろいろな会合の案内も本人への郵送ではなくて、必ずファックスで流してくださいと私は頼んできました。家族の目に見えますからね。
◆一人ひとりが輝くための女性部活動に
川手 子どもにとっても両親が元気で活躍している姿をみるということはとてもいいことだと思います。もちろん全員がお二人のように積極的に活動できるわけではないでしょうが、自分の裁量で使える時間やお金があるということをどうつくるかを考えていかなくてはいけないということですね。その点でもJA女性組織のグループ活動などの果たすべき可能性は大きいわけで、課題となっている若い世代の新規加入者を確保するきっかけとなるのではないかと思います。
清遠 仕方がないとあきらめている人も多いと思いますが、そうではなくて外に出てきたいという機会をつくらなければ、と思います。だから、私たちとしても行ってみたいと思うような楽しい行事など企画することも大事なのかなと考えています。
近所に私よりも若いお嫁さんがいて、子育てと農業に忙しくてなかなか外に出て来る機会がないといっていたのでみんなで誘って先日フレッシュミズの新年会をしたのですが、非常に元気で盛り上がりました。びっくりするほどパワーがあるんだなと思って、実は私はその人は30歳代前半なのでなんとかフレッシュミズ部会のリーダーになってもらいたいと思っていたのですが、期待したいと思っています。
だから、最初はそういう新年会のような集まりでもいいから、そこからどう活動をつくっていくかですね。
川手 その場合、テーマにしていただきたいのがやはり食と農ということだと思いますし、そうした活動がJA女性組織に期待されているのだと思います。食と農というテーマは大変な広がりのあるテーマだと思います。
大平 先日、食農教育のテーマで東北・北海道ブロック会議があったのですが、話題になったのは学校給食を担当する栄養士さんたちが旬の野菜を知らないということでした。どの産地からどの時期にどんな野菜が出てきているのか、それを知らないので地場産のものを学校給食に使おうといってもなかなか浸透しないといいます。
そこでJAとしてもどの時期にどんな野菜が出るのか、一覧表にして示すといった取り組みから始めようということになりました。実際にJA職員が給食センターにそうした表を作って配布しているという例も報告されましたが、そうしないと子どもたちにも今どんな野菜ができているのか分からないということです。
◆料理をきっかけに食を変える
川手 それは結局、生産から消費の間の距離があまりに広がりすぎているからです。戦後の高度経済成長以降、食と農の生産性や経済効率をあげていくため、生産から消費に至る過程を細かく専門分化して分業してきたわけですが、それが今、行きすぎになっているということだと思います。
それと、経済効率をもとめるあまり、食と農を全部コントロールして、画一化するという発想になっていることも指摘したいですね。食について典型的なのが料理のレシピです。言われてみるとわかると思うのですが、まさに、いつでもどこでもだれでも同じ味、同じ栄養という世界です。旬とか地域や作り手の個性、食材の生産現場が一切見えないような書き方をしているものが大半です。それを徹底しようしていることへの反省から心ある栄養士さんたちは変えようと努力もしていますね。そういう人は農家のおかあさんと一緒になって変えていこうという動きも出てきています。
清遠 たしかに地元でも棚田で穫れた米を学校給食に使い、しかも各教室に炊飯器を置いて子どもたちに炊かせて、炊きたてをお昼に食べるということをしている栄養士さんもいますね。それから給食メニューのレシピにホウレンソウとあっても、今は時期じゃないとなると、直売所を回って旬の小松菜を仕入れられないか、という努力もされているようです。
川手 そういう取り組みと農家の女性がつながることも期待されますね。農家の女性というのは生産者でも消費者であるだけでなく、すぐれた料理人でもあり、しかも旬のときにはどっさりできる野菜を工夫して料理にするということも経験してきているわけです。生産と消費を結ぶポイントは食べることにあると思いますが、ただ食べるだけでは生産になかなか結びつかないと思います。一緒に料理するということを介して、生産の話につながげていけるのではないかと思います。JA女性組織の活動で食と農の再生に向けた取り組みを先頭に立ってお願いしたいと思うのは、そうしたことが一番出来る立場にあるからです。
そのためにどうすべきかを今日はお話を伺ってきたのですが、今日の食と農の再生に向けた取り組みを進めるには、かなり派手でインパクトのある活動をすることも大事ではないかと思います。たとえば、東京でファーマーズ・マーケットを開くなど、ダイレクトに消費者につながりつつ食と農についてアピールすることなどが必要ではないかと考えています。
◆消費者とのコミュニケーションが力になる
清遠 派手かどうかはともかく、直売所では当番制で店頭に立ち、対面販売することになるわけですが、これは生産者にとってすごく刺激になりますね。一度、対面販売するとまた行きたいという農家の女性は多いようです。私も自分が作ったものについて聞かれると非常に励みになるし、今度はこういうものを作って持ってこようという意欲にもなります。生産者と消費者が話すことが大事ですね。
川手 派手でインパクトのある活動が大事と言ったのは、コミュニケーションの面で、あっ、と思うような刺激になる取り組みが必要と考えているからです。いずれにせよ、コミュニケーションが力になるということだと思います。
さて、最後に今後の活動の抱負などを聞かせていただけますか。
大平 今、考えているのは子どもたちに農業体験の機会をつくることです。以前は地域に保育園があって、畑で収穫など体験させるとすごく喜びました。保育園の統合でそれができなくなってしまったのですが、近所のりんご農家の女性でりんごのもぎ取りをやらせたいという人がいますから一緒にやろうかなと思っています。
それから、かりんとう作りは、非農家の人と一緒にやっていますが、消費者とともにつくる仕事ですから、消費者からこういうものも作れないかという声を聞くことにもなります。私としてもこれから力を入れていきたいことですね。
清遠 私の場合は、とにかくフレッシュミズ部会が続けられるように後継者を育てることですね。メンバーが少ないのが現状ですが、今日、お話したように家族の理解も得られるように私としても活動していきたいと思います。
川手 みなさんのご活躍を期待します。ありがとうございました。
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食と農の新たな架け橋を築くための課題
−農村女性が食と農の再生の担い手として輝くために−
日本大学助教授 川手督也
◆求められる新しい食と農の関係づくり
今日、食と農をめぐる状況が危機的であることは、ここでいうまでもない。こうした状況が深刻なのは、今回の座談会でも指摘されているとおり、食や農や自然環境の豊かな農村においても都市と同様ということである。
今日の食と農の危機を引き起こした要因の1つは、食と農の間の距離があまりにも大きく離れてしまったことにある。食と農の間の乖離は、戦後の近代化の過程の中で、生産性や経済効率を高めるため、食と農が自立して発展していったことに基づく。食と農とが依存しあっていると、どうしても制約が大きくなる。農の側からすると、限られた地域での消費は少量多品目で、効率的な大量生産にはなりにくい。逆に、食の側からすれば、生産物は地域の風土に根ざしているので、品目の種類や時期による制約を受ける。お互いの制約から離れて、食と農がそれぞれ固有の論理に基づいて農業および食品産業などとして独自に発展し、全国的、さらには国際的マーケットを介して再び結びつけられるというのが、戦後の食と農の発展の方向であったといえる。生産から消費に至る過程は、さらに細かく細分化されて専門分化していった。しかし、様々な問題が生じている中で、21世紀もそうした方向でよいのかが問われており、新しい食と農と関係のあり方が模索されている。
こうした状況を打開する突破口を作る上で、農村女性が果たすことのできる役割は大きいといえる。今回の座談会における二人の女性リーダーの実践が端的に示しているように、安全・安心な農畜産物を供給し、環境にやさしい農業生産を営む農業の担い手、農業の多面的価値を活かした地域づくりの担い手、農を踏まえた食の担い手、さらには、食と農を結ぶつなぎ手としての役割は、生産者であり消費者でもあり、かつ優れた料理人でもある農村女性が担う可能性を有しているといえる。なかでも農村女性組織としてわが国最大のメンバーを擁するJA女性組織に課せられた責任はきわめて大きいのではないか。実際、食と農の再生に向けた取り組みに関連して、これまでのJA女性組織の活動を振り返ってみると、直売所の運営、学校給食への食材供給や農業体験活動の実施などの食農教育の面では、すでに各地で実践活動が行われており、数々の成果も生みだしてきたといえる。
◆社会的使命を果たすJA女性組織へ
1986年にイタリアで始まったスローフード運動は、日本に紹介されると、またたく間に大きなブームを巻き起こした。しかし、考えてみれば、イタリアから教えられることでもなく、日本には、長い歴史に育まれた独自の「スローフードな食卓」は存在したといえる。その土地で作られた食材を丁寧に料理し、それぞれの地域の風土に合った食材、料理を大切にする。言い換えれば、地産地消と伝統的な食事を重視すること。これは、JA女性組織の活動と一致している。今こそ、地域を巻き込んだ“日本版スローフード”といえるような運動につなげていくべきではないか。また、それだけの力が、農村女性には、すでに備わっており、社会に向けて発揮する必要がある。従って、JA女性組織にとって、食と農の再生の取り組みを先頭に立って行うことは、社会的使命といえるのではないか。
その際、活動の主体性とそれを担保する自主的財政の確保が必要であり、そのことによって、自立した組織への脱皮が必要とされると思われる。
また、農村女性が自己責任と裁量で活動できる場の確保が必要といえる。
座談会からも明らかなように、現状では、農村女性にとっての家族や地域社会は、そうした場になっているどころか、むしろ足を引っ張り、能力発揮や自己実現を妨げているケースも依然少なくない。このことは、足下からの男女共同参画によりいっそう力を注ぐことが重要であることを示している。また、JA女性組織の大きな課題となっているフレッシュミズ層の新規加入を進める手かがりとなると思われる。家族や地域社会が女性の能力発揮や自己実現の基盤となるよう働きかけると同時に、JA女性組織自体、多彩で多様な人材が集う開放的なネットワーク型組織としてメンバーの結集を図りつつ、明確な役割分担を行い、十二分にメンバーの能力や意向を生かす必要がある。特に、フレッシュミズ層については、次代の中核を担う主体であり、新しい感覚を有する実践者として明確に位置づけ、積極的にリーダー育成を図り、意思決定に参画することが必要といえる。
JA女性組織のメンバーには、勇気を持って必要な変革に取り組むことを切望すると同時に、JA関係者には、全面的で積極的な支援をお願いするしだいである。
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